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上原も加わったカブスのブルペンダンス-屋内ブルペンの恩恵とメジャーの流儀ー

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

5月下旬、カブスの本拠地球場リグレーフィールドのブルペンで味方打線が本塁打を打つたびに、中継ぎ救援投手陣がダンスをする姿が話題になった。選手たちが踊る姿は球場のスクリーンに映し出されるだけでなく、メジャーリーグ公式ホームページや球団のツイッターで取り上げられ、注目を集めた。

直接的なきっかけは、カブス-ブルワーズ戦の試合開始が雨のために遅れていたこと。この試合は結局、雨天中止になったのだが、中止が発表される前の時間を持て余したカブスのエドワーズ・ジュニアとブルワーズの中継ぎ陣が、それぞれのブルペンからダンスを披露し、ダンス対決を行ったのだ。

ダンスブームが起こったもうひとつのきっかけは、今年からカブスの本拠地リグレーフィールドに屋内ブルペンが設置されたことかもしれない。

リグレーフィールドは今シーズンからメジャーの球場では珍しい屋内ブルペンを設置。これまでは投手陣はファウルテリトリーで準備をしていたが、右翼席と左翼席の下のスペースを利用して屋内ブルペンが作られた。

客席、グラウンド、相手のブルペンからはブルペンの様子を見ることができない。そのため、中の状態が分かるように屋内ブルペンにはカメラとモニターがついている。中継ぎ救援投手たちのダンス対決も、「直接対決」ではなく、カメラの前で踊り、お互いのモニター越しに行われたもの。投手陣はブルペン内の固定カメラを意識して、カメラに映る場所で踊っているのだ。もし、カメラとモニターがなかったら、ブルペンのダンスブームは起こっていなかったかもしれない。

翌21日のブルワーズ戦では、カブスはゾブリスト、ブライアントの一発攻勢でブルワーズに大勝。本塁打のたびに室内ブルペンでは、中継ぎのエドワーズ・ジュニアを中心に、多くのピッチャーとコーチがダンスを披露。

ブルペンのベストダンサーを自認するエドワーズ・ジュニアは「でも、最後にリゾがホームランを打ったときには、踊っていないんだ。相手チームへ敬意を表してのこと」と言う。なるほど、リゾが本塁打を放った八回には一方的な展開になっていたため、メジャーリーグの不文律に従って喜びのダンスを控えたというわけだ。

前述したように、屋内ブルペンは外からは見ることができないが、一カ所だけブルペンの中をうかがえる場所がある。外野席下の通路からはガラス越しに室内ブルペンの様子が見ることができる。しかし、リリーフ陣が準備をする時間帯はブラインドが下げられた状態。ダンスパフォーマンスでファンを喜ばせる選手たちだが、始終、ガラスの向こう側から覗かれることはあまり心地よいことではないからだろう。

アンダーアーマーのロゴ部分がブルペン
アンダーアーマーのロゴ部分がブルペン

昨年までファウルエリアでウォームアップしていた投手たちは、空調完備の真新しいブルペンでさぞ快適に、と思いきや、開幕当初は違和感があったという。

開幕直後、中継ぎ右腕のストロップは「外と屋内ブルペンと温度差があるので、外が寒いときには指の感覚がちょっと気になったかな。あと、外の音が聞こえなかったんだけど、これは聞こえるようにしてもらったんだ」と話していた。

ツインズやオリオールズでも投げてきた左腕ダンシングはリグレーフィールドの新ブルペンについてこのように話した。「他球場でこのような室内ブルペンで投げたことはちょっと記憶にないかな。最初は音が聞こえなくて、試合と切り離されている感じがあったけど、それは改善してもらった。外の気候と室内が違うので、最初はその気持ちの準備も必要だった。でも、暑い日に太陽の下で座っているとエネルギーを奪われる。雨や風のなかにいなくてもいい。だから、最初はちょっと変な感じがあったけど、総合的には室内ブルペンから受ける恩恵のほうがはるかに上回っていると思う」。

上原は日本で室内ブルペンを経験している。5月下旬になっても気温が10度程度と冷え込んだ試合もあったが、温度調節された屋内ブルペンから外のマウンドへの適応も問題なし。上原は「それは4月に経験しているので、それはいまさらです」と話していた。夏の暑い時期はブルペンで日陰に座るなどの対策をしてきた上原にとっては、気温の上昇するこれからの時期には、より屋内ブルペンの恩恵があるかもしれない。

ところで、カブスのブルペンダンスが始まった日、上原は踊りの輪には加わっていなかった。しかし、25日のジャイアンツ戦では、チームメートがホームランを打ったときに、ブルペンで腕を突き上げてジャンプする「19」番の背中が、球場スクリーンに一瞬だったが、映し出された。

昨年、108年ぶりにワールドシリーズで優勝したカブスは、今シーズンはスタートからもたついている。得点力不足と先発投手陣が抑えきれないことが響いている。しかし、カブスの中継ぎ陣の成績は、防御率は3.23(1日終了時点)で、両リーグ通じて6位、ナ・リーグではドジャースに次いで2位である。

5月31日のパドレス戦では負け投手になった上原だが、メジャーリーグの35歳以上のリリーフ陣のなかでは、ファングラフスによる選手の総合評価指数WARは0.6でトップ。与四球、奪三振、被本塁打だけを使って守備から独立して投手を評価する指標FIPも2.34で35歳以上のリリーフ投手では2位だ。メジャーのベテランリリーフたちのなかでも、42歳の数字は際だっている。

勝率5割を切った状態で6月を迎えたカブス。快適さとダンスで盛り上がる屋内ブルペンは、今ひとつ波に乗り切れないカブスを後押しできるか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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