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「おばちゃんすぎる売り子」がアマチュアスポーツの運営資金を調達。

谷口輝世子スポーツライター
スポーツ観戦に欠かせない売り子の存在(写真:ロイター/アフロ)

日本のプロスポーツの試合会場では、飲食品を販売する人たちがアイドル化しているという。千葉ロッテには「カンパイガールズ」という球界初の売り子アイドルたちがいる。「美人すぎる売り子」と言われた人たちのなかには、芸能界デビューした人もいるそうだ。

この記事では、「売り子アイドル」や「美人すぎる売り子」の対極に位置する「おばちゃんすぎる売り子」についてレポートする。

「おばちゃんすぎる売り子」とは、私のことである。

私は先月、北米プロアイスホッケーNHLのデトロイトレッドウイングスの公式戦で飲食品を販売する機会を得た。場内の販売ブースで、ビールや清涼飲料水、ピザなどを売ったのだ。

なぜか。私の子どもたちが所属する、アイスホッケーチームの資金集めのためである。

レッドウイングスやメジャーリーグのデトロイトタイガースは、売店の仕事をNPOに提供し、その売り上げの一部をNPOに渡すという地域貢献のシステムを作っている。私の子どものチームもNPOであり、レッドウイングスから場内売店で飲食品を販売する仕事を分け与えられたのだ。(以前に私は記者としてこれについての記事を書いている。

NPOが販売の仕事をする場合の服装は、黒かカーキ色のスボン、シャツは白、レッドウイングスの帽子と指定されていて、これは自分で用意しなければいけない。家にレッドウイングスの帽子がなかったので、ケチなおばちゃんである私は前日までに一番やっすい帽子を購入。

アリーナに隣接する駐車場の駐車料金も払わなければいけない。これも「もったいないから」と子どものチームメートの母親たちと車に同乗して節約。私たちは、週末のお昼に行われた子供の試合を見届けたあと、レッドウイングスの本拠地リンクであるジョー・ルイス・アリーナへ出向いた。その日はナイトゲームだったため、午後4時ごろにアリーナへ入った。

関係者入り口の受付で名前を書いて、NPOの資金集めとして働いていることが分かるような名札をもらった。赤いエプロンだけは現地で貸し出してくれる。エプロンについているドラえもんのようなポケットに財布と電話を入れておいた。

腹が減っては戦ができぬと、従業員用に販売されている飲料水とホットドックで腹ごしらえ。一般にスポーツ会場で販売されている食品は割高だが、こちらは従業員価格だった。(値段を確認してから買っている。高かったら買ってない)

開場1時間前に売店ブースに入り、清涼飲料水のカップ、ビール用カップ、紙ナプキン、ストローの設置、氷を砕くなどの作業に追われた。清涼飲料水とビールはカップの数からも売り上げ数量を調べるので、必ず指定のカップを使うようにと場内販売のマネジャーから指示を受けた。

レッドウイングスのオーナーはピザのチェーン店展開で財をなした人物で、売店の主力商品もこのピザである。売店の後方には、ピザをオーブンで焼き、切り分ける人たちがいる。この人たちはアリーナの従業員。今日一日、お世話になるのでみなでごあいさつした。

開場してお客さんが入場してくるとてんてこ舞い。試合が始まっても、席に着く前に食べるものや、ビールや清涼飲料水を買ってからという人が多いようで、とても混み合った。この日は、販売員として経験ある人がレジ係を買って出てくれ、私を含む未経験者の2人がビールと清涼飲料水をサーブした。

お客さんが途切れた隙にはカップやストロー、紙ナプキンを補充。第1ピリオドと第2ピリオドの間には長蛇の列となった。試合中に配られるプロモーション用のピザ無料引換券にも応対しなければならず、初心者である私は小パニック。開場前にピザの種類を覚えておいたはずなのに、お客さんの「こちらのサイズはどのくらい?」との質問に、(年のせいか)とっさに答えが出てこないことも。ピザを焼く従業員の人にも助けてもらいながら何とか乗り切った。

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売店で働いている間、通路のモニターでさえ、試合を見ることはできず、沸き上がる歓声だけを聞いて、どうやら点が入ったらしいことを知るだけ。とはいえ、売り上げの一部がNPO、つまり私の子どものチームに寄付されるので、忙しければ忙しいほど、ありがたいのだ。あとで計算したら、一人あたり最低時給を上回る(最低時給の2倍には届いていない)お金を得られたようだった。

日本では学校のバザーとしてPTAが焼きそばなどを販売したりして、PTAの運営費や学校への寄付に充てるということもあるだろう。メジャーリーグのタイガースやNHLのレッドウイングスでは、このバザー屋台の代わりになるものとして、売店ブースがNPOに貸し出されている格好だと感じた。

この日は十代の子どもを持つ母親たちが売店最前列で接客販売した。(私が販売員を務めた日は、たまたま全員が母親だったが、父親が販売員をやることもある。ビールを扱うので子どもたちは販売できない)。私以外の母親は美しい人ばかりだが、「売り子アイドル」に匹敵する若さはない。しかし、お客さんには「紙ナプキンをとりましたか?」、「カップが傾いていますよ。こぼさないで」などと自然に声をかけており、おかん力は発揮していたと自画自賛している。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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