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米野球殿堂入り投手が、異種目のコーチに。

谷口輝世子スポーツライター
現役時代のトム・グラビン(写真:ロイター/アフロ)

通算305勝(203敗)、1991年と98年に最優秀投手賞(サイ・ヤング賞)を獲得、2014年には野球殿堂入りを果たした左腕投手が、野球以外のスポーツの指導でも忙しい日々を過ごしている。

80年代後半から2000年代にかけてブレーブスなどで活躍したトム・グラビン氏は、今、アイスホッケーの少年チームのコーチをしている。長く現役時代を過ごしたアトランタで、だ。

グラビン氏にとって、アイスホッケーチームのコーチをすることは意外なことでも、特別なことでもなかった。彼にとって、アイスホッケーは常に「もうひとつ」の種目であったからだ。

殿堂入りの左腕投手は、米国北東部のマサチューセッツ州で子ども時代を過ごしており、野球もアイスホッケーも楽しんできた。

望めばプロのアイスホッケー選手になることもできたのだ。

1984年のNHLドラフトではロサンゼルス・キングスから指名されていた。同じ年にメジャーリーグのアトランタブレーブスからも指名を受け、グラビンは野球を選んだのだ。

なぜ、野球を選んだのか。グラビン氏はかつてESPNの取材にこのように答えている。「どちらのスポーツも好きだった。それでも、なぜ、野球を選んだのか。野球では僕が左投手であることは、とても有利なことだ。アイスホッケーでは、野球ほど大きなアドバンテージはなかったから」と言う。Trade in a Cy Young Award for spot on the Cup? Glavine's game

グラビン氏がアイスホッケーの指導者になった直接のきっかけは、彼の3人の息子たちがアトランタでアイスホッケーをしていることだ。米国では学校外の子どものチームの指導を保護者が引き受けることが多く、グラビンもまた父親としてコーチをしているのだ。グラビンは息子たちの野球チームのコーチもしているそうだ。

実は、彼が現役選手であった時から、野球のオフシーズンには子どもたちのアイスホッケーのコーチを務めてきた。息子たちが父親のスポーツとは異なる種目をしているからこそ、グラビンはメジャーリーガーとしてのオフシーズンの時間を、子どもたちの指導にあてることができたとも言える。その当時から、ひとつのチームだけでなく、あわせて4チームのコーチやコーチの補助をしていたそうだ。

サイヤング賞投手で、NHLからドラフトされたという過去のきらびやかな経歴だけでコーチをしているのではない。グラビン氏はUSAアイスホッケーのコーチ講習を受け、レベル4という資格を得ている。

南部のアトランタでアイスホッケーをしているため、年に少なくとも数回は飛行機に乗ってボストンやシカゴまで遠征試合をしなければならず、忙しい日々を過ごしているが、グラビンはUSAホッケー1月号の取材に「コーチとして子どもたちにゲームについて教えることは、とても楽しいこと」と喜びを語っている。Coaching Package: Tom Terrific

グラビン氏は、子どもたちのチームを指導するにあたって、勝率が5割前後になるような試合の組み方を好んでいるという。「全力で懸命にやることの大切さを子どもたちが理解するためには、勝率が5割前後になるのがいいと思う。簡単に勝つことは全力を尽くすという意欲をそいでしまう」とUSAホッケー誌に話している。

グラビン氏がこの先も少年アイスホッケーの指導をし続けるかどうかは、息子たちの将来の選択次第のようだ。グラビン家の一番幼い息子は5歳児。彼がアイスホッケーをしたいといったら、コーチもやり続けることになるだろうとしている。

アトランタの少年チームのコーチ紹介にグラビン氏の名前がある。他のコーチの経歴紹介と全く同じ形式で、さりげなく殿堂入り投手、サイヤング賞投手であることが書かれていて、彼がひとりのコーチとして、ユースチームを支えていることがうかがえる。Atlanta Fire Travel Hockey Coaching Staff

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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