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ヘンリー王子、遺伝的苦痛の連鎖を断ち切るため王族をトゥルーマン・ショーと動物園に例える

木村正人在英国際ジャーナリスト
王族生活をリアリティ番組と動物園に例えたヘンリー公爵(右端)(写真:REX/アフロ)

[ロンドン発]米元女優メーガン夫人と英王室を離脱したヘンリー公爵はポッドキャスト「アームチェア・エクスパート」の1時間半インタビューに「それ(王族としての生活)はトゥルーマン・ショー(リアリティ番組の中で生活していることを知らない男性をジム・キャリーが好演した1998年の米映画)と(観客の目にさらされる)動物園の組み合わせです」と語りました。

フィリップ殿下の葬儀に合わせてイギリスに一時帰国したヘンリー公爵ですが、ここまで言ってしまうと、もう永遠に英王室には戻れないでしょう。メーガン夫人との出会い、結婚、出産を通して英メディアの人種差別的なバッシングに耐えられなくなってイギリスを去ったと説明していたヘンリー公爵ですが、その根源は王族としての「遺伝的痛みと苦しみ」にあったと言います。

インタビューのポイントを拾ってみましょう。

「これは非難ではありません。誰かを指差したり非難したりするべきではないと思いますが、子育てに関しては、父や両親が苦しんでいた痛みや苦しみのために、何らかの形で受け継がれた痛みや苦しみを経験したことがあるなら、基本的には、その連鎖を壊して、受け継がないようにします」

「とにかく多くの遺伝的な痛みと苦しみが受け継がれるので、私たちは親としてできる限りのことをして、次のように言うべきです。私に起こったことはあなたには絶対に起こらないようにします、と」

「20代のころ、母(ダイアナ元皇太子妃)に起きたことを目の当たりにして、王族としての“仕事”を私は望んでいないことに気づきました。不平を言わずに受け入れることを余儀なくされてきた私は檻の中にいました。カーテンの後ろ側を見て、そのビジネスモデルを見て、それがどのように実行され、どのように機能するかを知っています。私は参加したくありませんでした」

「それはトゥルーマン・ショーと動物園の組み合わせです」

「若いころワイルドに振る舞う時(大麻を吸ったり、アフガニスタンに派兵される前にラスベガスで全裸写真を隠し撮りされたりしたこと)には自己認識が欠如していたのです。無力感が自分のアキレス腱になっていたのです」

「無力感に苛まれたのは最初は母がパパラッチに追われる自動車の後部座席にいた時、次はアフガニスタンでアパッチヘリコプターに乗っていた時、3つ目は妻と一緒だったのに守れなかった時です。無力感は苦痛です。本当に苦痛です」

「私が学んだのは学校ではありません。英連邦の国々でさまざまな人々に会うことでした。子供たちに会い、世界中のコミュニティーに参加します。私は他の人々を助けるために自分の闘いについて話し合えるようになりました 」

「メンタルヘルスのセラピーが頭の中のバブルを破裂させ、砂を抜くのを助けてくれました。他の人を助けるために自分の特権的な立場を使う必要があることに気づかされました。母を誇りに思い、この(王族としての)プラットフォームを使用して実際に変化をもたらすにはどうすればよいのか。他の人を助けることが私を助けてくれることに気づいたのです」

「メーガンは私が傷ついていること、私の手に負えないもののいくつかが私を本当に怒らせ、私の血を沸騰させていると言いました。私の痛みや苦しみをすぐに見抜いたのです」

「私は父(チャールズ皇太子)の人生のピースをつなぎ合わせ始めました。ここが父親の通った学校、そして、こんなことが起きた、と。私は父の人生について知っています。それが父の両親に関係することも知っています。彼が両親に扱われたように私を扱ったのです。私はどうすれば自分の子供のためにそれを変えることができるのでしょう」

「私はここにいます。家族全員をアメリカに移しました。それは計画ではありませんでしたが、決断を下さなければならないことが時にはあります。家族を最優先し、メンタルヘルスを最優先する必要があります」

「息子のアーチーを自転車の後ろに乗せて安心して外出できます。これはイギリスではできませんでした。ここに住んでいると、顔を上げることができ、気分が変わり、肩を張らずに、自由に歩き回ることができます」

「メーガンは“プリンセスである必要はありません。プリンセスより良い人生を創造することができます”と言いました」「出会って最初の頃はロンドンのスーパーマーケットで互いを知らないふりをして密会しました。テキストでやり取りする。野球帽を被って、下を見て、通りを歩きました。素敵な思い出です」

「憎しみではなく、思いやり、愛、共感が生きる原動力になります」

米俳優ダックス・シェパード氏と米女優モニカ・パドマン氏が共同ホストを務める「アームチェア・エクスパート」には元民主党大統領候補ヒラリー・クリントン氏、ソウル歌手ジョン・レジェンド氏、マイクロソフト共同創業者ビル・ゲイツ氏らが出演しています。

5月21日には動画配信サービス「Apple TV+」でメンタルヘルス・ドキュメンタリーシリーズ「The Me You Can't See」が配信され、ヘンリー公爵は再び米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏と共演します。今回のインタビューも宣伝活動の一環でしょうか。

ヘンリー公爵の苦痛は理解できます。しかし、英王室という「動物園」からハリウッドの「トゥルーマン・ショー」に舞台を移しただけのような気がします。ロンドンにあるマダム・タッソー館も早速、ヘンリー公爵とメーガン夫人の蝋人形を王族コーナーからハリウッドの芸能人コーナーに移したそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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