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香港“陥落” 安倍首相と小池都知事は若者やバンカーを受け入れ、東京をアジア一の金融センターに

木村正人在英国際ジャーナリスト
アジア一の金融センターを目指す東京都の小池百合子知事(写真:つのだよしお/アフロ)

激変するアジアの金融勢力図

[ロンドン発]中国による香港国家安全維持法施行で、アジアの国際金融都市の勢力図が大きく変わりそうです。安倍晋三首相は香港からの留学や就労などビザ要件を大幅に緩和して、中国共産党支配から逃れることを望む香港の若者や金融関係者の救援に乗り出すべきです。

米中グレート・デカップリング(分断)が急速に進む中、マネーは自由を求めて中国や香港から東京か、シンガポールに逃げ出してくるはずです。香港の民主派の方には気の毒ですが、中国の習近平国家主席の強硬措置によって生まれたチャンスをみすみす逃す手はありません。

まず下のグラフをご覧ください。

東京都の発表資料より
東京都の発表資料より

新型コロナウイルスの大流行で日本だけでなく世界中が大騒ぎしている最中の3月26日、英シンクタンクZ/Yenと中国総合開発研究所が発表した「世界金融センター指数」で東京が香港、シンガポール、上海をごぼう抜きして前回の6位から3位に躍り出ました。

「世界金融センター指数」が最初に発表されたのは2007年3月。年2回のペースで発表されており、今回は27回目。東京は4位から5位、6位とランキングを落としてきただけにニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位は快挙でした。

「東京を再びアジア一の金融拠点に」

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案で香港では昨年、大規模な抗議デモが続き、香港マネーがシンガポールなど他の国際金融センターに逃げ出しました。しかしアジア一の金融センターの地位奪還を目指す東京も手をこまぬいていたわけではありません。

東京都の小池百合子知事は3月27日の定例記者会見で「とてもいいニュース」と快挙を報告したにもかかわらず、大きなニュースにはなりませんでした。新型コロナウイルスが東京でも拡大し始め、それどころではなかったからです。

記者会見から小池知事の言葉を見ておきましょう。「東京を再びアジアナンバーワンの金融拠点として復活させる、国内だけでなくて世界中から金融関係の人材や資金、情報、技術が集まる国際金融都市にする。これは知事就任以来の決意」

「2017年に国際金融都市・東京構想を発表して金融系外国企業の誘致、資産運用業、フィンテックを重点的な対象として取り組み、海外の誘致拠点の設置にも注力をしてきた。わが国初の官民共同の金融プロモーション組織FinCity.Tokyoを昨年新設した」

「東京グリーンボンドの発行やESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視して行なう投資)の促進をどこよりも早く手掛けた。その成果が国際金融センターとしてアジアナンバーワン」

「上海、シンガポール、香港といったアジアの有力都市の中で1番になったが、差はわずか。国際都市間競争は熾烈で、施策展開の手を緩めることは決して許されない」

香港の地盤沈下は避けられない

自由と民主主義、法の支配、人権といった日米欧の価値観に背を向けた中国からの資本逃避、国際ビジネスセンター、国際金融センターとしての香港の地盤沈下はもはや避けられないでしょう。

日本の強みは世界第3の経済規模と、米欧の価値観を共有していることです。国際コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンによると、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の総資産額は約1兆3745億ドル(約148兆円)で世界最大です。

【法人税】

国際コンサルティング会社KPMGの資料から法人税率を見ておきましょう。日本は30.62%、香港16.5%、シンガポール17%です。

【ビジネス環境】

次に世界銀行の「ビジネス環境ランキング」を見てみましょう。

世銀HPより筆者作成
世銀HPより筆者作成

【英語力】

日本の課題はまず言葉の壁を取り除くことです。国際的な語学学校EFの英語能力指数(EF EPI)によると、英語能力は日本53位、香港33位、シンガポール5位です。日本のように人口規模が大きい国は母国語で用が足りてしまうので、英語学習のインセンティブが働きにくいようです。

安倍首相や小池知事が東京を再び揺るぎないアジア一の金融センターに押し上げたいのなら、金融に特化した経済特区でも良いから競争相手のシンガポールに負けないよう規制緩和すべきです。それが香港の若者や金融関係者を救うことになるなら、それに越したことはありません。

香港の旧宗主国・イギリスは英海外市民旅券保有者のイギリス滞在期間を半年から1年に延長し、留学、就労から永住権獲得に道を開く「国際救命艇キャンペーン」を開始しています。日本もアメリカやイギリスを中心とする“アングロ・サクソン連合”と連携すべきです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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