新型コロナ キャバクラ通いを止めさせるのに緊急事態宣言は必要か

東京都の小池百合子知事(写真:つのだよしお/アフロ)

感染爆発の兆候はないものの

[ロンドン発]新型コロナウイルスの国内感染が広がり、安倍晋三首相が新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言をするかどうか注目が集まっています。感染経路を追えない症例が増え、感染症専門家や地方自治体からは宣言を求める声が強まっているからです。

筆者は緊急事態宣言をする前に少なくとも都道府県別、政令指定都市ごとの実効再生産数(感染者1人からうつる二次感染者数の平均値、とられた対策によって変化する)を公表すべきだと思います。実効再生産数が1を下回れば流行は収束に向かいます。

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感染者数はPCR検査の実施件数によって大きく左右されるので、厚生労働省の発表資料から死者と、人工呼吸器を使用したり集中治療室(ICU)に入院したりしている重症・重篤者の数を集計してグラフにしてみました。感染爆発の兆しは今のところ見られないように思います。

「東京の感染症ベッドはもうパンパン」

しかし関係者の1人によると「東京の感染症ベッドはもうパンパンに近づいています。感染者が急増すると重症者でも入れなくなります。厚労省が他の病院に依頼しても風評被害を嫌がって受け入れたがらない事情があるようです」と言います。

新型コロナウイルス対策ダッシュボードより(4月1日)
新型コロナウイルス対策ダッシュボードより(4月1日)

東京都の説明では、都内の一般病数は約11万床。新型コロナウイルスの患者用に感染症指定医療機関を中心に500床を確保、最終的には4000床を確保するそうです。筆者は、少なくとも高齢者ではなく持病のない軽症者は自宅療養か他の施設に収容して病床を今後の重症者のために空けた方が良いと思います。

感染経路が追えない症例(孤発例)のうち夜間から早朝にかけて営業しているキャバクラなどのキャバレー、バー、ナイトクラブ、酒場など接待飲食業のお店で感染したと疑われる感染者はこれまでに38人。最近2週間では孤発例の30%を占めるそうです。

保健所の調査に応じない人も多く、夜の街に「ステルス感染」を広げている恐れがあります。

小池百合子都知事は3月31日、安倍首相と会談したあと記者団に対し、緊急事態宣言について「状況はギリギリと申し上げており、国家としての判断が今、求められているのではないか」と述べました。

緊急事態宣言は首相が都道府県を単位とする区域や期間を指定して出します。キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールなどの遊興施設の使用制限・停止を要請、指示できるようになります。

北海道の鈴木直道知事は2月28日に緊急事態を宣言。週末の外出自粛要請のほか大規模イベント自粛、休校を行った結果、実効再生産数は0.9から0.7に減少。専門家会議の状況分析(3月19日)では、日本全国の実効再生産数も3月上旬以降、連続して1を下回っています。

都市封鎖は避けた方が良い

外出禁止令による「ロックダウン(都市封鎖)」が行われているイギリスから見ると、都市封鎖はできるだけ避けた方が良いと思います。もし仮に緊急事態を宣言したとしても感染のホットスポットを集中鎮圧する作戦で時間を稼ぎ、病床確保や迅速検査キットの導入を急ぐべきでしょう。

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新型コロナウイルス対策の中心になっている英インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームが欧州11カ国で実施されている自己検疫や社会的距離、イベント禁止、休校、都市封鎖の効果を検証しています。それによると3月末時点で5万9000人の死を防ぐことができたと分析しています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書より
インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書より

上の図を見ると、スウェーデンだけが都市封鎖を行っていないことが分かります。介入が行われる前の実効再生産数は3.87(推定)。介入によってイタリアは1に近づき、ノルウェーは0.97、スウェーデンは2.64となり、11カ国を平均すると1.43まで下がったとみられるそうです。

日本は(1)換気の悪い密閉空間(2)人が密集している場所(3)近距離での密接な会話の3密を避け、1.5メートル以上の安全距離をとることで実効再生産数を1より下に抑えることができれば、経済的な影響が大きい都市封鎖は回避できるかもしれません。

欧州では休業補償など都市封鎖による経済的な損失をある程度補償する国が多いようです。日本貿易振興機構(JETRO)のビジネス短信から欧州各国の新型コロナウイルスの経済対策をまとめてみました。

イタリア

3月5日、75億ユーロの刺激策。

3月11日、250億ユーロの追加対策。

3月17日、国民医療サービスの強化32億ユーロ、就労・所得保障104億ユーロ(自営業者や季節労働者らに3カ月間、月600ユーロ給付)、家計・企業の資金繰り支援48億ユーロ、納税保留24億ユーロ。

スペイン

3月17日、総額2000億ユーロの緊急支援策。レイオフ期間に失業給付を受けられる。

イギリス

3月11日、予算案で新型コロナウイルス対策として120億ポンド拠出。うち50億ポンドはNHS(国民医療サービス)や地方自治体の社会保障サービス水準の維持に充てる。

3月17日、総額3500億ポンドを超える大型経済対策。

3月20日、休業を余儀なくされる従業員の給与の8割(上限は1人当たり月2500ポンド)を肩代わり。年収5万ポンド以下の個人事業主についても同じように保障(ただし6月から支給)。

フランス

3月2日、一時帰休制度の利用、法人税・社会保険料支払いの分割納付、公的投資銀行BPIフランスが中小企業の貸し付けに信用保証を供与。

3月16日、税金・社会保険料支払い延期、銀行貸付の返済期限の繰り延べ、国による3000億ユーロ規模の保証。

3月17日、企業向け支援の総額は450億ユーロに。一時帰休制度は企業が休職する従業員に支払う手当て(上限は法定最低賃金の4.5倍)を国が全額補填。企業倒産を避けるための連帯基金に約20億ユーロを拠出。

3月27日、一時帰休制度の利用申請は約22万社に。

ドイツ

3月9日、解雇を回避するため従業員の労働時間を短縮。従業員の収入減を保証するため連邦雇用庁が賃金喪失の6割を手当。2020年末まで適用。2021~24年、交通インフラと住宅建設に毎年31億ユーロを追加投資。30年まで計1400億ユーロの追加投資を行う。

3月13日、納税延期。減収が見込まれる場合は前納金額を減額。ドイツ復興金融公庫が4600億ユーロの信用保証枠を設定。

3月23日、1225億ユーロの補正予算。中小・零細企業支援は従業員5人以下の事業者に3カ月分の資金繰り支援として最大9000ユーロ、10人以下の事業者には最大1万5000ユーロを一括支払い。6000億ユーロ規模の企業救済ファンド「経済安定化基金」も設立。

“3密ビジネス”への補償は避けては通れない

日本では自民党と公明党が、所得が減少した人への現金給付などを実施するよう政府に提言しました。また売り上げが減少した中小企業や小規模事業者、フリーランスの人に現金による定額の助成金を数兆円規模で行うことも求めています。

感染予防のための自粛要請で深刻な打撃を受けるキャバレー、バー、ナイトクラブ、酒場をはじめとする“3密ビジネス”に対する損失補償も避けては通れないのではないでしょうか。

(おわり)