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【W杯現地報告】「プレミアのオールスター軍団」ベルギー、強さの秘密。日本代表は捨て身で戦うしかない

木村正人在英国際ジャーナリスト
2018 FIFA W杯 ヤヌザイのゴール後、再度ボールを蹴り込むバチュアイ(写真:ロイター/アフロ)

16年にFIFAランキング1位

[モスクワ発]サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の決勝トーナメント1回戦(ロストフ・ナ・ドヌ)で日本代表が7月2日に対戦するベルギー。3連勝でG組を首位通過したFIFAランキング3位の強豪チーム。「赤い悪魔」の異名を取り、今大会、優勝を狙っています。

「いわば英イングランド・プレミアリーグのオールスター軍団。日本代表にとっては厳しい戦いになりそうです」。ロンドンのサッカークラブ「サムライ・フットボール・アカデミー」共同運営者、竹山友陽氏は言います。

日本とベルギーの対戦成績は過去2勝2分1敗。W杯では2002年日韓大会のグループリーグ初戦で対戦して2-2で引き分け。日本1位、ベルギー2位で決勝トーナメントに進出しました。

ベルギーはW杯の06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会、UEFA欧州選手権04、08、12年大会の出場を逃しています。ユースの育成に成功し、W杯の14年ブラジル大会と16年のUEFA欧州選手権でベスト8入りを果たします。

ベルギーは07年6月、FIFAランキングで過去最低の71位に沈んだあと、16年3月に過去最高の1位に上り詰めます。

G世代

その原動力となったのは「グローバル(G)世代」。G世代と呼ばれるベルギー代表の中から移民としてのバックグラウンドを持つ主要選手を見ておきましょう。

DF

ビンセント・コンパニ(マンチェスター・シティ)半分コンゴの血を引く

MF

アクセル・ビツェル(天津権健) カリブ海の仏マルティニーク系移民

マルアン・フェライニ(マンチェスター・ユナイテッド)モロッコ系

ムサ・デンベレ(トッテナム)マリ系移民

ナセル・シャドリ(WBA)モロッコ系移民

FW

ロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド) 父はザイール(現コンゴ民主共和国)代表としてプレー

アドナン・ヤヌザイ(ソシエダ)コソボ・アルバニア系家族の出身

この顔ぶれに司令塔ケビン・デ・ブルイネ(マンチェスター・シティ)、エデン・アザール(チェルシー)、GKのティボー・クルトワ(チェルシー)が加わる、まさに「プレミアのオールスター軍団」です。

5年かけてアライアンス・マンチェスター・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)を取得し、文武両道を証明したコンパニは英紙ガーディアンのインタビューに自らのアイデンティティに関してこう答えています。

「僕は100%コンゴ人であり、100%ベルギー人だ。それを誇りに思っている。サッカーではベルギーを代表し、できる時は 多くの違った方法でコンゴを代表している」

子供の頃から一緒にプレー

現在のベルギー代表は子供の頃から一緒にプレーしていたので、民族や人種の違いを超えた強い仲間意識を共有しているそうです。ベルギー代表と言えば、強いけれどチームとして全くまとまっておらず、自滅するイメージが強かったのですが、今大会は団結しています。

ベルギーの人口は1150万人(推定)。面積は3万平方キロメートル。人口では東京都より少なく神奈川県より多く、面積では岩手県と福島県を足したより大きい感じです。フランス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダと国境を接する小国で、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の本部があります。

ベルギーは歴史的に北部のフラマン語圏(オランダ文化圏、人口の57.3%)と南部のワロン語圏(フランス文化圏、人口の32.3%)に二分され、ブリュッセル首都圏地域(人口の10.4%)では公用語としてフランス語とオランダ語の両方が使われています。ドイツ語が話されている地域もあります。

経済的に豊かなフラマン語系の人口が600万人以上。ワロン語系は約350万人。ドイツとの国境沿いで暮らすドイツ語系が約100万人。移民の中では、約50万人のモロッコ系が最も多く、次がトルコ系です。

深刻な政治対立

ベルギーではフラマン語圏とワロン語圏の政治対立が深刻で、10年の下院選では連立交渉が難航し、約540日間正式な政府が不在だったことがあります。14年にも連立交渉に4カ月余かかりました。一部の政党は北部の分離独立を目指しています。

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域からなる英国は五輪・パラリンピックは英国代表として戦いますが、サッカーやラグビー、クリケットはそれぞれ4つの地域の代表が戦います。サッカーのW杯に出場しているのは英国代表ではなく、イングランド代表です。

しかしベルギーではサッカーの代表が北部と南部に分断していた祖国を一つにまとめ始めました。いろいろな背景が混じったG世代が強力な接着剤の役割を果たしたのです。偏見と差別意識を持たないよう小さい頃から一緒にプレーさせたベルギーサッカー協会の功績です。

今はどこの国でもユースの育成に力を注いでいますが、ベルギーの特徴は早い時期からゾーンで攻めたり守ったりすることを意識させていることです。身体能力や運動能力、ボールさばきだけでなく、「サッカー頭」の方も育てていくのが狙いです。個人のプレーだけでなく、全体への目配り、戦術について自分の頭で考えさせているのです。

G世代の固い結束やケビン・デ・ブルイネのクリエイティブなゲームメイキングはこうしたユース育成から生まれてくるようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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