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世界から立ち遅れた日本の大学は海外から「国際担当」副学長をスカウトせよ

木村正人在英国際ジャーナリスト
日英の高校生に講義するノーベル生理学・医学賞受賞者ガードン名誉教授(筆者撮影)

[ロンドン発]幕末、長州藩の伊藤博文(初代首相)、井上馨(初代外相)、山尾庸三、井上勝、遠藤謹助の「長州五傑(ファイブ)」は1863年、隠れて横浜を出港し、ロンドンにやって来ました。オックスフォード大学やケンブリッジ大学はイギリス国教徒にしか入学を認めていなかったため、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の門をたたきました。

UCLは信仰や人種の違いを超えて、いろいろな留学生に門戸を開いていたからです。ロンドン化学協会の会長を務めていたUCLのアレクサンダー・ウィリアムソン教授は5人を温かく受け入れます。薩英戦争で敗れた薩摩藩もイギリスに留学生を送ることを決め、「薩摩スチューデント」と呼ばれる留学生15人、視察員4人を派遣しました。

「長州ファイブ」と「薩摩スチューデント」が明治維新の原動力となり、日本の近代化を進めたのはご存じの通りです。UCLの中庭には「長州ファイブ」と「薩摩スチューデント」の名前が刻まれた記念碑が建立されています。ウィリアムソン教授は長州ファイブや薩摩スチューデントら多くの日本人留学生を世話するだけでなく、志半ばで客死した若者も丁寧に葬ってくれました。

UCL眼科学研究所の大沼信一教授とイギリスで活躍する日本人の若手研究者が中心になって、2015年から日本とイギリスの高校生がロンドンに集う「UCL-ジャパン・ユース・チャレンジ」をスタートさせました。3回目の昨年は16歳を中心に日本から45人、イギリスから30人弱の高校生が参加しました。イギリスの高校生と交流しながら世界最先端の研究に触れ、海外留学や海外で仕事をすることを身近に感じてもらうのが狙いです。

UCL-ジャパン・ユース・チャレンジの一コマ(筆者撮影)
UCL-ジャパン・ユース・チャレンジの一コマ(筆者撮影)

山口県出身の安倍晋三首相もUCLの記念碑を訪れたことがあります。UCLなかりせば、日本の近代史、いや、世界の歴史は変わっていたと言っても過言ではないでしょう。明治初期、イギリスに留学していた日本人は2万人ぐらいいたと言われています。日本人の海外留学状況を経済協力開発機構(OECD)の統計からみると、2015年は5万4,676人。イギリスはアメリカ、中国、台湾に次いで4番目で3,098人です。

明治5年の日本の総人口は約3500万人(現在は約1億2700万人)ですから、当時の日本人の海外留学熱はかなり高かったことが分かります。このほど「UCL-ジャパン・ユース・チャレンジ」の功績で外務大臣表彰を受けた大沼教授に日本の課題についてお伺いしました。

鶴岡駐英大使から表彰される大沼教授(中央、在英日本大使館提供)
鶴岡駐英大使から表彰される大沼教授(中央、在英日本大使館提供)

――筆者がSJR(Scimago Journal & Country Rank)の国・地域別の論文数(2016年)を単純に国連の世界人口見通し(17年7月)で割ってみると、日本のランキングは52位に落ちていました。イギリスの高等教育情報誌タイムズ・ハイアー・エデュケーションの世界大学ランキングでも日本の大学が低迷している最大の理由は何だと思われますか

「日本の大学が低迷している最大の原因は国際性です。外国人学生の割合、外国人教官の割合、英語でのプログラム、国際共同研究などいずれもかなり低くなっています。そのほかに論文の数や質もあります。背景には教育に関する政府の支出額が国内総生産(GDP)と比較すると非常に小さいこともあると思います。また、日本には非常にたくさんの大学がありますが、良い研究教育を行なっている大学は1%ぐらいだと思います。底辺の底上げが最も重要だと思います」

――イギリスへの日本人留学生が少ない理由は、地理的なものでしょうか。それとも語学力への不安、金銭面でしょうか

「いずれにも原因があると思います。意欲はあるけれども金銭的な理由で留学できない学生がたくさんいるのは事実です。いま日本の政府は数百人の日本人を支援しているのみです。日本政府は日本に来るアジアの人に対して10万人近く支援していますが、その中の1万人分ぐらいの資金を日本人で海外の大学に留学したい人に回すようにすれば、ほぼすべての問題は解決すると思います。ただそのようにすると日本の高校や大学が反対するのだと思います」

(注)日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界との間のヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、日本政府は2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指している。

――日本の大学がイギリスのように留学生に開かれた大学になるための課題は何だと思いますか。そのメリットは何でしょうか

「課題はたくさんあると思います。日本政府はかなり頑張っていますが、なかなか大学自体そこまでの能力が足りていないと思います。大学の国際部は外国人を中心にして構成し、トップの国際担当の副学長を欧米の大学で国際部門を担当した人にするべきだと思います。中にいる日本人が考えても本質的な展開は難しいでしょう」

「メリットはたくさんあります。究極的には日本の今後に貢献できるということだと思います。世界からかなり隔離している日本を世界の中心までに持って行くには、日本の国際化が重要です。世界で活躍する人材を生み出していく使命を大学は担っていると思います」

国際基督教大学(ICU)の役職者名簿を見ると、すごく国際化が進んでいることが分かります。他大学もこれぐらい思い切ってトップダウンの国際化を進めるべきではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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