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ついにニューヨークをとらえた北朝鮮の大陸間弾道ミサイル どうするトランプと安倍首相

木村正人在英国際ジャーナリスト
深夜に打ち上げられたICBM「火星14」(労働新聞電子版より)

到達高度は3725キロ

[ロンドン発]防衛省の発表によると、北朝鮮は7月28日午後11時42分ごろ、舞坪里(ムピョンニ)付近から、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北東方向に発射しました。ICBMは3500キロメートルを大きく超える高度に達し、約45分間、約1000キロメートル飛翔、北海道積丹半島の西約200キロメートル、奥尻島の北西約150キロメートルの排他的経済水域(EEZ)内の日本海に落下したとみられています。

深夜に発射したのは、闇夜に隠れて、いつ、どこから発射するのか偵察衛星に探知されずに、アメリカ全土を奇襲攻撃する能力を北朝鮮が身につけたことをアメリカの大統領ドナルド・トランプに思い知らせるためです。

北朝鮮の「労働新聞」(電子版)によると、ICBM「火星14」の発射実験は朝鮮労働党委員長、金正恩の命令と視察の下に行われ、完璧な成功を収めたと伝えています。実験は計画より早く実施され、「北朝鮮の戦略的核兵器の力を示した」と強調しています。

発射実験でのテストは、ミサイルの分離、補助エンジンによる軌道修正、重い弾頭を積んでの第二段ロケットの到達高度、最長射程距離、弾頭部分の大気圏再突入、弾頭爆発の制御装置に及び、「少しの失敗もなかった」と豪語しています。火星14は47分12秒間、998キロメートル飛翔して、3724.9キロメートルの高度に到達したとしています。

金正恩は誇らしげに「発射実験はICBMシステムの信頼性と、北朝鮮のいかなる地域、場所からいつでも探知されずに発射できる能力を再確認し、北朝鮮のミサイルがアメリカ全土を射程にとらえたことを証明した」と宣言しました。

発射実験に成功して得意満面の金正恩(労働新聞電子版より)
発射実験に成功して得意満面の金正恩(労働新聞電子版より)

「もう代償なしに北朝鮮を挑発することはできないことをアメリカの政策決定者は理解すべきだ」「国家を守るために強力な戦争抑止力を持つことは不可避の戦略的選択肢だ。火星14は何物にも代え難い貴重な戦略的資産だ」。金正恩は自信満々です。

一方、日本では、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題をめぐって、稲田朋美防衛相、黒江哲郎防衛次官、岡部俊哉陸上幕僚長が辞任。防衛省内が大混乱する中で、北朝鮮のICBMが発射されました。

いくら日本国憲法の解釈を変更して集団的自衛権の限定的行使を容認しても、この有様では、どうしようもありません。安倍晋三首相にはふんどしを締め直してほしいものです。

アメリカ全土をほぼ射程に

北朝鮮のICBMは実戦配備の段階に入ったと言えるのかもしれません。

7月4日に西岸の亀城(クソン)付近から発射されたICBMは約40分間、約900キロメートル飛んでEEZ内の日本海に落下。到達高度は2500キロメートルを大きく超えていました。北朝鮮の国営放送、朝鮮中央テレビ(KCTV)によると、高度は2802キロメートルに達し、39分間にわたって933キロメートル飛んだそうです。

グローバル・セキュリティー・プログラム副所長デービッド・ライトは28日深夜に発射されたICBMについて自身のブログでこう指摘しています。

「現在の情報に基づくと、北朝鮮の行ったミサイル試験は容易にアメリカ西海岸、いくつもの主要都市に到達する可能性があります」

「報道によると、ミサイルは高いロフテッド軌道で打ち上げられており、飛翔距離は1000キロメートル、飛翔時間は約47分、到達高度は3700キロメートルです」

「もしこうした数字が正しく、低いスタンダード軌道で発射されていたなら、自転を考慮しなくても1万400キロメートルは飛んでいたでしょう」

火星14が射程内にとらえたアメリカの主要都市
火星14が射程内にとらえたアメリカの主要都市

「発射方向と自転を加味すると、ロサンゼルス、デンバー、シカゴは射程内にとらえられており、ボストンやニューヨークもギリギリで射程内に収まっています。ワシントンは何とか圏外です」

「発射されたミサイルの(核弾頭など)最大の積載重量が分かりません。もし今回、実際に搭載する弾頭より積まれていたものが軽かった場合、本物の弾頭を搭載して到達できる距離は短くなります」

お手上げ状態のトランプ

これに対して、トランプは「世界に脅威を与えるこうした兵器や実験は北朝鮮をさらなる孤立に追い込み、経済を弱め、人々を苦境に追い込むものだ。アメリカは本土の安全を確実にするとともに、地域の同盟国を守るため、必要なすべての手段をとる」と北朝鮮を非難しました。

しかし北朝鮮は核・ミサイルと経済の並進路線を成功させています。中国は北朝鮮の制裁に応じていると説明していますが、抑止核を保有することは朝鮮半島のバッファーゾーン(緩衝地帯)として北朝鮮が存続することにもつながり、容認しているように見えます。

今年に入って12回目のミサイル発射実験。北朝鮮は昨年、核実験2回、20発以上の弾道ミサイル発射実験を行っています。

北朝鮮のICBM開発は固定式のテポドン2(射程1万キロメートル以上)より、発射台付き車両(TEL)で移動できるKN-08(同1万1500キロメートル)、KN-14(同1万キロメートル)が主流になっています。

「火星14」はKN-08を強化したKN-14という見方もあります。KN-14は2015年10月、平壌での軍事パレードに登場しました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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