「ロシア軍ときたら、ものすごい数の爆弾を落としていった」【シリア危機、日本に何ができるか】

プーチン大統領のシリア空爆に抗議するシリア、パレスチナ系の住民。シドニーで(写真:ロイター/アフロ)

地中海東部に接近阻止・領域拒否を構築

ロシアのプーチン大統領が、欧米を中心とした有志連合がシリア人を保護するため、シリア上空に飛行禁止区域を設置する動きを見せたとたん、空爆と巡航ミサイルによる攻撃に踏み切った。

過激派組織「イスラム国(IS)」を攻撃しているとは口ばかりで、米ワシントンのシンクタンク「戦争研究所(ISW)」がつくったマップをみると、「IS」への空爆は形ばかりで、ロシアは反政府勢力が支配する地域を集中攻撃している。

出典:ISWのマップをもとに筆者作成
出典:ISWのマップをもとに筆者作成

上のマップはISWのマップをもとに筆者が作成したもので、位置関係は若干、正確性を欠くかもしれない。9月30日から10月5日にかけてのロシアによる空爆で、朱色は「ほぼ確実」、黄色は「おそらく」という仕分けになっている。

シリア上空に飛行禁止区域が設定されたら、シリアのアサド大統領は、リビアのカダフィ大佐と同じ運命をたどる可能性が強い。欧米の打倒目標はアサド政権と「IS」だ。プーチン大統領の介入には、アサド政権を支えるという表向きの動機がある。

グルジア(現ジョージア)紛争、ウクライナ危機を見てもわかるように、グルジア紛争では同国軍が南オセチアを攻撃したことを、ウクライナ危機ではヤヌコビッチ大統領(当時)が抗議デモで政権を追われたことを口実として、軍事介入に踏み切った。

対空ミサイルも配備

今回も同じパターンが繰り返された。ロシア軍はシリア西部ラタキアの空軍基地に大型の戦闘爆撃機Su-24(スホイ24)、近接支援攻撃機Su-25(スホイ25)、多用途戦闘機Su-30(スホイ30)、戦闘ヘリコプターMi-24(ミル24)を配備した。

米軍のパトリオットミサイルに相当する長距離鑑対空ミサイルS-300を搭載した巡洋艦モスクワもラタキアに展開している。プーチン大統領はシリア危機を奇貨として、地中海東部に北大西洋条約機構(NATO)に対する接近阻止・領域拒否能力を構築してしまった。

欧米諸国はおそらくアサド政権を倒してから、反政府勢力と協力して「IS」をたたく腹積もりだったのだろう。しかし、プーチン大統領の軍事介入で、アサド政権を生きながらえさせ「IS」をたたくシナリオをのまざるを得なくなる可能性が膨らんできた。

プーチン大統領は「安定」を求めていない。混乱をつくりだし、旧ソ連が崩壊した「屈辱感」をあおることで国内の求心力を高めて、米国のオバマ大統領と対等に振る舞おうとしている。苦しむのは罪のないシリア国民だ。中東・北アフリカで国際支援活動に従事してきた田邑恵子さんがおくる現地リポート第2弾。

辛い国境越え

[イズミル発、田邑恵子]ユメイン(仮名)さんとモスク(イスラム教の礼拝所)で出会ったとき、彼女は夫と3人の息子たちと2日前にトルコのイズミルに着いたばかりだった。

通常の難民キャンプでは、危険を逃れてきたというホッとした雰囲気が漂っているものだけれど、イズミルは違う。シリアからの難しい国境越えを無事通過し、これからもうひとつの難関、ギリシャに向かって地中海を渡るぞとあって、町は変な高揚感にあふれている。

事情をあまり飲み込めていないのだろう、小さい子供たちが真新しいリュックサックを背負って楽しそうに通りを歩いている。「さあ、行こう」と、まるでピクニックにでも出掛けるようなはしゃいだ感じさえ漂う。

ユメインさんの一家もトルコへの困難な越境に無事成功したばかりのため、誰もが嬉しそうだった。彼女によれば、旅はかなり難しく、寒く、辛かったそうだ。クルド人地域の山を越え、地中海側のラタキアに出た。

それでも、他の人々に比べたらラッキーだったと思っている。1日待機しただけで国境を越えることができたからだ。一緒に密入国した人の中には寒さの中、何日も国境で待機した人もいたからだ。トルコの国境警備隊に捕まらなかったのも運が良かった。

朝食はチーズサンドイッチ

イズミルに着いて、モスクの前でたくさんの荷物と一緒に座ったまま、これからどうしようかと算段しているところだ。

ユメインさんがつくるチーズサンドイッチ(今年10月、田邑恵子撮影)
ユメインさんがつくるチーズサンドイッチ(今年10月、田邑恵子撮影)

ユメインさんは、アラブ風の平たいパンの上にチーズを広げ、朝食用のサンドイッチを作り始めた。新鮮なキュウリも一緒だ。

シリアからの脱出は長いこと考えていたけれど、子供たちの学期が終わるまで待っていた。シリア国内では一層難しい状況が続くけれど、3人の息子たちは、誰一人として学校を欠席せず、それぞれの学年を終えることができた。

プーチンの空爆はアサドよりひどい

子供たちに良い将来を与えてあげることが、シリアを後にした一番の理由だ。ちょうど、ロシア軍による空爆が始まったばかりの時で、状況がより一層悪くなっていたこともある。

シリア政府の空爆は、今思えばスケールが小さかったとユメインさんは思う。大抵、戦闘機は1機か2機で、爆弾を落としていった。ところが、ロシア軍ときたら、戦闘機は5~6機も来るし、爆弾だってものすごい数を落としていく。

「ロシア軍よりはアサド政権の方がマシ!」とユメインさんは言った。毎回驚かされるのだが、どんなに困難な状況下にあっても、シリア人は冗談のネタにすることを忘れない。頭上をロケット弾が飛び交っている時ですら、身を伏せて、体を隠しながらも冗談が飛び出す。

ひょっとしたら、ユーモアは人間のDNA(遺伝子)の中に組み込まれているんじゃないのかなと思う。直視するのが余りにも辛い状況をやり過ごすために。

密入国ネットワーク

トルコに密入国するために、彼らは1人当たり150米ドル(約1万8千円)を払った。シリア危機で一番の恩恵を受けているのが密入国ネットワークだろう。トルコ側とシリア側、あるいはギリシャ側の両方にシリア難民を密入国させるためのブローカーがいる。

ユメインさん一家は、まだ欧州のどの国に向かうかを決めていない。子供たちに良い教育を受けさせてあげられるならどこでも良いと彼女は思っている。とりあえず、次の目的地は海の向こう、ギリシャだ。

ブローカーが値段を釣り上げたので、1人当たり1千米ドル(約12万円)かかると言われている。今、もっと安いブローカーを探している。

ユメインさんは欧州への道のりが簡単ではないことを知っているが、成功するまで何度でも挑戦するつもりだ。ただ、小さい息子たちが無事に旅を終えることができるか、不安もある。

シリアでは急激なインフレ

シリアでは普通の幸せな家族だった。彼女の作るヘルシーな料理を毎日楽しんだ。最近、シリアではインフレが進んだために、食料品の値段がものすごく値上がりしてしまった。この1年ぐらい、子供たちに作ってあげたいと思う料理の材料が買えなくなってしまっていた。

「最終目的地についたら、何を家族に作ってあげたいですか?」と聞いたら、「トルコへの越境があまりにも大変だったので、今はご飯のことなんて考えられない」という。

どこに落ち着くことになるか分からない。けれど、どこに行くとしても、シリア文化の良いところは守っていきたいと彼女は考えている。

欧州とシリアの食料事情は違うので、自分の好物のモロヘイヤ(緑の葉物野菜)と鶏肉の煮込みを作る材料が手に入らないかもしれない。子供たちが落ち着き先の食事を好きになってくれればいいなと思う。

「孤食」ではなく、分かち合う食事

ユメインさんがつくったチーズサンドイッチを頬張る家族。中央が夫(同)
ユメインさんがつくったチーズサンドイッチを頬張る家族。中央が夫(同)

ユメインさんの話を聞いている間に、家族は私にもチーズサンドイッチを作ってくれた。私も自分のバックの中に入っていたミカンとイチジクを分けた。

どんなに困難な状況下にあっても、シリア人の家庭を訪問したり、彼らが路上で食事しているところにお邪魔したりしたとき、ご馳走になることなしに立ち去ることは不可能である。

この「分かち合う」というところが、私が一番心地良く感じ、アラブ料理を楽しむ理由なんじゃないかと思う。貧していても、客人はもてなす。すごい文化だなと改めて思う。

「個食」という言葉が日本語の中にある。私が海外生活を始める前にはもう頻繁に聞かれたから、かれこれ20年ぐらいは使われている。日本では「個食」が進んでいて、家族が誰ともご飯を一緒に食べないんですよと伝えても、彼らにはきっとピンとこないだろうなぁ。

「個食」(家庭の中で1人で食事をすること)と「孤食」(孤独を感じてしまう1人きりの寂しい食事)はどこがどう違うんだろうか。私には、日本ではなぜ「個食」が広がるのか、その理由を説明できなかった。

(つづく)

田邑恵子(たむら・けいこ)

北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。人口3千人という片田舎の出身だが、国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。美味しい中東料理が大好きで、食に関するアラビア語のボキャブラリーは豊富。