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アンジーはやっぱりすごい 紛争下の性的暴力を終わらせるグローバルサミット 

木村正人在英国際ジャーナリスト

米女優アンジェリーナ・ジョリーさんとヘイグ外相が主催する「紛争下の性的暴力を終わらせるグローバルサミット」が10日、ロンドンで始まった。13日まで開かれる。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)特使を務めるアンジーはヘイグ外相とともに2012年から「紛争下の性的暴力追放」キャンペーンに取り組んでいる。

13年には、中央アフリカ・コンゴ(旧ザイール)の避難民キャンプを訪れ、性的暴行を受けた被害女性と面会。その前後に、がん抑制遺伝子(BRCA1)の変異が見つかり、予防のため両乳房の全摘手術と再建手術を受けていた。

アンジーは米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で告白するまで手術のことを一切語らず、一緒に活動していたヘイグ外相と世界中を驚かせた。

この日、アンジーのスピーチをストリーミングで聞いて、改めて目頭が熱くなった。社会正義への献身、私心のない透明さ、力なき者への思いやり。まるで天使が話しているようだ。

「レイプが紛争とは切り離せないというのは根拠のない神話です。レイプは市民に向けられた戦争の武器なのです。人々を拷問にかけるため、また、辱めるためにレイプは行われるのです。そして、その標的はしばしば子どもにも向けられます。私たちはこうしたことに責任があるのです」

アンジーはUNHCR親善大使としてアフリカ・シエラレオネを訪れた際、内戦で6万人の女性がレイプされたのを知り、衝撃を受けた。

一方、英国は、紛争下、女性が性的暴力を受けている状況を改善しようとアンジーと協力、女性がレイプを受けても「処罰されない文化」を終わらせるため、2013年の主要8カ国(G8)外相会合で「紛争下の性的暴力防止に関する宣言」を採択した。

翌13年9月には「チャンピオンズ・ネットワーク」を立ち上げ、114カ国が参加する形で新しい宣言を発表。紛争下の性的暴力を処罰するため、以下の枠組みを整えるよう取り組みを進めている。

(1) 国際刑事裁判所などで犯罪者の責任を追及

(2) 性的暴力が組織的な攻撃として行われる場合は人道に対する罪を構成

(3) 武力紛争下のレイプまたはその他の重大な性的暴力は戦争犯罪で、ジュネーブ諸条約に違反

(4) 国家は、重大な違反を行い、命令した個人を捜査し、訴追する義務を有する

(5) 罪に問われた者は、国際規範と整合した形で裁きにかけられるべきである

国連によると、シリア内戦では昨年、3万8千人以上の女性が性的暴力を受けた。しかし、この数字でさえ、氷山の一角に過ぎないのだ。

今年4月にはナイジェリア北東部ボルノ州の学校から女子生徒276人が武装集団に拉致された。西洋教育の排除を掲げるイスラム過激派「ボコ・ハラム」が犯行声明を出した

また、パキスタンでは家族が決めた相手と結婚せずに恋人と駆け落ちした25歳の女性は家族の名誉を汚したという理由で石打ちにされ、殺害された。女性は妊娠3カ月だった。

英国のリスク戦略コンサルティング会社「Maplecroft(メイプルクロフト)」が毎年発表している「紛争下の性的暴力インデックス」2014年版は以下の通りだ。赤色が濃くなるほど危険で、黄緑色になるとリスクは低くなる(注:メイプルクロフト提供、ソマリアを示す矢印は間違い)。

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ワースト10の国は

(1)中央アフリカ、コロンビア、コンゴ(旧ザイール)、マリ、ミャンマー、ソマリア、南スーダン、シリア

(10)コートジボワール

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利局長リーズル・ゲルントホルツ氏は「紛争下では甚だしい人的犠牲が生じるが、女性と少女は特に大きな被害を受ける。あらゆる当事者から性暴力被害に遭い、保護を求める場所がないことが多い」という。

今回のグローバルサミットには米国のケリー国務長官、日本の岸信夫外務副大臣ら世界150カ国から閣僚、軍・司法関係者、人権活動家ら1200人が参加。11日にも性的暴力の捜査と訴追を促進するため、合意するとみられている。

昨年11月、バングーラ「紛争下の性的暴力」担当国連事務総長特別代表の表敬を受けた安倍晋三首相は、日本が平和・安全保障分野での女性の参画・保護のため、今後3年間で30億ドル(約3070億円)超の政府間援助(ODA)を実施することを説明した。

しかし、従軍慰安婦問題の解決を怠っているとして、他の国際人権団体アムネスティ・インターナショナルから「日本が紛争下の性的暴力防止の取り組みを傷つけている」と非難されている。

英国の外交は進化している。アンジーと協力して紛争下の女性を救う旗を立て、女性の地位向上という価値を国際社会で実現しようとしている。アンジーはイスラム過激派の攻撃対象になる恐れもあるのに、まったくひるまない。

アンジーの勇気と英国の価値外交は日本の3千億円より、ずっと重い。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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