「さまよえる靖国」戦争の真実と和解(11)ダボス会議と靖国外交
安倍晋三首相は22日、スイスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)開会式で基調講演したあと、質疑に応じ、自身の靖国参拝について「大変な誤解がある」と説明した。
現地からの報道をまとめるとー。
「靖国神社には戊辰戦争、第一次大戦の戦没者、第二次大戦の戦没者がまつられている。戦犯だけをまつっているのではない。さらに、国籍に関係なく戦争の犠牲になられた方々もまつられている」
「過去の首相も靖国神社を参拝していた。再び戦争で人々が苦しむことがないよう不戦の誓いをした。他の国々の指導者と同じように戦没者を追悼した。中国や韓国の人々を傷つける気持ちはない」
質問したのは中国メディアだった。英BBC放送は「悔恨や謝罪にはまったく触れなかった」としながらも、安倍首相の言い分を伝えた。
安倍首相は靖国神社を参拝した際、「恒久平和への誓い」と題した談話を発表したが、海外ではほとんど報じられなかった。
ダボス会議という国際舞台で、安倍首相本人が靖国を参拝した理由を率直に語ったのは「パブリック・ディプロマシー」という観点から見てマイナスにはならなかったと思う。
「パブリック・ディプロマシー」とは、政府間、国際機関を舞台にした伝統的な外交と対比して「広報文化外交」と訳されることもある。外国の国民に直接働きかける外交のことを指す。
安倍首相の靖国参拝や歴史認識に関する発言は国内支持層に向けられたものがほとんどだ。
真意をはかりかねた海外メディアは日本メディアの解説を通じて靖国参拝の隠された意図を探り、「軍国主義の復活」「歴史修正主義」というレッテルをはるステレオタイプな反応を繰り返してきた。
安倍首相がいう「大変な誤解」は自らまいた種だったと言うしかない。
経済政策アベノミクスについて安倍首相は企業統治、移民規制の改革、2020年までに女性リーダー率を30%に引き上げると構造改革リストを並べ立てたが、それがすべて実行されると楽観するほど海千山千の国際投資家は甘くない。
日本銀行の金融緩和が続く限り、アベノミクスはOKだ。その間にメタンハイドレート開発、移民受け入れ、ソニーなど電子立国ニッポンの逆襲が実現すれば、日本経済を復活させたリーダーとして安倍首相の名前は歴史に残る。
しかし、2~3年後、日銀が息切れしたとき、日本はディスインフレに見舞われ、円安から円高に揺り戻し、株価は下落する。これが一番、考えられるシナリオだ。
想像もしたくない終末シナリオがある。尖閣諸島をめぐって日本と中国が突発的に衝突し、戦争状態に突入する。そのとき日本からのキャピタル・フライト(資本逃避)が止まらず、日本経済は崩壊する。
安倍首相と日銀の黒田東彦総裁の関係は蜜月といわれている。アベノミクスは実は「異次元の金融緩和」という黒田マジックでしかないとマーケットは見切っている。
安倍首相にとって許されない失敗はアベノミクスではなく、「外交」なのだ。世界中のメディアはアベマゲドンという日本の終末シナリオの引き金になりかねないアベ・ディプロマシーに注目している。
こうした見方を批判と受け止めるのは間違っている。中国を変えるのは難しい。だから安倍首相への期待値は高くなっているのだ。
第一次大戦開戦100年に合わせたコラムで「(宥和主義が大戦を招いた)ミュンヘンより(介入が大戦を拡大させた)サラエボに学べ」と警鐘を鳴らした英紙フィナンシャル・タイムズの著名コラムニスト、ギデオン・ラクマン氏は安倍首相が出席したセッションのモデレーターを務めた。
それほど世界で発信力を持つラクマン氏がフィナンシャル紙のダボス発ブログで安倍首相とのやりとりを紹介している。
ラクマン氏「中国と日本の間の戦争は考えられるか」
安倍首相「中国と日本の緊張は第一次大戦の数年前のドイツと英国のライバル関係に良く似た状況だ」
「現在の中国と日本にも、100年前のドイツと英国と同様、非常に強い貿易関係がある。しかし、第一次大戦ではドイツと英国の貿易関係は大戦勃発を防ぐことはできなかった」
「偶発的な紛争勃発は災厄だ。日本は中国に対して、中国人民解放軍と自衛隊の対話チャンネルを開くよう繰り返し求めている」
「アジア太平洋地域が不安定化しているのは、中国が毎年、国防費を10%ずつ増やしているからだ」
「今年後半、日米は安全保障について協議する。日本は米国との同盟関係を強化したい」
ラクマン氏が驚いたのは、自分が尋ねた「日中戦争の可能性は?」という質問に安倍首相が「問題外だ」と一蹴しなかったことだ。ラクマン氏と安倍首相のやりとりに、世界と日本の典型的なパーセプション・ギャップ(認識のずれ)が見て取れる。
(つづく)