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「東芝が買収方針の英原発会社に韓国も触手」英紙FT

木村正人在英国際ジャーナリスト

東芝が子会社の原発設備大手、米ウエスチングハウス(WH)を通じ年内にも買収する方針を固めている英国の原発事業会社ニュージェン(NuGen)に韓国電力公社(Kepco)が参入しようと交渉していると英紙フィナンシャル・タイムズ電子版が19日、報じた。

脱原発にUターンしたドイツと違って原発建設計画を進める英国にはすでに日本の日立製作所をはじめ、中国国有の原発大手、広核集団(CGN)などが参入。日本、中国、韓国による三つ巴の原発建設争奪戦は激化する気配が濃厚となっている。

ニュージェンは、英・イングランド北西部のウェストカンブリアに最大出力3.6ギガワットの新世代原発を建設し、2023年ごろに稼働させる計画だ。

ニュージェンの株式は現在、電力大手の仏GDFスエズとスペインのイベルドロラが50%ずつ保有。原発建設予定地の使用契約が来年に切れ、英政府が再入札を実施、ニュージェンに対し負担増を求める可能性が出てきたため、両社は新たなパートナーを探している。

日経新聞のこれまでの報道によると、WHがイベルドロラから40%程度、GDFスエズから10%程度の計50%以上の株式を取得する方向で交渉しているという。ニュージェンの経営権をめぐっては仏アレバも興味を持っているとみられている。

しかし、フィナンシャル・タイムズ紙によると、英政府は原発建設と稼働をより確実なものにするため、複数の出資者が協力することを模索している。

当初、ニュージェンに注目していた中国の国家核電技術公司(SNPTC)は「中国の原子力発電技術を使うなら投資する」と要求したため、イベルドロラが拒否。

これに対して、韓国電力公社は無条件で、単なる出資者でも構わないといい、同紙は関係筋の話として「韓国電力公社は彼ら自身の技術より、むしろ東芝とWHの技術を使う用意がある」と報じている。

韓国では昨年以降、原発の安全性を疑わせる問題が続出。原子炉20基の安全性テストに関する2万2千通の書類のうち277通が偽造されていたことが判明、過去9年間で原発部品の品質証明書が2287件偽造されていたことも明るみに出た。

釜山にある古里原発1号機では、すべての外部電源が12分間も喪失する事故が起きていたのに、1カ月以上も隠蔽されていた。

こうしたことから、英国の関係者はフィナンシャル・タイムズ紙に「こんなに安全性に疑問符がついているのに、なぜ契約を望む理由があるのか。英国内での原発への信頼を損ない兼ねない」と漏らしている。

韓国は2009年、アラブ首長国連邦(UAE)の原発工事を受注して、世界を驚かせた。今後20年間で、世界中で原子炉80基を販売し、世界3位の原発輸出国になる計画をぶち上げている。

英国では、日立製作所が昨年秋、英国の原発事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収。CGNなど中国企業2社は原子炉増設を計画するヒンクリーポイント発電所へ一部出資するなど、アジア勢の動きが活発になっている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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