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ロイヤルベビー誕生へ(5)スーパーファンも泊まり込み

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国のキャサリン妃が第1子を出産する予定のセント・メアリー病院リンド病棟前から携帯電話で出演してほしいとフジテレビの「情報プレゼンター とくダネ!」と依頼があり、15日夜は病棟前で過ごした。

手持ち無沙汰にしていると、「今、何時ですか?」と、英国旗ユニオンジャックをデザインしたカジュアルウェアを着込んだ男性が素っ頓狂な声で話しかけてきた。

「あと30分ほどで午前零時です」。電話出演は午前零時すぎからだったので、ベンチに腰掛けて男性と話し込んだ。男性は「ダイアナ元皇太子が亡くなった1997年からロイヤル・ファミリーの追いかけをしているんだ」と言葉を続けた。

男性はジョン・ラクリーさん(58)。この日午後5時に病棟前にやってきた。第1子が誕生するまでベンチで野宿する覚悟だ。ロンドンはこのところ珍しく夏のような暑さが続いている。

「ダイアナは19歳で結婚した。若すぎたんだ。ウィリアム王子とキャサリン妃は時間をかけて愛を確かめ合ったから2人は永遠さ」と話すラクリーさんはビニール袋の中から赤ちゃんの人形を取り出した。袋の中には大きなユニオンジャックも入っている。

ロイヤル・ファミリーの追いかけとして知られるジョン・ラクリーさん(木村正人撮影)
ロイヤル・ファミリーの追いかけとして知られるジョン・ラクリーさん(木村正人撮影)

アシスタント・シェフだったラクリーさんは10年前、パートナーのマリオンさんを皮膚がんで亡くした。子供はいないという。

ラクリーさんは「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙に「ロイヤル・ファミリーのスーパーファン」として何度も登場したことがある名物男。

「中国のウェブサイトにも僕の写真が載っているよ。今日、大衆紙サンが取材に来て写真を撮っていったから、まもなく掲載されるはずさ」

1997年のダイアナ元妃の葬儀では場所取りのため4日間泊まり込んだ。

2007年10月から始まったダイアナ元妃の死因審問には毎朝5時に起きて約半年間、中央裁判所に通いつめた。ユニオンジャックの洋服姿で額に「ダイアナ」、ほっぺに「ドディ」と青くペイントしたラクリーさんはすっかり有名人になった。

「ドディ」とは97年8月31日、ダイアナ元妃とともにパリで非業の交通事故死を遂げたエジプト系英国人の大富豪ドディ・アルファイドさんのことだ。

「検死官が僕のことにも言及したので、記録に残っているよ」

ラクリーさんは2年前のロイヤルウェディングでも結婚式場のウェストミンスター寺院前で野宿し、大きな写真が掲載された。

ロイヤル・ファミリーの追いかけをしている理由について、ラクリーさんは英メディアに「僕は祖国に1000年以上も貢献してきた英王室にいつも忠誠を尽くしている」と答えている。

ラクリーさんと僕の目の前でオーストラリアの24時間ニュース局の男性キャスターがレポートを収録していた。もう、これで10日連続という。

男性キャスターは「もう疲れてきたので、そろそろ生まれてほしいね。視聴者はニュースに全然、飽きてない。ウィリアムもケイトもオーストラリアではスーパースターなんだ。明日も午前7時すぎにはここに戻ってくるよ」と肩をすくめた。

英連邦に属するオーストラリアの元首はエリザベス女王だ。オーストラリア国内には昔から植民地時代の名残である立憲君主制を廃止して共和制に移行しようという声が結構ある。

「共和制論者は劣勢だね。若い世代がウィリアム王子とキャサリン妃を熱狂的に支持しているよ。ロイヤルベビーが誕生すれば英王室人気は安泰さ」と男性キャスターは話す。

ウィリアム王子とキャサリン妃の自然なスタイルはダイアナ元妃のような派手さはないものの、健康的な魅力を世界中にふりまいている。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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