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空襲中のトイレエピソードが「下品」とご指摘されたらと制作統括は心配した #ブギウギ #朝ドラ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

「このシーンいいなあ、好きだ」

スズ子と愛助のふたりに、確たる愛情を感じる

朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」、第11週でスズ子(趣里)は村山愛助(水上恒司)と出会い、第12週では、告白、キス、愛助の母・トミ(小雪)の反対、愛助の病と急展開が続く。

並行して戦争も激化している。第60回では、愛助の家に通うようになったスズ子がトイレに籠もっていると、空襲警報が鳴って……。

深刻な状況ながら、おかしみもある「ブギウギ」ならではの展開だった。この場面の裏話を「ブギウギ」制作統括の福岡利武チーフプロデューサーに聞いた。

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

「空襲で避難しようと愛助がやきもきしていると、スズ子が思いっきりおトイレに行っているという(笑)、これは足立節です。脚本の足立紳さんはこういう世界観が好きなんだと思います。現場も、みんな、面白がって、撮影がめちゃくちゃ楽しそうでした。何より愛助役の水上くんが『このシーンいいなあ、好きだ』と言いながらお芝居していたのが印象的です。僕も本当にいいシーンだなと思いました。面白いけれど、スズ子と愛助のふたりに、確たる愛情を感じるんですよね。これがきっかけで愛助がはじめて『スズ子』と呼び、そのあと、キスシーンに。素晴らしい流れだなあと思いました。僕としては、朝からちょっと下品だとご指摘されることが怖いと一瞬、心配が脳裏をよぎりましたが、それよりも、面白さを選択しました。趣里さんも、非常に生き生きと演じてくださいました」

食べることは生きること、という信条は、「ゲゲゲの女房」「カーネーション」「ごちそうさん」などで語られてきた。「ブギウギ」では「歌うことは生きること」を打ち出していたが、排泄も生きることという真理が素晴らしい。

年下の恋人は珍しい?

ほかに、ヒロインの恋の相手が9歳も年下というのも、朝ドラでは珍しい気がしたが?

「ほかにも年下夫の朝ドラがあったとは思いますが、現代ものではなく、時代が昭和ものだと珍しいかもしれないですね。実際、スズ子のモデルの笠置シヅ子さんも、年下の方とお付き合いしたので、ドラマにしてもしっくりきました。最初はファンとしてスズ子に出会うことが面白さだと思っています。史実を意識して……ということではなく、『ブギウギ』らしい恋愛をしっかり描きたいと考えました。愛助は、エンターテインメントが大好きで、スズ子の歌や踊りに惚れ込み、最初はファンとスターという形で出会うけれど、面と向かって話をしていくうちに、スズ子自身の魅力を感じて好きになっていく流れが年齢差関係なく自然に見えてよかった。年下の青年がスズ子に惚れ込む確かな理由と、彼の夢も大事に描けたと思います」

完璧なラスボスが出来上がった

だが、微笑ましく愛を育むスズ子と愛助の前に、愛助の母にして、村山興業の村山トミが立ちはだかる。

「ラスボス感があると言われますが、小雪さんの母性の表現が素晴らしいと思ってのオファーでした。怖く描こうとは意識していなかったんです。でも、非常に仕立ての良い着物を着て、ボリュームある髪型をしたら、完璧にラスボスが出来上がってしまった。ものすごい存在感なうえ、大阪弁が達者なもので、予想以上の押し出しの強いお母ちゃんが出来上がってびっくりしました(笑)。『ほな任せるわ』とだけ言って去っていく。その全部は言わない感じが逆に怖いですよね。愛助は許されたと思い、スズ子は、その言葉の裏を想像して、身を引き締める。小雪さんの絶妙な演技でいいシーンになりました」

第13週ではスズ子と愛助はどうなるのか。愛助が血痰を吐いたことも気になる。

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間を振り返ります
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛 菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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