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尾上菊之助さんが落下アクションに挑戦「歌舞伎の宙乗りとは違う感覚」NHK『探偵ロマンス』

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「探偵ロマンス」より 写真提供:NHK

NHK大阪局で制作された探偵活劇「探偵ロマンス」は、謎の貿易商・住良木平吉(尾上菊之助)の正体がわかりはじめ、いよいよクライマックスに突入する。のちの乱歩・平井太郎(濱田岳)と名探偵・白井三郎(草刈正雄)と住良木との対決はいかに? 

最終回はユニークなアイデアを凝らしたアクションシーンの総決算で、草刈正雄さんのみならず、濱田岳さんも、松本若菜さんもワイヤーで飛ぶ。尾上菊之助さんにも一大アクションが用意されている。大活躍した菊之助さんに住良木平吉の秘密を明かしてもらった。

尾上菊之助さんとは 

歌舞伎の名門・音羽屋に生まれる。歌舞伎俳優としての活動のみならず映像でも活躍。大河ドラマ「西郷どん」、日曜劇場「下町ロケット」「グランメゾン東京」、朝ドラこと連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」、映画「イチケイのカラス」などに出演。歌舞伎では新作にも取り組み、「風の谷のナウシカ」の歌舞伎化も注目された。3月4日からはIHIステージアラウンド東京で企画、演出した「新作歌舞伎ファイナルファンタファンタジーX」が上演される。

住良木平吉とは  

「探偵ロマンス」の登場人物。上海帰りの貿易商で「赤い部屋」のメンバー。白井三郎や平井太郎を翻弄する謎めいた存在である。

もっと彼らの物語を見たい

――住良木平吉をどういう人物として演じていましたか。

菊之助「上海帰りの貿易商として登場しますが、実は白井三郎と過去から因縁があり、対決を繰り返しながらも、三郎に負けたくないし、愛されたいというような屈折した想いを抱いている人物です。だから三郎と親しい太郎には嫉妬を感じているのでしょうね。なんで俺じゃないんだと(笑)。ただ、最初に台本を読んだときは、住良木に限らず、どの登場人物の出番も断片的で、それが連なってできている構成なので、住良木に感情移入できる部分がみつからず、櫻井(賢)チーフプロデューサーに相談したこともありました。脚本の坪田文先生がこのドラマの前日譚――エピソード0のスクリプトを書いてくださって、ようやく住良木の全貌が見えてきて。謎ときのおもしろさを楽しむドラマでもあるので、スタッフの皆さんの協力を得てミステリアスに見えるように演じました。第2話でお百(世古口凌)にキスされそうになるシーンのロケは神戸の税関のトイレの中で、このような大正時代の風情の残る場所の雰囲気に助けられたことも多々ありました」

――第3話で、お勢(宮田圭子)に変装して三郎たちを翻弄したり、お百を操ったりしていたことがわかりました。

菊之助「『私はあなたの物語が聞きたいです』と言って、他者の心に入り込み、理想を語らせ、その理想を、住良木の求める理想にすり替え、自分のやりたいことに利用していくことが住良木のやり方です。僕は、若者の夢を食べる獏のような人物を想像し、人の心の奥底を覗き見るような眼差しを意識しました」

――江戸川乱歩の世界でいうと、怪人二十面相的な役割かなと思いますが(怪人二十面相の本名も平吉)、意識しましたか。

菊之助「小学生の頃、図書館に乱歩の『少年探偵団』シリーズがあって読んだ覚えがあります。表紙や挿絵が怖かったし、内容にも闇があるような気がしました。乱歩の誕生秘話として書かれた『探偵ロマンス』も、乱歩作品の根底にある、大正という激動の時代に、恵まれず、闇の世界でしか生きられないような人たちを、坪田さんがうまく取り入れてエンタメとして描かれたように感じます。“イルべガンの卵”という宝をめぐってのやりとりにも壮大な物語があるようですし、住良木は白井三郎や平井太郎の好敵手になりそうですから、私自身ももっと彼らの物語を見たいと感じています。櫻井チーフプロデューサーにも、続きがあるでしょうか、と聞いてしまったくらいなんですよ(笑)」

――住良木も闇の世界でしか生きられない人でしょうか。徹底的な悪なのか、彼なりに理があるのか、どのように解釈されましたか。

菊之助「若者との会話のシーンや、どういうふうに状況を導いていったのか想像したとき、時代も何もかも全然違うのですが、映画『三島由紀夫VS東大全共闘〜50年目の真実〜』を思い出しました。三島由紀夫が東大生たちと討論することと、住良木が若者たちの話を聞くことは少し似ているように感じたんです。三島さんは彼に反発する学生たちのなかにどんどん入っていって、それもわかるけどねえ、などとウィットに飛んだ会話で若者たちと語り合っていきます。住良木も、社会に対して鬱憤がたまった若者の話を、うんうんそうそうと聞いていたのだろうなあと。住良木は若者の不満や理想を利用していますが、彼にも理想郷のようなものがあって、それを作りたかったのではないかと思いました」

――ドラマのなかで描かれた“世界”と自分との関係をどう思いますか。

菊之助「彼の生い立ちに関わってくることですが、状況がよくない理由を世界が悪いからだと思っているのでしょう。世界のせいでは決してなく、自分の心持ち次第で、人生は、ポジティブにもネガティブにも変わるものですが、心が弱いと、つい他者や社会のせいにしてしまうことがおこりがちで、それを住良木はわかって他者の心の隙を突いて利用するんでしょうね」

視聴者の皆様にはらはらして見ていただけたら

――第4話ではワイヤーを使ったアクションシーンがあります。いかがでしたか。

菊之助「ビルの4階からワイヤーで吊ってもらって仰向けに倒れて落下するアクションをしました。飛び降りたことがなかったので怖かったですが、視聴者の皆様にはらはらして見ていただけたら幸せです」

――歌舞伎の宙乗りとは違いますか。

菊之助「感覚は違いました。宙乗りは飛んでいるように見せる演技をしますが、映像で落下する場合、落ちる臨場感をどういうふうに見せることができるか、アクション監督の横山誠さんに教えていただきながらやらせていただきました」

――草刈正雄さんとの共演はいかがでしたか。

菊之助「たずまいがかっこよく、気さくな、草刈正雄さんのようになりたいと思いました。事前に台本を覚えていて現場では台本を開いていないのを見て、仕事に向き合う姿勢が役からにじみ出る情感や重みになると感じ、尊敬を覚えました」

――連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で2代目モモケンを演じたとき、初代との差別化でほくろをつけるアイデアを考えられたそうですが、今回、なにかご自分でアイデアを出されたことはありますか。

菊之助「ほくろは、化粧の山﨑邦夫さんがアイデアを出してくれて、それいいですねえということでやってみました。今回は、スーツのデザインを高貴な感じにしたくて、衣装の宮本まさ江さんと相談して、アスコットタイはどうかなとか、赤いストールをシンボリックに巻いているとか考えました。歌舞伎の衣裳でも、配色によって人柄が現れ、細かいところに役の色気が出るものなんです」

「探偵ロマンス」より 写真提供:NHK
「探偵ロマンス」より 写真提供:NHK

すべての謎が明らかになるのか

――お勢を演じていた設定ですが、なにか工夫しましたか。

菊之助「宮田圭子さんに感謝しています。第2話で三郎と別れる場面や、第3話のキスシーンで、瞬間、男のような声や仕草をされたのがすごいと思ったんです。そうやって僕に役を手渡してくれた気がして。『やさしい人は哀しい人ね』という共通のセリフを言うとき、僕は、宮田さんのやさしい眼差しやふっくらした笑顔をヒントにいただきました」

櫻井CP「第1、2話の本読みのとき、菊之助さんが、宮田さんがお勢のセリフを言っているとき、唇を動かして、お勢のセリフをカラダに入れていたのが印象的でした」

――最終回をご覧になるかたにメッセージをお願いします

菊之助「1〜3話にかけて、謎ときの種がたくさん散りばめられ、見たひとが探偵小説を読んで謎ときをしていくような構成になっています。第4話ではすべての謎が明らかになるのかーーご期待ください」

『探偵ロマンス」より 写真提供:NHK
『探偵ロマンス」より 写真提供:NHK

土曜ドラマ「探偵ロマンス」

【放送予定】

毎週土曜 総合 夜10:00~10:49 <全4話>

2/11(土・祝) 後3:32~後5:59 <関西地方>1~3話一挙再放送

※最終回は2月1日夜10時〜

【脚本】坪田文

【音楽・主題歌】大橋トリオ

【出演】濱田岳 石橋静河

泉澤祐希 森本慎太郎 世古口凌 杏花 原田龍二 本上まなみ 浅香航大 浜田学/ 松本若菜 上白石萌音 近藤芳正 大友康平 / 岸部一徳 市川実日子 尾上菊之助 草刈正雄 ほか

【制作統括】櫻井賢

【プロデューサー】葛西勇也

【演出】安達もじり 大嶋慧介

物語

20世紀初頭、帝都では、世界大戦による好景気の終えんにより超格差社会が生まれ、犯罪や強盗がはびこるうえに、スペイン風邪がまん延していた。のちに江戸川乱歩となる平井太郎(濱田岳)は初老の名探偵・白井三郎(草刈正雄)とバディを組み探偵稼業をはじめる。やがて太郎は明智小五郎や怪人二十面相などの登場人物を思いつき傑作ミステリーを生み出していく。上海帰りの貿易商・住良木(尾上菊之助)、秘密倶楽部の妖艶な女主人・美摩子(松本若菜)、太郎を見下す新聞記者の潤二(森本慎太郎)、鬼警部・狭間(大友康平)、バーのマスター伝兵衛(岸部一徳)、魅惑の踊り子・お百(世古口凌)、三郎と昔なじみのお勢(宮田圭子)、太郎が文通している隆子(石橋静河)、太郎の友人・郷田初之助(泉澤祐希)などと関わりながら太郎が見つけ出すものはーー

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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