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ドラマでYouTuberは悪人に描かれがち。「恋はDeepに」では「愛される存在にしたい」と福山翔大

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「恋はDeepに」より  写真提供:日本テレビ

石原さとみさんと綾野剛さんW主演のラブコメ「恋はDeep に」(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)は石原さん演じる海を愛する主人公・海音に意外な秘密があることがわかって話題です。海音の動画をたまたま撮影しバズったことに気をよくしたYouTuberにも追いかけられて……とこのYouTuber・Mr.エニシ役を演じているのが、福山翔大さん。大河ドラマ「青天を衝く」では出番は少ないながら主人公・渋沢栄一(吉沢亮)とそのいとこ・尾高長七郎(満島真之介)に大きな影響を与える役でした。憂国の志士とYouTuber、まったく違う役のように見えますが、時代の先端にいる若者という点では共通点があるように思えます。彼らの生き方をどう思って演じているか、ネクストブレイカーとして注目の福山さんにインタビューしました。

石原さとみ演じる海音と綾野剛演じる倫太郎の恋の行方が気になる「恋はDeepに」 写真提供:日本テレビ
石原さとみ演じる海音と綾野剛演じる倫太郎の恋の行方が気になる「恋はDeepに」 写真提供:日本テレビ

なぜかドラマではYouTuberが悪者に描かれがちだけれど……

――大河ドラマでは硬派な幕末の志士・河野顕三を演じていましたが、「恋はDeepに」(以下「恋ぷに」)では弾けた現代っ子役ですね。どちらが福山さんに近いですか。

「わからないです(笑)。ただ、いままで『恋ぷに』のMr.エニシのような陽気に弾けた役をやったことがなかったので手探りでしたが、撮影が終わったとき、こういう役にもまた挑戦したいと思いました。大河ドラマの河野顕三のような役は自分がもともとやってきた武道(剣道二段、空手も特技)の延長線上にあり、エニシは武道とは程遠いですが、どちらの役も共通していることがあるんですよ。自分のためではなく、誰かのために行動することがどちらの役にも共通しているように思って、どちらの役も好きになりました。エニシははじめのうちは、自分の動画がバズるために行動していますが、今後、誰かのために動くようになっていきます。僕自身も誰かのためにお芝居することが醍醐味と思っているので共感できます」

――エニシはこれから変化するんですね。

「中盤くらいまではフラフラしているし、自分自身が売れるため、動画がバズるために行動して海音さんにとっては迷惑な存在ですが、途中から様子が変わっていきます。なんでこんなことをしているのだろう? ここまで人を傷つけてまでやることなのだろうか? と自分の行動に疑問を感じるようになって、最終的にはYouTuberとして生きる彼なりの意味をみつけます」

――YouTuberという職業をどう思いますか。

「YouTuberの方々はすごいと思います。自分で企画して撮って編集しているのですから。でもなぜかテレビドラマなどの物語に登場するときは犯人だったり主人公を邪魔する役割だったり、悪者的に描かれがちですよね(笑)。今回はそのイメージが変わってより愛される存在になったらいいなと思っています」

――福山さんはSNSで発信するとき心がけることはありますか。

「ツイッターとインスタグラムのアカウントを持っていますが、SNSとどうつきあっていくか試行錯誤中です。もともと僕はSNSにあまり関心がなかったのですが、エニシを演じるにあたり触れてみようと思ったことと、昨今はSNSを宣伝に組み込むことが不可欠でもあるため、今は少しずつ勉強しながらやっています。伝えたいことが誰もに等しく伝わるようにすることはなかなか難しいですよね。ひとつ言葉を間違ったら炎上してしまいますし。でも、その逆もあって、短い言葉で多くの皆さんに豊かなものを届けることもできます。どうしたら後者であることができるか、iPhoneとにらめっこしているところです(笑)」

――演じる仕事をしながら発信もしていて、大変ではないですか。

「僕もそう思って、共演者の皆さんに『どうやっているの?』と聞いています。あくまで番宣告知に限っている方もいれば、パーソナルのことまで発信する方もいて、人それぞれですけれど、自分にできる範囲を見定めることが大事だと感じます。例えば、パーソナルなことを書くには慎重になる必要があるから時間もかかるし、どこまでさらけ出すか書き方の工夫が必要ですよね」

――いずれにしても俳優のかたには表現者であってほしいと思います。

「そこは絶対にブレたくないと思います。役者と名乗っている限りはそこを第一にしたいです」

どこまでも高く翔んでほしいと言ってもらって

――俳優になるきっかけはなんだったんですか。

「父が映画好きで。とくにブルース・リーとジャッキー・チェンが好きで、週末に映画館によく連れていってもらっていたため、幼い頃から映画や映画俳優は輝かしいものと感じていました。とはいえ、K-1選手になりたいとか大工さんになりたいとか夢はいろいろあったんです。それがなぜか高校の進路相談のときに『俳優になりたい』と勢いで言ってしまったんですよね。そして俳優養成所に入って『クローズ EXPLODE』 のオーディションに受かってデビューして、いま、こうしています」

――転機になった作品はなんですか。

「事務所に入ったものの、オーディションに受からない時期が続いたことがありました。口では役者を続けると言っていたけれど、どこかでガス欠になっていて、どうしようと思っていたときに、たまたま受かった江口カン監督の『ガチ☆星』と競輪を題材にした作品が分岐点になりました。とにかく現場が壮絶だったんです。監督にとって初長編作で気合が入っていて、なかなかOKが出なくて。競輪選手の役なので肉体的にもかなり消費して、ロケ先のホテルに戻ると爆睡してしまうくらいしんどかったですが、だからこそやり終えたときの充実感が言葉にできないほどのものでした。演出部、照明部、装飾部、制作部……等々、各部署のプロが1シーン1シーン全力を注いでいる姿を目の当たりにして、僕もまだ役者としてやるべきことがたくさんあることに気づかせてもらいました。そこからですかね、前のめりで、なにがあろうと絶対にこの道から外れるものかと思いようになったんです」

――いろいろな作品に出ていますが、「恋ぷに」の山口雅俊プロデューサー作品によく出ていますね。

「山口雅俊さんは『闇金ウシジマくん』と『やれたかも委員会』にも呼んで頂いたのですが、今回、現場で、山口さんにエニシは『ウシジマくん』のJPと同じく『ぶっちゃけ正解ないキャラだよね。なんとでもできるからこそどこまでも高く翔んでほしい』と言ってくださったんです。エニシには『声のでかいキャラに』と提案もいただきました」

――大ヒットしている「花束みたいな恋をした」にも出ています。あの映画のヒットをどう思いますか。

「『恋ぷに』の撮影スタジオの隣で『コントが始まる』の撮影をしていて、菅田将暉くんと有村架純さんとすれ違ったときに、『ヒットしてますね』『ありがたいよね』という話をしましたけれど、そういう会話を交わした時間がすべてで、それ以上でも以下でもなくて……。映画もドラマも、これやったらヒットする方程式があるわけじゃないのでわからないですよね」

――「花束〜」の撮影で印象に残ったことはありますか。

「撮影のときはけっこう緊張していました。僕がインした日がすでに組全体のクランクアップ直前で、できあがったムードがあったからなのですが、有村さんと菅田さんが目線だけでお互いの感情が伝わっているのがよくわかって、言葉ではない部分がちゃんと出来上がっているステキな作品であることを感じながら演じました」

――みんなが自分の体験に照らし合わせ自分語りしたくてしょうがなくなる映画ですけれど、福山さん、どうですか。

「主人公たちと年代的に近いので僕も刺さりました。この間、二子玉に行ったとき、『花束〜』のことが浮かんできました。いい作品とは物語が終わったあとも心に残って、例えば、ロケ地にたまたま行ったときに思い出のシーンが鮮やかに蘇るものなんですね」

――では最後に、これまでで印象に残っているロケ地を教えてください。

「えええ?(焦) たくさんありますけれど……。じゃあ、ここまでまじめなトーンで話をしたので、あえてちょっと違うトーンで。映画『翔んで埼玉』(19年)の都庁前。3日間、朝から夕方くらいまで閉鎖して、そこにエキストラを1200人くらい入れて大掛かりな撮影をしたことが忘れられないです。大丈夫、都庁だよ? と僕はびっくりしました。こんなことできるんだって。ふだんできないことをやると盛り上がりますよね。映画やドラマってふだんなかなかできないことをやることも醍醐味だと思います」

●取材を終えて

「恋はDeepに」で主人公・海音の映像を撮影しようと執拗に追いかけるYouTuberエニシが第1話で海音と倫太郎(綾野剛)がキスしているところを撮影していたとき、エニシはにぎやかし役のようで意外とキーマンなのではないかと思った。海音が海で溺れた倫太郎をどうやって助けたかその秘密も撮影されているのではないか?とか……妄想が膨らんだ。

ドラマは海音と倫太郎の運命の恋と環境破壊問題が主軸になっているが、ネット社会を生きる若者代表として情報とどうつきあっていくか、エニシが背負う部分も大きい。みんなの知りたい真実を広く伝える役割もある一方で、不都合な真実を暴いてしまうこともある。

福山さん自身、SNS との付き合い方についても慎重に考えながら、俳優としていかに成長し高く跳ぶか日夜、試行錯誤している。

本業の演技も、大河ドラマで包帯をして片方の眼の動きだけで表現したかと思えば、「恋ぷに」では現代的なファッションで軽快に動き回ったり、ビジュアルにも工夫して、演じる努力をしているところが頼もしい。心が動いていることが重要なのは当然だけれど、視覚に訴えることも重要なのである。その一手を惜しまない福山さんのこれからに期待する。

名前のように大きく翔んでほしい福山翔大さん

Shodai Fukuyama

1994年11月17日、福岡県生まれ。2013年、ドラマ「みんな!エスパーだよ」、14年、映画「クローズEXPLODE」に出演。以降、ドラマ、映画で俳優活動を行う。近作に映画「花束みたいなキスをした」「ブレイブ-群青戦記-」「砕け散るところを見せてあげる」、大河ドラマ「青天を衝け」、「恋はDeepに」などがある。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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