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藤原竜也と香川照之を困らせた"悪魔のLINE" 「新しい王様」はこうしてできた

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

ドラマ「新しい王様」が「ヤバいくらい面白い」とSNSで話題沸騰だ。

2年前にTBS系列で毎夜「NEWS23」直後の枠で2週連続でオンエアされたスペシャルドラマが2020年元日からParaviに加えアマゾン・プライムビデオでも配信されている。

「観出したらやめられない」「深夜に観始めたらダメ。面白すぎて止まらない」「なんでこんな企画が通った」などの書き込みがネット上に踊る。

配信ブームにコロナ禍も加わって急速に変わりつつあるテレビ番組やテレビ局の価値。それを見据えたかのようなドラマ「新しい王様」が登場したときは痛快だった。硬直したテレビ局を自由人の実業家とカネやモノに執着する投資家が買収するというストーリーで新しい価値観を発信していこうとするドラマ。華麗でおバカな金持ちたちの生態もさることながらテレビ業界の“あるある”もいっぱい、富裕層でなくても楽しめる。

このドラマを作ったのは山口雅俊。90年代から00年代前半のフジテレビで、木村拓哉主演の「ギフト」や竹内結子主演の「ランチの女王」、監察医もののさきがけとも言える深津絵里主演の「きらきらひかる」などをプロデュース。フジテレビから独立したのち、「カイジ」シリーズを立ち上げたり「闇金ウシジマくん」、「新しい王様」などの企画・プロデュースなど、乾いたユーモアを交えながら時代を俯瞰して描き出す手腕は冴え渡るいっぽう。

孤高の天才プロデューサー・山口を尊敬してやまないTBSの植田プロデューサー。21世紀のはじめドラマに変革をもたらしたと言われる「ケイゾク」(99)は「きらきらひかる」がなかったら生まれなかったと明かす。

局を離れ独立した山口と、TBSの植田が語り合うドラマの今昔。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

「金貸しと監察医ものしかつくることができないと守備範囲がせま過ぎるよ」と言われた90年代

植田:「新しい王様」(19、20)は山口さんのプロデュース・脚本・監督で、TBSの窓口が石丸彰彦(「JIN―仁―」などプロデュースした)君でしたが、あの企画を即決した石丸君は、なかなかの人物だなと思いました。通常だとビビって通せない企画でした。

山口:先日、フジテレビの知人にたまたま道で会ったら、「『新しい王様』、ほんとにすごい。大好きです。が、おおっぴらに好きとは言えません」と後ずさりしながら言われました(笑)

テレビ局のタブーをいろいろ開けっぴろげに描いたからかなあ。

植田:全然、そんな発想に至らなかったなあ。単純にエンタメとして面白くて震えましたよ。僕、山口さんのことは昔から一方的に大好きで、なにかのパーティーではじめてお会いしたときに、挨拶したら「植田くん、知ってるよ」と言ってもらって、その言葉に感激して昇天しそうでした(笑)。山口さんは、灘高、東大、コロンビア大学を出てMBA まで取得したほどの高学歴で、それがなぜドラマの世界に?とずっと疑問なんです。でも、山口さんがドラマ界に来なかったらいまのドラマ界は違っていたと思います。少なくとも「ケイゾク」(99)は生まれていなかった。山口さんのドラマをまんまパクったのが「ケイゾク」ですから(笑)。

山口;日本の高学歴の人たちは、与えられた問題に対して百点はとることができるけれど、自分で問題を探すことに長けていないので、それほどおもしろい仕事をしてるヤツっていないんですよ。そういう状況下、ドラマづくりはおもしろそうだと思って、当時、民放の雄、報道の雄、ドラマの雄とされていたTBS を受けて、内定も頂きました。でも結局新卒では入社しないで、途中からフジテレビに潜り込みました。山田良明さん(「北の国から」などを手掛けた元フジテレビのプロデューサー。最近、俳優にも挑戦。山口が企画協力、プロデュースした「ハケンの品格」に出演した)から単発でもいいから企画を立ち上げろと言われ、中居正広くん主演の「ナニワ金融道」(96)を作りました。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

植田:ウルフルズの「貸した金返せよ♪」(「借金大王」)が主題歌でしたね。音楽も含め、最高なドラマでした。90年代のフジテレビって、トレンディドラマをやる者以外、人にあらずみたい雰囲気で、そのなかで、山口さんだけが徹底的に独自の作家性のあるものを作り続けてきたという印象です。

山口:「ナニワ金融道」や「きらきらひかる」をつくったとき、大多亮さん(「東京ラブストーリー」のプロデュースを手掛けた当時のトレンディドラマの旗手)から「金貸しと監察医ものしかつくることができないと守備範囲がせま過ぎるよ」と注意されたり。でも今ではフジテレビは月9で「監察医 朝顔」をやっていますから隔世の感があります(笑)。

植田:木村拓哉さんを主演に、ラブストーリーではない「ギフト」(97)を作ったのがすごいですよね。あれは死ぬほどかっこよかったですよ。木村さんの代表作として「ギフト」を挙げるひとはドラマ好きには多いですね。

山口:「ギフト」の木村拓哉くんは最高に美しかった。男性スタッフが多かったところに井上由美子さんという女性脚本家に参加してもらっていいバランスがとれたと思っています。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

「アンナチュラル」が「社会的な枠組みをもったエンターテイメント」になったわけ

植田:井上由美子さんを連ドラで意識したのは「ギフト」からですね。

山口:「ギフト」を数本お願いしたあと、「きらきらひかる」(98)で全話担当してもらいました。「きらきら〜」は僕のやりたいことをすべてやらせてもらったドラマです。

植田:「ギフト」はいま見ても全然色あせないですね。「きらきらひかる」は「ケイゾク」が生まれるきっかけになったドラマです。当時、名もなき若手プロデューサーとして、企画書を出しては捨てられてしていたときに、自宅への帰り道、三軒茶屋のTSUTAYAに寄って、なにかパクれるものがないかとDVDの棚を毎日何十周もしていて。当時はテレビドラマの棚面積を占めていて、名だたる連ドラがいっぱいあるなかで、つねに借りられっぱなしで、なかなか借りられない作品が「きらきらひかる」でした。「ケイゾク」を作るとき、堤幸彦さんに「TSUTAYAでずっと借り続けられる作品をやりたい」と言って、共感してもらって、「きらきらひかる」の構造をまんま「ケイゾク」はパクりました(笑)。

山口:いやいや(笑)。

植田:当時、フジテレビではどういう扱いを受けていましたか?

山口:とても褒められました。

植田:ああいう作品を作る人は山口さんのほかにいかなかったけれど、作品を支持するひとは社内にいたんですね。

山口:あと、社内ではないけれど、ホリプロの敏腕マネージャー藤井基晴さんが「きらきらひかる」をずっと好きでいてくれて、ある日藤井さんから突然連絡があって「山口さん、『きらきらひかる』は一言でいうとどういうジャンルのドラマですかと聞かれたので、「社会的な枠組みをもったエンターテイメント」と答えました。

植田:それで僕らは、藤井様から「社会的な枠組みをもったエンターテイメントとして『アンナチュラル』をつくるように」というご指示を受けましたよ(笑)。「きらきら〜」のあとも、「タブロイド」(98)、「アフリカの夜」(99)、「太陽は沈まない」(00)とか「カバチタレ!」(01)とか名作を次々、制作されますが、「ロング・ラブレター〜漂流教室~」(02)はとりわけ異質で、TBSでは絶対作れない、かなわないと打ちのめされました。あれは社内でどうだったんですか。

山口:先行して、もっと実現不可能な漫画原作企画を出していて、それがあまりにも奇想天外な企画だったので、まだましと思われたんじゃないですかね(笑)。相対的に。

植田:相対的に(笑)。いまならまだしも、00年代のはじめにテレビドラマでやったことは画期的でしたよね。僕が「安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~」(13)をやったとき、反対の声もありましたが「漂流教室」と比べたらわかりやすいですよと説明した記憶があります。あのころ、「漂流教室」をやろうとした理由はなんだったんですか。

山口:楳図かずおさんという連ドラに最も合わなそうな作家の作品をあえて連ドラでやってみるのもいいなという感じかなあ。当時「寄生獣」や「ドラゴンヘッド」など燦然と輝く当時映像化は手つかずの漫画作品があって、「漂流教室」がその一つでした。あの世界観をテレビでは全部は表現できないけれど、一見突飛な「漂流教室」がもつ普遍性に着目したらドラマとしても成立する確信があったのと、自分がフジテレビの中で評価され余力があるうちにこういう大変なことをやっておきたかった。予算的なことも含めて破滅しそうな企画をやり遂げることで、「漂流」のテーマじゃないけれど、未来に種が撒かれて、これを見た人があとに続く……といいなと思ったのです。

植田:あと僕は「犯人デカ」(04)が大好きで。あれはもう秀逸ですよね。

山口:「おばさんデカ」とか「JKデカ」とかとにかく「デカ」がつけばドラマのタイトルになるという風潮へのアンチテーゼで犯人なのにデカっていう(笑)。大杉漣さんに主演をお願いしました、

植田:つかこうへいの「熱海殺人事件」を彷彿とさせるような、事件の深さがあって。パッケージのおもしろさだけじゃないぞっていう、山口さんのプライドというか、クオリティーコントロールの深さを感じました。「犯人デカ」のVHSまだ持ってます。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

「新しい王様」の現場ではLINEを使って台本を俳優に送っていた。香川照之いわく「悪魔のLINE」

植田:フジテレビを辞めて独立された経緯は?

山口:サラリーマンとしてキャリアを会社に任せるのではなく、フジの看板を外したときにどこまでできるのか試してみようと思いました。数字、つまり視聴率や予算で判断されることかから自由になりたかったんですね。

植田:局を辞めて独立するひとはたくさんいますが、局の重力を振り切って、ちゃんと第一線に飛び出せた人は山口さんしかいないと感じます。しかも、独立してからの作品が、媚びてなくて、攻め続けていることがすごい。フリーになって、なんでもやりますよっていうプロデューサーもいっぱいいらして、便利使いされたりとか、お会いするたびに名刺が変わっていたりするんですが、山口さんだけはそうじゃない。TBSでは「エジソンの母」(08)がハイブロウだった。地上波で、天才の苦悩みたいなものをあんなにつぶさに描くことにすごくびっくりしました。あれも企画を通したのは石丸くんですか? 3人でお会いして、連ドラやってほしいですという話をしたことがあって、その流れの企画ですよね。

山口:3人で飲みましたね。

植田:それから「闇金ウシジマくん」(10)もよくやるなあと思ったし。「やれたかも委員会」(18)も「犯人デカ」と同じで、パッケージだけだと一見、深夜でエロねらいにいったみたいな印象ながら、山口さんの手にかかったら上質なラブストーリーになる。究極が「新しい王様」ですよね。このひとの背中を追い続けてずっとプロデューサーをやってきたけど、一生追いつけないと思ったのが「新しい王様」でした。最近山口さんは、“カネ”がひとつのテーマになっているように見えます。カネが世界を変えるという事実をエンタメにして、それをただおもしろいだけではなく、見終わったあとにお客さんにぞっとしたものを残す。テーマとしてそこにシフトしているのは意図的なんですか。

山口:人間の本質を描いたドラマを書きたいだけなんです。

植田:アメリカの大統領が決めるよりも、GAFAが決めるほうがいろんなものが動く時代になってきていて、経済的に自立していれば、未婚でシングルマザーとしての生活を選択する女性も増えています。ひとそれぞれの価値観がお金によって守られる時代になってきている。「新しい王様」はお金があったらこれをするみたいな発想じゃなくて、お金があったら、周りが変わってしまうんだってことをさらりと描いている。身近にも参考になるひとがいそうですよね。

山口:「新しい王様」には特定のモデルというのはいないのです。でもお金にまつわる出来事はほんとうに面白いですよ。何百億ももっている金持ちが賭け事をして千円敗けたときの悔しさってなにから来るのかとか、金でなんでもできる人間が金で買えないものはなにかといったことに興味があり、それを「新しい王様」で描きました。だからこそ、今回、Amazonプライム・ビデオでより多くのひとに見てもらいたいです。

植田: 「新しい王様」では脚本と演出とプロデュースを兼務されていますね。ゼロから1を表現するときにほかのひとに任せられないということですか。

山口:「新しい王様」のときは、急遽、自分で書くことになった脚本がギリギリになってしまって。香川照之さんや藤原竜也くんにものすごい対応力があるものだから、それに頼って迷惑をかけてしまいました。僕が現場で急場でスマホで打ったセリフを俳優さんたちにLINEで送ってその場で覚えてもらってすぐ演じてもらって。「悪魔のLINE」と香川さんは呼んでいたらしい(笑)。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

植田:山口さんはクリエイティブのコアそのものだから、誰が脚本を書こうと山口雅俊の作品になっていくのだと思いますが、「新しい王様」では全話脚本を書かれたことでディテールもふくめ、山口さんの見ている世界が純度99.9%的出たように思います。

山口:ともすればこぼれ落ちてしまう細かい部分を大事にするために自分で脚本を書いて演出したいと思うことはあります。でもさすがに、連続もので、プロデューサーと演出と脚本を兼ねることはムチャだった。これからはそういうときはプロデューサーを誰かに任せたいです。

植田:そのときはぜひー僕に(笑)。

山口:植田さんにやってもらえたら頼もしいです(笑)。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

「新しい王様」は新時代の“ハゲタカ”である

植田:地上波、配信と、ボーダレスに活躍している山口さん。これからの地上波、配信はどういうふうになっていくと見えますか。

山口:日本人俳優が、日本語で、日本のネタをやるというこの3つのうちのどれかの要素を捨てないと日本の映像エンタメ業界は生き残れないんじゃないでしょうか。生き残れたとしてもどんどん縮小する小さいマーケットで生きていくしかない。それでもいいならそれでいいし、例えば中国の、海外の華僑も含めた15億人のマーケットが欲しかったら、それに合わせたものをつくるしかない。外に出すときに、日本のネタをやるのはいいけれど、全員日本人俳優が日本語でやることは捨てていかないと。例えば英語のタイトルも考えてから地上波も企画を立ち上げたほうがいい。最初から売れるかどうかはわからないですが、最初から狙っていかないと。

植田:TBSの火曜10時は、まさに日本ローカルで、しかもディープ化してますね(笑)。日曜劇場もそうかな。なら金曜10時が攻めているかといえばそうでもない。海外マーケットに通用するようなものや攻めてるものは、むしろNHKなのかなと思ったりしますよね。

山口:お客さんに媚びなくていいからね。

植田:山口さんはNHKとは仕事しているんですか。

山口:仕事はしたことなくて、NHKで「ハゲタカ」(07)をやったとき、訓覇圭プロデューサーのチームに表敬訪問したくらいです。「ハゲタカ」の登場人物たちは日本社会を憂いていて、そういう真面目なキャラクターもおもしろいけれど、僕はいつか自分なりのハゲタカを作りますって宣言して帰ってきたりで訓覇さんたちにはほんと失礼だったんですけど(笑)、そんな宣言もあって「新しい王様」を作れたんです。

植田:確かに「ハゲタカ」はこうあってほしいという日本人の夢が乗っかっているから、日本人に受けるんでしょうね。「新しい王様」は海外にも受けるような気がしますね。今のIT長者の大半の人は、例えるなら、油田を当てた人って感じがするんです。頭がいいことを生かしてお金にした人たちではなくて、たまたま油田を当ててお金を得たラッキーな人たちって感じ。そこが、「新しい王様」では皮膚感覚でそのまま描かれていてぞぞっとするんですよね。

山口:あとお笑いの情報バラエティ番組のMCみたいな人が時事問題なんかで世論を先導していくみたいなことも面白いです。いまのテレビでは、イエスかノーの二択とか、コンパクトなコメントを求められますが、専門的なことを誠実に伝えようとすると10秒では絶対に答えられにもかかわらず、ざっくり10秒で答える人間が視聴者には誠実に見えるというテレビ的な世界の不思議を切り取りたい。

植田:ゆくゆくは、民主主義とは何かということに切り込んでいくということですか。

お金がテーマのドラマもそうで、山口さんはまるで預言者のようで、つくるドラマにやがて世の中が追いついていくようなんですよね。おそらく、43手詰めの42手までの過程も含めてすべて見えているように感じがします。

山口:そうでもないですけど……(笑)。僕がすごいと思うプロデューサーは、飯島敏宏さん(TBS、ドリマックスで「ウルトラ」シリーズから「金曜日の妻たちへ」まで幅広い作品を手掛けたプロデューサー。演出作も多数)。「新しい王様」にケムール人という生物が出てきますが、あれは「ウルトラQ」に出てきた宇宙人です。飯島さんはその話の脚本を書き演出もされた方。「ウルトラマン」のバルタン星人の話も飯島さん。ケムール人もバルタン星人も子供向けの特撮ドラマのキャラクターでありながら、移民や侵略の問題のメタファーにもなっています。宇宙人の仕草にもひとつひとつ意味があることを飯島さんから聞いて、ひじょうに興味深かった。飯島さんのようにオーソドックスな見識をもちながら、革新的なドラマをつくることはほんとうにすごいことだと思うのです。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

最後に 追悼、竹内結子さん

植田:竹内結子さんが昨年亡くなられましたけど、山口作品には欠かせない俳優でしたよね。

山口「ランチの女王」(02)と「不機嫌なジーン」(05)は、竹内さんの一番いい時期を切り取らせてもらったドラマだと思っています。プロデューサーや監督には、自分の世界観を具現化してくれる俳優がいるはずで、僕にとってはそれが竹内結子さんだった。僕には彼女のようなパートナーはもう現れない気がします。連ドラを2本ご一緒して、その後はいつでも声をかけたら出てもらえるような気がしていたけれど、もっと頻繁に彼女と、あれやりたいこれはどうだと、声をかければよかった。今は何とかこの悲しい気持ちを立て直そうとしています。

植田:山口さんの作品を高純度のアルコール類とすれば、竹内さんってそれを世の中に広げるものすごいおいしい水だったように思えます。同じく山口作品に欠かせない藤原竜也くんと香川照之さんの場合は強烈な原液そのもの感じがします。

●取材を終えて

20世紀と21世紀の間にドラマのパラダイムシフトが来て、演出家で見せる時代がはじまったと言っていい。その前に脚本家の時代、プロデューサーの時代があったが、00〜10年代は演出家の時代だった。その時代をきりひらいたのが「ケイゾク」で、そこからドラマは急速に、演出のギミックで見せるものになっていき、小ネタ、ギャグ中心の、メタ化が進み、テーマ性や物語が失われていった。そんなかで「アンナチュナル」「MIU404」などは唯一、テーマ性や物語性を保っているドラマといえるだろう。

そもそも、「ケイゾク」は当時、「お笑い社会派」と言っていた堤幸彦監督が社会的なテーマを底に秘めながら、様々な趣向で楽しませる、凝りに凝ったドラマであった。社会的なテーマに切り込んでいくドラマは70年代から80年代くらいまでは主流で、TBSが得意としていたものだ。それをバブル以降の世の中の明るく楽しい気分にアップデートしていったのがフジテレビの山口雅俊ドラマであった。TBSからフジテレビ、そしてまたTBSへと、この20年、社会派エンタメは行き来しながらしぶとく生き残ってきた。「半沢直樹」で香川照之の熱演と「土下座」が話題になったが、それに先駆けるように映画「カイジ」(09年)で香川照之は「焼き土下座」で有名な利根川を熱演していた(映画では焼き土下座していないが)。それが山口プロデュース作である。

高い知性で、先を見る目をもった制作者たちにとって、ドラマの未来は明るいのか、暗いのか。山口さんや植田さんがいままだドラマを作っているということは、希望があると思っていいのか。問いかけてはみたけれど、山口さんも植田さんも笑うのみ。

山口さんが言った「未来に種が撒かれて、これを見た人があとに続く……といいなと思ったんです」という言葉をはじめとして、「与えられた問題に対して百点を取ることはできるけれど、自分で問題を探すことに長けていない」「オーソドックスな見識をもちながら、革新的なドラマをつくること」などの言葉をせめて、これから続く人たちに届けたい。

『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント
『新しい王様」より 写真提供:TBS/ヒント

「新しい王様」Season1、Season2

自由な発想を駆使して生きる実業家・アキバ(藤原竜也)と、モノや金に飽くことなく執着する投資家・越中(香川照之)。真逆の価値観を持ちすごく仲が悪いはずの新旧の王様が、成り行きで共闘、地上波のテレビ会社の買収を企てることに…。

山口雅俊がプロデュース、脚本、監督と八面六臂で制作している。

現在Paraviに加え、Amazonプライム・ビデオでも配信中。

山口雅俊 Masatoshi Yamaguchi

兵庫県神戸市出身。フジテレビで「ナニワ金融道」シリーズ、「ギフト」、「きらきらひかる」シリーズ、「アフリカの夜」、「太陽は沈まない」、「カバチタレ!」、「ロング・ラブレター~漂流教室~」、「ランチの女王」、「ビギナー」、「不機嫌なジーン」、独立後は株式会社ヒントを設立、映画「カイジ」シリーズ、ドラマ・映画「闇金ウシジマくん」シリーズ、ドラマ「新しい王様」シリーズなどを生み出す。

植田博樹 Hiroki Ueda

1967年、兵庫県生まれ。京都大学法学部卒業後、TBS入社。ドラマ制作部のプロデューサーとして、数々のヒットドラマを手がける。代表作に「ケイゾク」「Beautiful Life」「GOOD LUCK!!」「SPEC」シリーズ、「ATARU」「安堂ロイド~A.I .knows LOVE?~」「A LIFE~愛しき人~」「IQ246~華麗なる事件簿~」「SICK‘S」などがある。「SICK‘S」などがある。「「SPECサーガ黎明篇『Knockin’on 冷泉’s SPEC Door』」が2月18日からParaviで配信。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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