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田口トモロヲ、星野源、峯田和伸、ユースケ・サンタマリア、福山雅治……ミュージシャンは芝居が巧いのか

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

星野源、スガシカオがドラマで共演

WOWOWで『連続ドラマW プラージュ ~訳ありばかりのシェアハウス~』(土曜10時〜)がはじまった。

『ストロベリーナイト』などのベストセラー作家・誉田哲也の原作を、映画『キトキト!』などを撮った吉田康弘の演出によってドラマ化したものだ。

ちょっとだらしないとはいえ、平凡なサラリーマンが、思いがけず犯罪者になってしまい、出所後、ワケありばかりが住むシェアハウスで暮らしていくうちに、住人たちから様々な影響を受けて、次第に変化していく。

主演は星野源で、シェアハウスの住人のひとりとして、スガシカオがドラマ初出演、星野源とのミュージシャン同士の共演というのも話題のひとつだ。12日に放送された第1話では、ふたりはちょっと顔を合せるだけだったが、星野は慣れた調子で軽妙に、ダメ男を演じ、スガシカオは、タイトルどおり、訳ありげに存在していた。今後、どんなふうに絡んでいくのか。

それにしても、星野源、ひっぱりだこである。

このドラマ主演のほか、現在、放送中の連続ドラマ『過保護のカホコ』(日本テレビ 水曜10時)では、主題歌『Family Song』を歌っている。

14日に放送された『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』(NHK)でも星野が演じるオモエモンというキャラが人気だ。昨年、大ブームを巻き起こしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)では、出演と主題歌とW で盛り上げた。音楽も芝居も、と両輪で活躍しているところが凄い。

芝居もやってるミュージシャンたち

音楽も芝居も、と両輪で活躍する現象は、星野源にはじまったことではなく、放送中の土曜ドラマ『悦ちゃん 昭和駄目パパ恋物語』(NHK 土曜よる6時5分〜)のユースケ・サンタマリアも、最初に芸能界に登場したときは、バンドのヴォーカルとしてだった。10月に公開される映画『あゝ荒野』でも、『悦ちゃん』のパパ役とは全く印象の違うユニークな役を演じていて、幅広さを見せる。

ユースケがブレイクしたドラマ『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ 97年〜)で、いぶし銀の魅力を発揮したいかりや長介の所属していたザ・ドリフターズも、笑いと音楽のコミックバンドだ。

朝ドラ『ひよっこ』(NHK 月〜土 朝8時〜)で、ビートルズ好きの叔父さんとして人気を博した峯田和伸も、彼が率いるバンド銀杏BOYZが今秋、武道館でライブをやるほどのキャリアがある。

『ひよっこ』には、ほかにも、ミュージシャンがいる。主人公と同じアパートに住む早苗さん役のシシド・カフカと、甘味屋の息子だけれど甘いものが苦手なヤスハル役の古舘佑太郎だ。早苗は、ドSだけど、ほんとは優しいお姉さんとして人気。ヤスハルは、影の薄い人の設定だが、18日放送回で、ミュージシャンの出自を生かした、ギターと歌を披露して注目された。

朝ドラ『あまちゃん』を書いた脚本家で俳優の宮藤官九郎も、グループ魂として音楽活動も行っている。

第74回伊ベネチア国際映画祭に出品される『追憶』(ジョン・ウー監督)、同じくコンペティション部門に正式出品される『三度目の殺人』(是枝裕和監督 9月9日公開)に主演する福山雅治も、音楽活動と俳優活動を並行して行ってきた。

……と、音楽と芝居をやっている人物を挙げればキリがない(それだけで記事が埋まってしまうので、ご容赦いただきたい)。天から二物を与えられた芸達者なのだなと感心するばかりだ。ミュージシャンがこんなに芝居がうまいと、余計なお世話だが、俳優だけやっている人にとって死活問題ではないのか。

ミュージシャンは間のとり方がうまい

昨今、その代表格となっている星野源は、もともと、中学の頃から、演劇も音楽も並行してやっていて、見事に両方共が仕事になった。音楽と芝居に関して彼は、TVガイドpersonで、Vol60で「あくまで僕の感覚ですけど、その『ミュージシャンは芝居もうまい』というのは幻想だと思います」と語っている。

一つ、芝居にも通ずるものを挙げるなら、音楽を作っている時は常に“間”というものを意識するので、セリフとセリフの“間”だったり、相手のお芝居を受けてから返すまでの認識みたいな部分では、もしかしたら速いかもしれないですね

出典:(TVガイドpersonで、Vol60 11ページより)

外側から観ると、音楽をやっている人は芝居も巧いというイメージを単純に抱きがちだが、当事者からしてみたら、そんなざっくりしたものではない。

そもそも、俳優は、自分ではない役を演じるもので、ミュージシャンは、その人自身が発信するもの。根本的に違っている。星野も、筆者が『月刊スカパー!』8月号でインタビューした時、「本来、芝居で、自分の個性や考えを前面に出すことより、監督の考え方や、共演者の出方に合わせて、自分を変えていくほうが好きです。自分がまったく出てないほうが好ましいと思うくらいで。その一方で、ミュージシャンの時は、“星野源”なんですけどね(笑)」と言っていた。

俳優、ミュージシャン、さらに監督もやってる田口トモロヲに聞いてみた

星野源のように鮮やかに使い分けられる人ばかりでもないだろうし、音楽をやっていれば芝居が巧いというわけでもないとしたら、どうして、こんなにも、ミュージシャンが俳優として起用されることが多いのか、やっぱり気になる。

そこで、80年代から、俳優とミュージシャンを両方やっている田口トモロヲに聞いてみた。俳優をやりながらパンクバンド活動を行い、さらには、監督作で、峯田和伸や渡辺大知(黒猫チェルシー、朝ドラ『まれ』にも出演した)というミュージシャンを起用している田口ならきっと、ミュージシャンが俳優をやることについて、明快に説明してくれるに違いない。

ミュージシャンは瞬発力とリズム感がある

Q.『アイデン&ティティ』(03年)と『色即ぜねれいしょん』(09年)で、峯田和伸さんや渡辺大知さんを起用した理由を教えてください。

田口「初映画監督作の『アイデン&ティティ』はロックの悩めるバンドマンのストーリーで、実際にリアルなミュージシャンに演じてもらいたかった。物語をまるごと説得力をもって体現出来る本物の人間をキャスティングすることで、描くべき世界観を、真実味をもって実写化したいと思っていたので。峯田くんはその考え方にピッタリはまっていました。

『色即ぜねれいしょん』は1970年代の夢見がちなチェリーボーイ男子高生のひと夏の成長物語。ラスト近く、文化祭のコンサートで主人公が絶叫する描写があります。そのシーンをイキイキと表現できるキャラクターをオーディションで探しました。この物語をきちんと生きぬけるリアル高校生がバンド・黒猫チェルシーの渡辺大知くんでした」

Q.俳優とミュージシャンの共通点と相違点を教えてください。

田口「大きな枠組みとしては、システムや方法論が違うだけで、音楽も芝居も同じ自己表現のひとつだと思います。古くは植木等さんやフランキー堺さんのように、何の違和感もなく芝居の中に存在出来るミュージシャンが多数います。ミュージシャンうんぬんではなく、その作品に出演する必然があるから出ているように思います。芝居はある種の理論的な思考力を必要とし、俳優は全体に目くばりしながら他者とコラボしていきますが、ミュージシャンは感覚&感性の瞬発力とリズム感で、イイ意味でおかまいないしで物語の中に存在出来る強みがあるかもしれません」

Q.芝居を観てみたい人(ミュージシャン)は誰ですか? 

田口「中止になった2014年海外の舞台『ジーザス・クライスト・スーパースター』に出演のジョン・ライドンは観てみたかったです。(他に)Eastern youthの吉野寿さん、ZAZEN BOYS の向井秀徳さん」

ちなみに、田口の所属する事務所の社長が「1に素人、2に歌、うたい、3、4がなくて、5に新劇といったのは、大島渚監督でした」と教えてくれた。キネマ旬報社から出ている『フィルムメーカーズ9 大島渚』の中の「大島渚組役者鼎談 大島渚と60年代と」(小松方正、佐藤慶、渡辺文雄 司会松田政男)の中で、佐藤慶が語っていたことで記憶していたそうだ。

素人とプロの俳優の間にいて、そのどちらでもあってどちらでもないのがミュージシャン。そこにはやっぱり強烈な引力がある。『ひよっこ』の峯田和伸の、叫びは、役とか話とか飛び越して、ダイレクトに心に刺さった。彼を俳優として最初に起用した田口トモロヲは、本当に目利きだと思う。

『プラージュ』第1話で、静かに訳あり感を漂わせていたスガシカオは、今後、どんな弾け方をするか。このドラマにかぎらず、これからもまた、映画やドラマを盛り上げてくれるミュージシャンが登場するか、刮目したい。

プロフィール

田口トモロヲ

1957年11月30日、東京都生まれ。俳優、ミュージシャン、監督。映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活動。ナレーションの仕事も多い。日本映画プロフェッショナル大賞功労賞受賞、毎日映画コンクール男優助演賞受賞、新藤兼人賞・銀賞受賞(監督作『色即ぜねれいしょん』)。

今後の予定 映画『探偵はBARにいる3』(原作:東直巳、脚本:古沢良太、監督:吉田照幸/2017年12月1日公開)、舞台 RooTS Vol.5『秘密の花園』(作:唐十郎、演出:福原充則 2018年1月13日〜)、映画『孤狼の血』(原作:柚月裕子、監督:白石和彌/2018年春公開)

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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