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松嶋菜々子、玉木宏、山崎豊子、豪華面子のドラマスペシャル「女の勲章」は朝ドラと昼ドラのハイブリッドか

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

華やかなファッション業界での女のバトル

松嶋菜々子と玉木宏が水を得た魚のようだ。

ふたりがとにかく、むせ返るように美しく色っぽい。

松嶋×玉木の輝きを2夜にわたって味わい尽くせる『女の勲章』(フジテレビ、15日土曜、16日日曜 よる9時)は、『白い巨塔』や『花のれん』、『沈まぬ太陽』などを書いた山崎豊子原作で、戦後の大阪・船場のファッション業界を舞台にした愛と野心が激しくぶつかり合う濃密なドラマだ。

松嶋菜々子は、戦後、何もかも失ったところから、ファッションデザイナーとして這い上がっていく、美しく誇り高い、ど根性の女・大庭式子を演じる。そんな式子に協力する優男・八代銀四郎役に玉木宏。銀四郎は優しいの「優」と優秀の「優」を共に兼ね備えている。

大阪・船場で五代続く羅紗問屋のお嬢様だった式子は、戦争で何もないなか、ミシン一台からファッションビジネスをおこし、洋裁学校を設立し、やがてはファッションデザイナーとして注目される存在となっていく。

だが、そこまでの道は順風満帆のわけがない。次々と試練が式子を襲う。彼女を邪魔者扱いする関西ファッション業界の総元締めとも言える存在・関西デザイナー協会会長・安田兼子(浅野ゆう子)との女の戦いは見応えがある。

また、式子の弟子として働く3人の女たちも曲者ぞろい。津川倫子(ミムラ)、坪田かつ美(相武紗季)、大木富枝(木南晴夏)は、一見、忠実なようで、じつは、恋と仕事、両方のサクセスを虎視眈々と狙っている。

で、この式子と3人の女たちの確執を煽るのが、玉木宏演じる銀四郎なのだ。

「あさが来た」を思い出す、玉木宏の大阪言葉

朝ドラ『あさが来た』(16年)で女性をとりこにした玉木の船場言葉。今回も、それとはやや異なるらしいが、関西特有の柔らかい言葉遣いと、優雅な身のこなしで、女性たちを惑わせていく今度の玉木宏は、『あさが来た』の新次郎とは違った新たな魅力を見せる。

戦後の大阪、ミシンに魅入られ洋服で身を立てていこうと考える主人公(松嶋)や関西弁の玉木宏などから朝ドラぽい印象を受けるが、そんな爽やかじゃない。今はなき昼ドラのように欲望がほとばしるドロドロ愛憎劇だ。

ファッション業界での女のバトルといえば、沢尻エリカ主演で話題になった「ファーストクラス」(14年)も思い出すし、1月〜3月にかけて放送された「嘘の戦争」(17年)のような仁義なき騙し合いのドラマでもあり、最後の最後まで誰がどうなるのか予想がつかないサスペンス劇でもある。

エンターテインメントの要素をぎゅっぎゅっと詰めこみながら、単なるバラエティー感覚に終わらず、戦後、必死で生きてきた女性の尊厳もきちんと描き出した物語は、具とご飯が端正にまとまった箱寿司のよう。

さすが、大家・山崎豊子の作。過去に何度もドラマや映画化されているだけはある。

脚本は、『大奥』(フジテレビのドラマ、のちに映画化もされた)の浅野妙子だから、女と女の戦いを描くことはお手のものだろう。

女たちはプライドを賭けた戦いのために、華やかな衣裳という戦闘服を身につける。

主要キャストの衣裳は約200着に及び、主役の松嶋だけで約60着も着替えているという。

そのうち10数点は、ドラマのためのオリジナルデザインという贅沢さ。Yohji Yamamoto、Alexander McQueenなどでキャリアを積んだ中井英一朗が丹精込めてデザイン、製作した。

玉木、ミムラ、相武、木南らもオーダーメードを含む、凝りに凝った衣裳で登場する。

帽子もおしゃれだ。松嶋と玉木がそれぞれ3点ずつ身につけて登場する帽子の製作は、アキオヒラタのチーフデザイナー・石田欧子によるもの。

それから、式子の大切なネックレスは、世界的に活躍する、ジィオデシックの森下まゆりが手がけた。

全体的に本気感がひしひしと伝わってくる。

自身の才覚で世界と勝負したい想いと、銀四郎や、尊敬する仏文科大学教授(長塚京三)に感じる女性的な想いとの葛藤のはてに式子が選択する道には息を飲まざるを得ない。松嶋菜々子の毅然とした佇まいと、本心がわからないミステリアスな玉木宏との駆け引きはスリリングだ。

このふたりは、日常的なドラマよりも、こういったスケールの大きい、ドラマティックなものだと輝きを増すなあと痛感した。

松嶋のヒット作『やまとなでしこ』や『家政婦のミタ』、玉木のヒット作『のだめカンタービレ』、『あさが来た』に勝るとも劣らない代表作になるのではないだろうか。

フジテレビ  土曜プレミアム『山崎豊子ドラマスペシャル 女の勲章 第一夜』 4月15日(土)午後9時~11時25分 放送

『山崎豊子ドラマスペシャル 女の勲章 第二夜』 4月16日(日)午後9時~11時24分 放送

原作:山崎豊子『女の勲章』(新潮文庫刊)

脚本:浅野妙子

演出: 西浦正記(FCC)

制作著作 : フジテレビジョン

制作協力 : FCC

出演:松嶋菜々子、玉木 宏、ミムラ、相武紗季、木南晴夏、駿河太郎 、江波杏子、小澤征悦、浅野ゆう子、長塚京三 

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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