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元ヤクルト飯原、故郷の球団で独立リーグ日本一を目指す!「今の夢は……」

菊田康彦フリーランスライター
ヘッドコーチ兼任ながら、選手としてもまだまだ現役バリバリの飯原

 独立リーグ日本一の座をかけて、ルートインBCリーグと四国アイランドリーグplusの各優勝チームが対戦する「日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップ2019」(全5戦、3戦先勝)。10月5、6日に行われた「ルートインBCLラウンド」は1勝1敗と両者譲らず、13日に始まる「四国ILラウンド」でいよいよ今シーズンの覇者が決まる。

 球団創設3シーズン目にしてBCリーグFUTURE-East(東地区)後期優勝からプレーオフを勝ち上がり、初のリーグ王者となってこのグランドチャンピオンシップに駒を進めてきたのが栃木ゴールデンブレーブス。その選手兼ヘッドコーチとして奮闘しているのが、一昨年まで東京ヤクルトスワローズでプレーしていた飯原誉士(36歳)だ。

選手として今季は打率.360、6本塁打

独立リーグ・グランドチャンピオンシップ第1戦では中前打を放った
独立リーグ・グランドチャンピオンシップ第1戦では中前打を放った

「日本一になったらやめようかなってみんなの前では言ってるんですけど、(球団)会長がやめさせてくれないんで」

 そう冗談めかす飯原だが、選手としてもまだまだ現役バリバリ。今年はヘッドコーチとして、やはり栃木出身で同い年の寺内崇幸監督(前巨人)を支えているため、出場機会は減り守備に就くこともなくなったものの、レギュラーシーズンでは38試合の出場で打率.360、6本塁打、24打点をマーク。BCリーグチャンピオンシップ初戦で決勝の3点二塁打、同第3戦で同点の2点二塁打、そして初のリーグ優勝を決めた第4戦ではダメ押しのホームランを打った。

「やっぱり(選手の)お手本にならないとというか『こういうふうにしたらこういう打球が打てるよ』っていう話を練習でも伝えてるんで、(自分に)プレッシャーをかけながら集中して打席に入ってるっていうのはあります。そういうふうにプレーで見せることによって、選手に成長してもらいたいっていう部分で今シーズンはやってました」

 BCリーグ1年目の昨シーズンは「もう一度NPBで」という強い気持ちを持っていたが、36歳という年齢になり「選手として(NPBに)戻るということに関しては、そこは無理だっていうのは正直、分かってるんで」という。それでも現役を続けるのは「選手のためと、あとはファンの方のためです。栃木を盛り上げるっていう意味でもね」。もちろん来年も二足のわらじを履くつもりだ。

「栃木から1人でも多くの選手をNPBに」

 その飯原にとって夢であり、目標でもあるのが「栃木から1人でも多くの選手をNPBに送り込むこと」だ。昨年は“教え子”の内山太嗣が、育成ドラフト1位で飯原の古巣であるヤクルトに指名されて入団。彼に続く選手を生み出すのが、自らの使命だと感じている。

「2年間携わってて『来年、もしかしたらこの子はプロ(NPB)に行けるかもしれない』ってずっと本気になってやってきたつもりでいるんで、今は自分の指導者としての夢はそこです。指導者としてNPBに戻るっていうことよりも、そっちのほうが強くなってきてる自分がいるんですよ。一緒になってやってると(選手は)可愛いんで」

 そのために選手たちに伝えているのは、技術だけではない。今年の栃木はチーム打率こそBCリーグ11球団中8位ながら、得点は4位。それは飯原自身がヤクルト時代に先輩たちから受け継いできたものを、選手たちに説いてきた成果でもある。

「僕ってヤクルトにいた時に『王者の野球』っていうのを教わってないんですよ。『打つだけが野球ではない』っていうのもそうですし、古田(敦也)さんからも宮本(慎也)さんからも、いろんな方からいろんなことを教わってきたつもりでいるので、それを今いる選手たちに伝えていってるのは事実です」

ヘッドコーチとしてギャンブルスタートを進言

ヘッドコーチとして、ロッテから派遣の岡田幸文コーチとともに寺内監督を支える
ヘッドコーチとして、ロッテから派遣の岡田幸文コーチとともに寺内監督を支える

 アイランドリーグ王者の徳島インディゴソックスとのグランドチャンピオンシップ第1戦でも、象徴的なシーンがあった。8回裏に栃木が1点差に詰め寄り、なおも1死二、三塁。ここでベンチが出したサインはギャンブルスタート。投球がバットに当たった瞬間に走者がスタートを切るため、相手が前進守備を敷いていても得点する可能性が高くなる反面、打球がフライやライナーになれば併殺で一瞬にしてチャンスが潰えるリスクもある。

「あそこも監督と話し合って、次は西岡(剛、前阪神)だったんですけど、まずは同点に追いつきたいっていうのがあったんで。(打者の)野崎(新矢)って当てるのが上手いバッターでゴロを転がしてくれるだろうっていうことで、(三塁走者の)谷津(鷹明)は足が速いって考えた時に『勝負かけましょう』っていう話をしました」

 結果はショートゴロの間に三塁走者がかえって6対6の同点。ベンチの決断に、選手が見事に応えた同点劇だった。この試合は延長10回の末に6対7で敗れたものの、翌日の第2戦では11回裏に4対3でサヨナラ勝ち。サヨナラの一打も含め、4得点中2点までが犠飛によるものだった。

独立リーグ日本一へ、自身の巻き返しを誓う

 飯原自身はこの2試合、いずれも5番・指名打者でフル出場しながら計9打数1安打、2四球と精彩を欠いたが、独立リーグ日本一の座に向けて、台風の影響で13日からに順延された「四国ILラウンド」での巻き返しを誓う。

「選手たちの力を見てたら、間違いなく僕らのほうが強いと思って戦ってるんで、それに対しては自信を持ってやっていきたいと思います。ただ、慢心はせずに気を引き締めて、しっかりやることが大切かなと思います。僕も(選手として)頑張りますので、期待してください」

 一昨年、ヤクルトから戦力外通告を受けた際にはフロント入りの打診もあったというが、悩みに悩んでこれを辞退し、生まれ故郷の球団で現役続行の道を選んだ。「(故郷に)恩返しができたっていう部分もありますし、こっちっていう道を選んで良かったのかなと思います」と話す飯原の表情が、選択は間違いではなかったことを雄弁に物語っていた。

(写真はすべて筆者撮影)

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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