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メジャーの犠打は日本の1/4。最新版「日米送りバント」事情

菊田康彦フリーランスライター
メジャーでも、どうしても1点が欲しい場面では野手にバントを指示することも(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨年9月、スポーツ総合サイト『スポーツナビ』にメジャーリーグの犠打数減少に関するコラムを寄稿した(「送りバントは“消えゆく戦術”なのか!? MLBで激減する理由を探る」)。その中で「2016年のメジャーリーグにおける1試合平均犠打は史上最少、2017年はそれをさらに下回るペース」と紹介したが、最終的な数字についてはお伝えする機会がなかった。そこで、昨シーズンは最終的にどのような数値になったのか、日本のプロ野球(NPB)とあわせて改めて取り上げてみたい。

史上最少をまたも更新、メジャーの犠打は5試合に1個弱

 まず、2016年のメジャーリーグで記録された犠打の数は計1025個。1試合平均0.21(1球団当たり。以下、「1試合平均」はすべて同様)が、史上最低の数値だったことは、先のコラムでも紹介したとおりだ。

 それでは昨年、2017年シーズンはどうだったのか。数にしてわずか925個。1901年に2リーグ制となった当時は全16球団だったメジャーリーグは、現在は全30球団と倍近くに増えているが、犠打の数が1000を切ったのは2リーグ制後では初のことである。

 もちろん、1試合平均0.19という数値も、前年を下回って史上最低。0.2を切ったのも、史上初めてのことだ。メジャーリーグの歴史を紐解いてみると、犠打と犠飛が個別にカウントされるようになった1954年以降、この数値が最も高かったのはその1954年の0.54であり、当時はチーム単位で見れば2試合に1度は犠打が記録されていたことになる。それが今では、5試合で1度に満たないほどにまで減少しているということだ。

「セイバーの影響」と「技術の低下」に加え「意識の変化」も

 その要因について、先のコラムでは「セイバーメトリクス(野球統計学)の影響」と「選手のバント技術の低下」を挙げた。セイバーメトリクスで「無死一塁のほうが1死二塁よりも得点の可能性が高い」という研究がなされている上に、「今の選手たちは練習しないからバントができない。バントの仕方も分かっていないんだ」というフィラデルフィア・フィリーズ、ラリー・ボーワベンチコーチの声に代表されるように、選手たちの送りバントの技術が昔に比べて下がっていることが、犠打の減少に拍車をかけているというわけだ。

 そしてもう1つ、これは先のコラムで紹介しきれなかったのだが、ボーワコーチは「投手はバントの練習はしているものの、試合になるとバントの際に投球が身体に当たるのを怖がる」と指摘している。さらに記事の掲載当時はボルティモア・オリオールズに在籍していたジェレミー・ヘリクソン(現在はFA)が「ピッチャーは(以前のように)相手に簡単にバントをさせなくなっている。僕が入ってきた頃から変わってきたんだ。今はみんな簡単にバントをさせずに、三振を取ろうとしている」と語っているように、投手を打席に迎えたピッチャーの意識も、以前とは変わってきていることがうかがえる。

 送りバントで走者を二塁に進めても得点が入る可能性は高くならないし、選手もバントが下手になってきている。しかも、打席に立つのが投手であっても、相手のピッチャーは簡単にバントをさせようとはしない。ならばベンチがバントのサインを出すことに消極的になるのも、仕方のないことかもしれない。

NPBの1試合平均犠打はメジャーの4倍

 ちなみにNPBはメジャーリーグの半数以下の全12球団だが、昨シーズンは計1328個の犠打が記録されている。1試合平均0.77だから、メジャーのほぼ4倍ということになる。興味深いのは、MLBでは指名打者(DH)制のない、すなわち投手も打席に立つのが基本のナ・リーグ(0.27)のほうが、DH制を採用しているア・リーグ(0.11)よりも犠打が多いのに対し、日本ではDHのあるパ・リーグ(0.82)のほうが、DHのないセ・リーグ(0.73)よりも多いということだ。

 昨年、NPBで最も犠打が多かったチームはリーグ優勝、そして日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスで計156個。これはチームの総本塁打数(164)とほぼ同じである。その前年、2016年に最も犠打が多かったのもやはりリーグ優勝、そして日本一の北海道日本ハムファイターズ(178)で、こちらは総本塁打数(121)を大きく上回っていた。

 そういえば以前、日本ハムで指揮を執っていたトレイ・ヒルマン監督(現韓国・SKワイバーンズ監督)に話を聞いた時のこと。来日前に、ニューヨーク・ヤンキース傘下のマイナー球団を11年間率いた経験があった同監督は、日本に来てからもあまりバントのサインを出さなかったという。1年目の2003年はチーム合計で67犠打、2年目の2004年は51犠打、3年目の2005年も54犠打に過ぎなかった。

 だが、いつしか走者をキッチリと送るべき場面でバントをさせないと、チームが盛り上がらないことに気付いたのだという。4年目の2006年、方針を変えたヒルマン監督の下、日本ハムはリーグ最多の133犠打を記録。この年、見事にリーグ優勝を飾り、日本シリーズでも中日ドラゴンズを破って44年ぶりの日本一に輝いたのである。

 バントをしたから優勝できた、という単純な話ではないが、ヒルマン監督の逸話からはバントに対する日米の考え方の違いをうかがい知ることができる。日本でも、その歴史の中でたびたび「バントをしない二番打者」が登場し、昨年は読売ジャイアンツのケーシー・マギーや、東北楽天ゴールデンイーグルスのカルロス・ペゲーロといった強打者の二番起用が脚光を浴びた。こうした時代、時代でのトレンドはあるものの、この先も送りバントが廃れていくとは、こと日本においては考えにくい。

 一方、昨年は史上最多となる6105本のホームランが飛び交うなど(1試合平均1.26本!)「フライボール革命」全盛のメジャーリーグでは、送りバントはこの先も減少の一途をたどっていくのだろうか……。

※MLBの記録はBASEBALL REFERENCEを参照

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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