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回転率が低いのに浮かび上がる?!山本由伸のフォーシームはMLBの常識を覆す魔球だった

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB公式サイトで山本由伸投手の投球データが明らかになった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今シーズン3度目の登板に臨む山本由伸投手】

 MLBデビュー戦となった韓国シリーズ第2戦の投球から一変し、本拠地ドジャースタジアム初登板を飾った3月30日のカージナルス戦では、ロサンゼルスでは珍しい雨天中断を挟みながらも5回を投げ、2安打、無失点、5奪三振を演じる好投を演じた山本由伸投手。

 カージナルス打線を圧倒する投球内容にドジャース・ファンも熱狂していたが、投手史上最高額の12年3億2500万ドルの大型契約でチームに加わった山本投手が評判通りの投手だと確認できた安堵も含まれていたのかもしれない。

 スプリングトレーニングからセットポジションの腕の位置を変更するなど、まだMLBに適応するため試行錯誤している最中だが、完全サポート体制を整えているドジャースは、オープン戦からオリックス時代同様に中6日登板させ、山本投手のルーティンを崩さないよう細心の注意を払っている。

 現地時間4月6日のカブス戦で今シーズン3度目の登板に臨むにあたり、鈴木誠也選手を筆頭に好調カブス打線とどのように対峙するのか、期待が膨らむところだ。

【遂に明らかになかった山本投手の投球データ】

 ところで個人的なことになるが、今シーズンほど開幕を待ち侘びたのはここ数年なかった。というのも、NPBで4年間まさに無敵の投球を続けてきた山本投手の投球データを確認することができるからだ。

 これまでも本欄では、選手の各種データを紹介しているMLB公式サイト「savant」を度々取り上げてきたが、ようやく同サイトを通じて山本投手の投球データを確認することができるようになったのだ。

 山本投手がNPBで投げている頃から、彼の投げるボールにどんな秘密があるのか興味を抱き続けてきただけに、シーズン開幕(オープン戦ではMLBがデータ収集できないため)をずっと待ち侘び続けていたためだ。

 そして同サイトを通じて山本投手が登板した2試合の投球データを確認したところ、いい意味で完全に驚かされてしまった。彼が投げるボールがMLBでは明らかに“規格外”だったからだ。

【専門家が山本投手のカーブを一級品と評価】

 山本投手の詳細な投球データについて興味がある方は、同サイトの山本投手のページを確認して欲しい。

 それらのデータを参照した上で、MLB公式サイトでデータ分析を専門とするデビッド・アドラー記者は山本投手のカーブに着目し、特集記事を同サイトに投稿している。

 アドラー記者は、まず山本投手がカージナルス戦に登板した際、カーブで10個のストライク(見逃し+空振り)を奪ったとして、ここまで1試合にカーブで10個以上のストライクを奪っている4投手の1人だと紹介している。

 さらに山本投手のカーブを球速、回転率、V成分(縦の動き)、H成分(横の動き)、多角的落ち幅(IVB)──とデータ的に検証した上で、V成分は63.0インチ落ちており、MLB平均より+7.7インチでMLBトップであると説明している。

 またIVBにおいても17.1インチは、MLBトップ5位に入るとし、山本投手の投げるカーブはエリート(一級品)と結論づけている。

【フォーシームの回転率はMLB平均以下だった】

 ただ山本投手のカーブは、MLB移籍前から専門家の間で高く評価されてきたので、今回のアドラー記者の記事は単にそれを裏付けしたにすぎないと思っている。

 投球データをチェックしながら個人的にカーブ以上に興味をひいてしまったのが、実はフォーシームなのだ。個人的に山本投手の糸を引くようなフォーシームは、さぞかし回転率が高いのだろうと想像していたのだが、むしろその逆でMLB平均をかなり下回っていることが分かった。

 同じくカージナルス戦に登板した際、山本投手は68球のフォーシームを投げているのだが、回転率をチェックしてみると、1900rpm台が2球、2000rpm台が2球、2100rpm台が14球、2200rpm台が7球、2300rpm台が1球(2球測定できず)──という状況だった。

 投球データに関する測定器を製造、販売している「Rapsodo(ラプソード)」によれば、2019年におけるMLB投手のフォーシームの平均回転率はほぼ2300rpmだと解説しており、山本投手の回転率は明らかにMLB平均を下回っているのが理解できるだろう。

【回転率が低いのに浮かび上がるボール】

 ちなみに4月2日のカージナルス戦で7回3失点の好投を演じたダルビッシュ有投手は、同試合におけるフォーシームの回転率は2200~2400rpmにまとまっていた。

 また4月1日のロッキーズ戦で最高のデビュー戦を飾った今永昇太投手は、同試合のフォーシームの回転率は2200~2500rpmだった。つまりダルビッシュ投手はMLB平均で、今永投手は平均をかなり上回っている状況だった。

 もう少し詳しく見てみると、ダルビッシュ投手と山本投手のフォーシームの回転率はかなり異なっているにもかかわらず、球速レンジ(山本投手が93.9~96.0mphで、ダルビッシュ投手が92.3~96.2mph)、V成分(山本投手が13~17インチで、ダルビッシュ投手が12~16インチ)、H成分(山本投手が6~10インチで、ダルビッシュ投手が6~11インチ)と、ほぼ似た性質のフォーシームを投げていることが理解できる。

 さらにアドラー記者の記事で紹介している図によれば、山本投手のフォーシームはMLB平均よりやや浮き上がっているのが確認できる。フォーシームの回転率がMLB平均以上であることが判明した今永投手でも、V成分は11~16インチなので、山本投手と大きな違いはないのが分かる。

 フォーシームの回転率はV成分を大きく左右するもので、回転率が高ければ浮き上がる性質が増し、回転率が低くなれば逆に落ちる性質が生まれるというのが一般常識になっている。

 ところが山本投手のフォーシームは回転率が平均以下なのに、むしろ浮き上がる性質を有しているのだ。打者からすれば相当に厄介極まりない魔球に見えていないだろうか。

 まだシーズンは始まったばかりだ。今後データ上で山本投手の投球がどんな変化を見せるのか楽しみで仕方がない。これからも投球データをチェックしながら、山本投手と対戦した打者の反応にも注目してみたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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