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ナ・リーグ移籍で本塁打タイトルが微妙になったとしても大谷翔平だから可能な両リーグにまたがるMVP争い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
トレード期限日が迫りその去就が注目される大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【期限日ギリギリまでもつれそうなトレード騒動】

 シーズン後半戦が始まって以来、MLB最大の関心事になっているのが大谷翔平選手のトレードの有無だが、現在も連日のように関連報道が続きすっかり騒動に発展している。

 つい最近では現地時間7月20日に、MLBネットワークのジョン・モロシ記者が「オオタニに興味を示しているチームがすでにエンジェルスにコンタクトをとっているが、エンジェルスはトレード期限日である8月1日の24~48時間前まで決断を保留するだろう」とのツイートを投稿している。

 ただモロシ記者が報告している内容は決して目新しいものではなく、まだポストシーズン争いから完全撤退していないエンジェルスとしても、トレード期限日が近づく中でどんな順位につけるかで当然決断は変わってくる。

 あくまで個人的な分析ではあるが、7月20日の公式戦終了時点でア・リーグのワイルドカード圏内に入っているアストロズとブルージェイズが貯金11を有しており(もう1チームのレイズは貯金20)、現在貯金1のエンジェルスが彼らを追撃するためにも、トレード期限日までには最低でも貯金5つ程度まで伸ばしておきたいところだと考えている。

 いずれにせよ、もう少しだけエンジェルスの戦いぶりに注視しながら、彼らの決断を待つしかなさそうだ。

【ナ・リーグ移籍で本塁打タイトル奪取は微妙に】

 ただ仮に大谷選手がトレードに出されることになったとして、多くの大谷選手ファンは彼がナ・リーグのチームに放出されるのを快く思っていないのではないだろうか。

 というのも、個人タイトルはア・リーグとナ・リーグで個人成績が別扱いになるため、大谷選手がナ・リーグに移籍してしまうと、現在ア・リーグで独走している本塁打タイトル奪取が危うくなってくるだろうし、昨年アーロン・ジャッジ選手が樹立したア・リーグの年間本塁打記録更新もご破算になってしまうからだ。

 たとえリーグが移っても大谷選手の年間成績そのものの評価に影響はないとはいえ、個人タイトルがとれないというのはやはり一抹の寂しさが伴う。

 特に日本人選手が主要打撃タイトルを獲得したのは首位打者のイチロー選手しかおらず、これまでパワーで劣るとされてきた日本人選手が本塁打タイトルを獲得することほど痛快なことはない。

 やはりナ・リーグへのトレードは嬉しくないと考えられても仕方がないところだろう。

【トレード後に期待がかかる空前絶後の快挙】

 だがこの場でお伝えしたいのは、ナ・リーグにトレードされても決して悲観すべきではないということだ。今シーズンの大谷選手だから可能な空前絶後の快挙を成し遂げられる可能性があるからだ。

 それは両リーグにまたがるMVP争いだ。当然のことだが同一シーズンに両リーグのMVP争いに絡む選手が現れるなど夢物語の世界といっていい。

 だが今シーズンの大谷選手には、その可能性を十分に見出すことができるのだ。

 念のため説明しておくと、MLB屈指の敏腕記者として知られるケン・ローゼンタール記者が全米野球記者協会に確認したところでは、記者投票によって選出されるMVPは両リーグに在籍すればいずれも受賞対象になるという。

 つまりシーズン中にリーグが変わった選手はその活躍次第で、両リーグでMVP争いできるということなのだ。

【すでにア・リーグMVPは大谷選手が当確?!】

 まず大谷選手がナ・リーグにトレードされ、残り2ヶ月間ア・リーグから離れたとしても、彼がア・リーグMVPの最有力候補であることに変わりはない。

 本欄でも選手の活躍度を見極める指標として度々紹介している「WAR(Wins Above Replacement)」を確認しても、現在大谷選手はMLBダントツの6.8で独走状態にある。

 以下、ア・リーグの2位はルイス・ロベルトJr.選手の4.1で、同3位のケビン・グローズマン投手も4.0という状況だ(資料元:「Fan Graphs」/7月20日現在)。

 単純に考えてほしい。これまで約4ヶ月間のシーズンを過ごす中で4.1や4.0を記録してきた選手たちが、残り2ヶ月間で3ポイント近く上をいく大谷選手に追いつけるものだろうか。至難の業であることは容易に想像がつくだろう。

 個人的には大谷選手がナ・リーグにトレードされたとしても、以上の点からア・リーグMVP受賞はほぼ確実だと考えている。ちなみにシーズン途中でリーグが変わりながらMVPを受賞すること自体も、すでに伝説的な快挙だということを理解してほしい。

【ナ・リーグでもMVP投票10人に入れる可能性大】

 一方大谷選手が残り2ヶ月間をナ・リーグに在籍するとして、ナ・リーグMVPを獲得できるかといえば、かなり難しいといわざるを得ない。大谷選手に次いで5.1というWARを残しているロナルド・アクーニャJr.選手がいるからだ。

 さすがの大谷選手といえども、2ヶ月間で5ポイントを上回るような活躍をするのは難しいだろう。

 だがナ・リーグでも投打にわたりこれまで同様の活躍を維持できれば、単純計算ではあるが、2ヶ月間で4ポイント近いWARを獲得することができる。

 参考までに紹介しておくと、現在WARでナ・リーグ2位はムーキー・ベッツ選手の4.4だ。もちろんアクーニャJr選手やベッツ選手も残り2ヶ月で数値を上げていくことになるわけだが、MVP投票に関しては、各記者が1位から10位まで10人の選手を記入できるシステムだ。

 2ヶ月間で大谷選手が4ポイント近いWARを記録したならば、投票権を有する記者が10人の中に大谷選手を加えても何ら不思議はないだろう。

 ア・リーグでMVPを受賞し、ナ・リーグでもMVP投票ベスト5に入るようなことになれば、間違いなく今シーズンの大谷選手も伝説として語られることになるだろう。

 今後大谷選手の去就がどうなろうとも、常に我々に夢を与え続ける存在であり続けることに変わりはないのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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