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WBC出場は大正解だった?!地元ボストンの懐疑的意見を完全払拭した吉田正尚の打撃と勝負強さ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大会新記録の13打点を記録した吉田正尚選手(写真:ロイター/アフロ)

【完全勝利で3度目のWBC優勝を飾った侍ジャパン】

 侍ジャパンが米国代表を3対2で破り、第1、2回大会の連覇以来、3度目の優勝を飾った。

 今大会は1次ラウンドから磐石な試合内容で勝利を積み重ね、第3回大会のドミニカ代表以来となる全勝優勝を達成し、自らの栄冠に華を添えている。

 大会成績を確認しても、チーム防御率(2.29)と被打率(.194)で参加チーム中トップにランクされた自慢の投手陣は最後まで自分たちの仕事を続け、それを強力打線といわれた米国代表(7.3)を上回る平均得点8.0を記録した打撃陣が援護した。

 第1回大会に優勝した侍ジャパンも投打ともに大会屈指の布陣ではあったが、1次ラウンドで敗北を喫し、2次ラウンドでも勝率の差で何とか決勝ラウンド進出を果たすなど、厳しい戦いを強いられ続けていた。

 改めて今回の侍ジャパンが、史上最強と呼ばれるに相応しいチームであったことが窺い知れた思いだ。約1年間という短い準備期間の中で、選手選考を含めチームを指揮してきた栗山英樹監督に最大級の賛辞を送りたい。

【吉田選手が「As Advertised」であることを証明できたレッドソックス】

 優勝を決めた瞬間から日本中が大騒ぎとなり(メディア報道は少し騒ぎすぎだったように思うが…)、多くの日本の人たちを感動の渦に巻き込み、歓喜させたことは確かだ。

 ただ日本人のみならず、今回の侍ジャパンの結果に安堵し、喜んでいる人たちがいる。吉田正尚選手を送り出したレッドソックス関係者だ。WBC期間中の吉田選手の活躍は、まさにMVPを受賞した大谷選手に迫るものだった。

 大会中吉田選手の打撃成績は打率.409、2本塁打、13打点を残し、特に13打点に関しては、WBC大会記録を更新する快挙となった。

 また出塁率.531を記録し、さらに奪三振はわずか1に止まり(決勝戦で記録するまでゼロを続けていた)、「高い出塁率」、「三振しない」、「NPB版フアン・ソト選手」という前評判通りの打撃を披露してくれた。

 しかもMLB公式球を使用し、MLB在籍投手と多数対戦する中で残した好成績だけに、すでに吉田選手がMLBレベルの選手であることを確認することができたわけだ。

 米国では「評判通り」のことを「As Advertised」と表現するのだが、レッドソックスばかりではなく地元メディア、ファンも同じ思いを共有できたはずだ。

【契約合意時には破格の大型契約に懐疑的な意見も】

 元々地元メディアとファンにとって今オフ最大の関心事は、FAとなったサンダー・ボガーツ選手との再契約だった。

 ところがボガーツ選手がパドレスと11年総額2億8000万ドルでの契約合意が報道された12月7日に、レッドソックスが契約合意したと報じられた選手が吉田選手だった。

 しかもMLBでの実績がまったくない吉田選手に対し、日本人野手として最高額となる5年総額9000万ドルという契約内容を用意したレッドソックスに、当然ながら懐疑的な意見が飛び出していた。

 そうした意見も今回のWBCでの活躍で、完全に雲散霧消してしまったように思う。

 仮に吉田選手がWBC出場を辞退し、ずっとオープン戦に出場し続けていたとしても、ここまで評価が上がることはなかったように思う。まさに公式戦さながらの実戦の舞台で好成績を残したことに意味があったのだ。

【コーラ監督が大絶賛する大舞台での勝負強さ】

 さらにレッドソックス関係者を喜ばせているだろうことが、メキシコ代表との準決勝で侍ジャパンを蘇らせる同点3ラン本塁打を放った、大舞台での勝負強さだ。

MLB公式サイトでは、アレックス・コーラ監督の以下のようなコメントを披露しながら、「WBCの活躍は様々なプレッシャーを受けるボストンでも活躍できそうな歓迎すべき前兆だ」と期待感をあらわにしている。

 「(重要な局面でも)彼は恐れないし、非常にスマートだ。彼はスポットライトから逃げ出すような選手ではないと思うし、試合を落ち着かせることができそうだ。それは凄く重要なことでもある」

 WBCの舞台で自らの実力を証明してみせた吉田選手。最高のかたちでシーズン開幕を迎えることになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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