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藤浪晋太郎との単年契約に垣間見られる低予算アスレチックスならではのリスクマネージメント

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
念願のMLB移籍が実現した藤浪晋太郎投手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【アスレチックスが藤浪投手の獲得を正式発表】

 アスレチックスは現地時間の1月13日、すでに複数の米ディアが報じていたように,阪神からポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指していた藤浪晋太郎投手の獲得を正式に発表した。

 契約は1年間のメジャー契約で、アスレチックスは発表と同時に藤浪投手を40人枠に加えている。MLB公式サイトの報道では年俸額が示されていないが、一部米メディアの報道によれば基本給は325万ドルで、さらに100万ドルのインセンティブが付帯している模様だ。

 これで今オフにNPBからMLB移籍を目指した吉田正尚選手、千賀滉大投手、藤浪投手の全3選手が契約合意に至っている。

【今オフFA市場の先発投手の中ではかなりの低評価】

 米メディアの報道を受け、日本では藤浪投手の年俸額が10倍近くになったという報じ方がなされているが、今オフのFA市場で契約合意に達した先発投手の中では、むしろ低評価の部類に入る。

 各プロリーグの年俸関連のデータを集積している「spotrac」によれば、これまで契約合意に至った先発投手の平均年俸額と比較すると、藤浪投手の325万ドルは、ライアン・ヤーブロー投手(300万ドル)、ビンセント・ベラスケス投手(315万ドル)に次ぐ低さだ。

 ただしこのデータには、KBOに4年間在籍し、同じくアスレチックスと契約合意したドリュー・ルチンスキー投手(300万ドル)などが入っていないことを補足しておきたい。それでもやはり、今オフのFA市場で藤浪投手の評価が決して高かったわけではない。

【アスレチックスの先発投手候補の中で最高年俸選手に】

 もちろんアスレチックスは、今も本拠地の移転問題を抱えMLB屈指の低予算チームなので、FA市場に投資できる予算はかなり限られていた。

 それを裏づけるように、アスレチックスが今オフ契約を結んだFA選手は藤浪投手が5人目で、しかも最長契約期間はわずか2年に止まり、全選手の平均年俸額も1000万ドルを下回っている状況だ(最高額はアレドミース・ディアス選手の725万ドル)。

 つまりアスレチックスというチーム内で考えれば、藤浪投手の契約内容はかなりの投資だと考えていい。実際若手中心の先発投手候補の中で、藤浪投手が最高年俸を得ているのだ。

【ポスティングシステム利用の単年契約は中村選手に次いで2人目】

 以上の説明からも、アスレチックスとしては藤浪投手に対し大きな投資をしたわけだが、その一方で今回の契約合意には、低予算チームならではのリスクマネージメントが垣間見られる。

 それは何といっても、藤浪投手との契約が単年契約に止まっている点だ。

 実は前述したアスレチックスが契約したFA5選手のうち、単年契約は藤浪投手とルチンスキー投手の2人だけ。だがルチンスキー投手の場合、チームが保有する2年目の契約オプション権が含まれており、純粋な単年契約は藤浪投手だけなのだ。

 またポスティングシステムを利用してMLBチームと契約合意した日本人選手の中でも、かなり珍しいケースといっていい。2004年に近鉄からポスティングを申請し、ドジャースとマイナー契約を結んだ中村紀洋選手以外、すべての選手が複数年契約を結んでいるからだ。

【低予算チームならではリスクマネージメント】

 これは2つの意味で、アスレチックスのリスクマネージメントが作用していると考えている。

 まず1点が、藤浪投手がMLBでどこまで活躍できるかだ。ここ数年NPBからMLBに挑戦している山口俊投手、菊池雄星投手、有原航平投手、澤村拓一投手は皆、期待通りのパフォーマンスができていない。

 しかも山口投手、澤村投手はチームと結んだ複数年契約を全うできず、シーズン途中でチームを離れる結果に終わっている。こうした背景を考えれば、単年契約なら藤浪投手が今シーズン期待通りの投球を披露できなかったとしても、1年で見限ることができるわけだ。

 2点目が、阪神に支払う譲渡金だ。今回は単年契約で年俸325万ドルなので、その20%に相当する65万ドルが譲渡金として支払われることになる。

 仮にアスレチックスが藤浪投手と複数年契約を結んでいれば、いうまでも譲渡金はもっとも高くなる。またルチンスキー投手のように契約オプション権を付帯した倍でも、オプション権が行使されれば、その時点で譲渡金を上乗せしなければならなくなる。

 今回インセンティブというかたちで基本給を減らしているのも、余分の出費を回避したかったアスレチックスの策だったと考えられる。

 念願のMLB移籍が叶った今、あとは藤浪投手の投球次第だ。素晴らしいパフォーマンスを見せ新たな高額契約を勝ちとるのか、それとも活躍できずにMLBから1年で撤退することになるのか…。

 今後の藤浪投手の投球を見守っていくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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