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今オフのMLB移籍が囁かれる鈴木誠也を待ち受ける不穏な未来

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今オフのMLB移籍が囁かれている鈴木誠也選手だが…(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【夏から囁かれていた鈴木選手のMLB挑戦】

 ここ最近日米のメディアを騒がしている話題の1つが、広島の鈴木誠也選手のMLB挑戦ではないだろうか。米メディアの報道を日本メディアが後追いしたかたちだが、今も報道が絶えることはない。

 実は鈴木選手のMLB挑戦の噂は、最近になって広まったものではない。球界関係者の間では、この夏から実しやかに囁かれていた。自分のところにも関係者から届いており、すでに有料記事で「米球界ではある大物選手が今オフにMLBに挑戦すると信じられている」と報告していた。

 その当時はまだ米メディアから何の報道もなかったこともあり、名前は伏せていたものの、しっかり鈴木選手の名前を聞き及んでいた。そうした噂が遂にメディアにも広がり、ここ最近の騒ぎになったようだ。

【唯一の選択肢はポスティングシステム】

 まだ鈴木選手や広島から正式発表がないのでここからは仮定の話になってしまうのだが、まだ海外FA権を取得していない鈴木選手がMLBに移籍する場合、その選択肢はポスティングシステムによる移籍に限られてくる。

 ここ数年菊池涼介選手、西川遥輝選手、筒香嘉智選手らがポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指していたので、おおよその流れは理解しておられるだろう。

 念のため現行システムについて説明しておくと、ポスティングシステムを申請した選手がNPBを通じてMLBから公示されると、MLBの全チームが当該選手と契約交渉できるようになる。

 交渉期間は公示日から30日間。この間に選手と契約が成立したチームは、選手に支払う年俸とは別に、契約内容に応じて前所属先のNPBチームに譲渡金を支払う義務が生じる。

 反対に30日間で契約がまとまらなければ、選手は元のNPBチームに残留することになるというものだ。

【全く交渉が進まない新たな労使協約】

 前述通り米メディアからも関心を集めているように、鈴木選手は間違いなく米国でも高い評価を受けている。ポスティングシステムを利用したとしても、獲得に乗り出すチームは必ず現れると信じられている。

 だがそれは、あくまで“通常のケース”での話だ。今オフに関しては、不確定要素があまりに多すぎるのだ。

 その原因になっているのが、12月1日で期限切れとなる労使協約だ。現在MLBと選手会の間で新たな労使協約について協議しているのだが、米メディアによれば「双方ともに相手が合意に向けた建設的な提案をしていないと考えている」とまったくの平行線を辿っており、期限内の合意は「ほぼ不可能」と予測している。

 新たな労使協約が合意されないと、来シーズン以降のぜいたく税の詳細(限度額や支払い額など)が決まらないことを意味する。つまりチームとしては、来シーズンの明確な年俸総額を確定できないのだ。

 特にぜいたく税の対象になりそうな年俸総額の高いチームほど、その影響を受けることになる。つまりヤンキースやドジャースのような人気強豪チームは動きにくくなってしまう。

 そうなれば当然のごとく、例年以上に契約交渉は停滞化することになる。交渉期間が30日間しかない鈴木選手にとっても、契約交渉の停滞化は決して喜ばしいことではない。

【契約交渉が禁止される可能性も】

 それだけではない。米メディアの中には、交渉決裂のまま12月1日を迎えた場合、MLBは12月のある時点で、新たな労使協約が合意されるまでロックアウト(選手たちをすべての球団施設、スタッフから隔離する措置)を実施するとともに、さらにロックアウト中の契約交渉をも禁止する可能性があると予測している。

 もしその予測が現実のものになれば、鈴木選手は新たな労使協約が合意されるまで、ポスティングシステムの申請すらもできなくなってしまう。また交渉の長期化も予測されているので、ポスティングシステムの申請を待機したまま、NPBのキャンプインを迎えるケースも想定されるのだ。

 仮に広島から早めにMLB移籍を認めてもらい、12月1日前にポスティングシステムの申請を行えたとしても、MLBから契約交渉が禁止されてしまえば、必然的に契約交渉期間が短縮されてしまうわけだ。

 いずれにせよ、鈴木選手にとって不利な状況ばかりが揃っていることに変わりはない。果たして彼はどんな決断を下すことになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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