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今や年間200イニングはエースの指標ではなく投手の金字塔に?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季はMLB最多イニング数を記録するザック・ウィーラー投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【米メディアが指摘した今シーズンの投手傾向】

 いよいよ2021年シーズンが大詰めを迎える中、AP通信がつい先日、今シーズンの投手に関する“ある”傾向について報じている。

 これまで一流先発投手の指標の1つとみなされてきた年間200イニングだが、今シーズンはその達成者が激減しているというのだ。

 記事が指摘しているように、9月30日終了時点で200イニング達成者は4投手しかいない。すでに年間40本塁打達成者が5人いることを考えれば、確かに注目に値する傾向といえるだろう。

【10年前の200イニング達成者は39人!】

 繰り返しになるが、元々年間200イニング達成は、それほど難しいものではなかった。

 いわゆるチームの大黒柱の役目を担うローテーションの1番手もしくは2番手投手は、年間で33試合前後の登板が一般的とされてきた。彼らが1試合当たり6イニング以上投げ続ければ、自然と到達できる数字だった。

 とりあえず200イニング達成者の推移を確認するため、過去10年間(短縮シーズンだった2020年は除く)の200イニング達成人数と、そのシーズンの最多イニング数を表にまとめてみた(下記参照)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう。2011年は39人が200イニングに到達しているのだ。ちなみにこのシーズンの年間40本塁打達成者は、わずか2人だけ。どれだけ200イニングの重みが増しているのかが理解できるだろう。

【達成者激減の4つの要因】

 また表を見てもらえば理解できるように、2016年シーズンを境にして間違いなく減少傾向にあるのだが、今シーズンに限っては極端に少なすぎるのだ。

 この点についてAP通信は、4つの要因を挙げている。

 1つ目が、新型コロナウイルスの影響だ。昨シーズンは活動休止を経て、短い準備期間の後に短縮シーズンが実施されたため、どのチームも先発投手の起用法に苦慮し、ケガ予防も含め長いイニングを投げさせないようにしていた。その傾向が今シーズンも継続しているのでは、と指摘している。

 2つ目が、先発投手の投球数が以前にも増して制限される傾向にあることだ。2019年シーズンでは先発投手が100球以上投げたケースは1167回あったのだが、今シーズンはまだ700回にも届いていないという。

 3つ目が、オープナーやブルペンデーの普及だ。2018年シーズンにレイズが同制度を積極的に採用し始めてから、各チームにも波及していったため、先発投手の投球イニングが減少したとしている。ちなみに今シーズンのレイズは、先発投手が80球未満で降板するケースはMLBトップの84回を数えるという。

 そして最後の4つ目が、MLBが今シーズンから導入している26人枠制だ。従来から出場枠が1人増えたことで、多くのチームが投手を1人増やしており、リリーフ陣がさらに起用しやすくなったためだとしている。

【個人的に考えるもう1つの要因】

 あくまで個人的な意見だが、さらにもう1つの要因が考えられないだろうか。

 それは先発投手の負傷だ。今シーズンはジェイコブ・デグロム投手やクレイトン・カーショー投手など、MLBでもトップクラスの先発投手たちが長期離脱を余儀なくされている。

 また大きな負傷ではないが、マックス・シャーザー投手のように、ちょっとしたコンディション不良で先発回避するケースも多かった。

 それを裏づけるかのように、今シーズンここまで33試合以上に登板した先発投手はたった3人しか存在していないのだ。ちなみに2019年シーズンでは20人いたことを考えれば、どれだけ少ないかが分かるだろう。

 この背景にあるのが、パワー派全盛になった現在の潮流では選手のコンディション維持がより難しくなったことが挙げられる。

 そしてもう1つ指摘しておきたいのが、MLBが今シーズン途中から導入した滑り止めの不正使用の取り締まり強化だ。

 投手たちはこれまで公然の秘密だった、日焼け止めクリームなどの使用すらも禁止されてしまい、これまで以上にヒジ、肩に負担がかかったことでコンディション不良を起こしたケースも相当にあったと想像できるのだ。

 これについてはMLBが率先して検証すべきだろう。

 果たして年間200イニングは、このまま投手の金字塔になってしまうのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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