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緊急事態宣言の期間再延長を要請した大阪府のみが続ける無観客試合への違和感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
無観客試合のままシーズンを終了した大阪エヴェッサの選手たち(筆者撮影)

【関西3府県が緊急事態宣言の再延長を要請】

 すでに主要メディアが報じているように、現在緊急事態宣言下にある大阪、京都、兵庫の関西3府県が26日夜に、5月31日で終了する期間の再延長を政府に要請した。

 今回の再延長要請は関西3府県に止まらず、首都圏の4都県も同様に行っており、政府も再延長に同意するというのが大方の見方だ。

 こうしたニュースを目の当たりにし、宣言下にある都府県の住民はどれほどの閉塞感を味わっていることだろうか。かく言う自分自身も、非常勤講師を担当している授業が今年度もオンライン対応を強いられており、なかなか学生たちに会うことができないフラストレーションに苛まれている。

【独自に無観客試合を継続してきた大阪府】

 また5月12日からの宣言延長以降、スポーツライターとしてずっと違和感を抱いてきたのが、政府の判断とは一線を画し、スポーツイベントの無観客試合を継続してきた大阪府の独自判断だ。

 その間どれだけの地元のスポーツチームやファンが悔しい思いをしてきたのか、果たして自治体は、彼らの思いを共有できているのだろうか。

 5月26日の吉村洋文府知事の囲み会見を視聴した限り、再延長後の無観客試合継続について明言はしていないが、「クラスターが発生したかどうかではなく、如何に人流を抑えるかだ」としており、大幅な変更はなさそうだ。

 大手新聞社などでは土日のみに無観客試合を継続すると予測しているが、やはりスポーツイベントの無観客試合継続は避けられそうにない。

【シーズン最高の瞬間をファンと共有できなかった大阪エヴェッサ】

 大阪府の独自判断で最も被害を被ったのが、大阪エヴェッサとファン(Bリーグでは「ブースター」と呼ぶ場合もある)の人たちだった。

 彼らはBリーグ加盟後初のチャンピオンシップ(いわゆるプレーオフ)進出を決め、しかも1回戦(準々決勝)のホーム開催権を獲得することに成功していた。にもかかわらず、彼らは無観客試合で実施するしかなかった。1回戦の他の3試合は大阪府外で実施されているため、もちろん有観客試合で行われている。

 プレーオフは言うまでもなく、どんな競技にかかわらずシーズン最高の山場だ。どのチームもプレーオフ進出を目指しシーズンを戦い、その中で一部のチームしか味わえない栄光なのだ。

 それがホーム開催となれば尚更だ。チーム、ファンが一体となってお祭り騒ぎできる瞬間だ。エヴェッサはその機会をBリーグ5年目でようやく掴み取ったのに、会場にファンを迎え入れることができなかった。

【敗退後涙を流すチアダンサーの姿が】

 そしてエヴェッサは、ファンの声援を受けられないまま2連敗でチャンピオンシップ敗退が決まった。もちろんファンの声援がすべてではないが、いわゆる「ホームコート・アドバンテージ」を受けながら戦うことができなかった。

 また敗れた後でも、本来ならファンからチームに対し、今シーズンの健闘を称える声援でシーズンを締めくくるべきところだが、それも叶わなかった。選手の入れ替わりが頻繁なBリーグでは、今シーズンのメンバー全員を労う機会が、もう2度と訪れないにもかかわらずだ。

 無観客試合ながら最後まで必死に応援を続けたエヴェッサのチアダンサーにとっても、これがシーズン最後の活動となった。彼女らもまた、ファンと交流できないままシーズンを終えることになった。

 リーダーのCHIHIROさんは涙を堪えながら、以下のようにダンサーたちの気持ちを代弁してくれた。

 「今シーズンも試合の中止や延期で私たち自身も会場に来てパフォーマンスできなかった時期があったので、会場に行けず画面を通して応援するというもどかしさというか、悔しさを感じていたので、ブースターさんの悔しさを自分たちが一番分かっていたので、その分自分たちが会場でブースターさんたちの思いを選手に伝えようと話し合っていました」

 エヴェッサやファンのみならず、対戦相手の川崎ブレイブサンダースも無観客試合に寂しさを感じていた。キャプテンの篠山竜青選手が、正直な気持ちを明かしてくれた。

 「こんなこと言っても仕様がないですけど、無観客でやらなきゃいけないというのは…。もちろん大阪さんからしてもすごく寂しいことだと思うし、仕様がないことではあるんですけど、そこは寂しいなというのは感じています」

【福岡堅樹選手の現役最後の勇姿を見られなかった関西のファン】

 被害を受けたのは、エヴェッサばかりではない。花園ラグビー場でプレーオフトーナメント準決勝を実施したトップリーグも、無観客試合を余儀なくされている。

 準決勝に進出した4チームの中に関西圏を本拠地にするチームはいなかったとはいえ、2019年のラグビーW杯の活躍で全国区の人気を誇り、今シーズン限りでの現役引退を表明していた、福岡堅樹選手のプレーを関西圏で見られるのは、これが最後のチャンスだった。

 画面越しではなく、彼の勇姿を直接目に焼き付け、彼に感謝を伝えたかった関西在住のラグビーファンも少なくなかったはずだ。

 無観客試合により、こうしたかけがいのない感動がすべて不意にされてしまったのだ。

【独自判断の無観客試合要請でも補償はなし】

 吉村府知事は「(緊急事態宣言の)効果は明らかであり、(感染者数も)減少傾向にある」と断言している。だがその一方で、有観客試合に切り替えた宣言下の他都府県でも基本的に減少傾向にあることの関連性については、まったく言及していない。前述通り、ただ「人流を抑えること」しか頭にないようだ。

 しかも独自判断で無観客試合を継続している間も、チームに対して何一つ補償をしていないのだ。プレーオフに入り日程変更のできないエヴェッサやトップリーグに対し、大阪府のみ独自の判断で無観客試合を要請しているのだから、やはり最低限の補償はすべきはずだ。

 仮にエヴェッサがあくまで要請だからと言って、有観客試合を実施していたとしたら、吉村府知事を先頭に、各所から猛批判を浴びていただろう。あまりに不条理過ぎはしないだろうか。

 そして今もシーズン中にあるオリックスは、京セラドームでは無観客試合、ほっともっとフィールでは有観客試合という、何ともチグハグなホーム試合実施を余儀なくされている。

 残念ながら大阪府には、心からスポーツを愛する人物が存在しないのだろう。スポーツ文化が蔑ろにされていることに、ただただ悔しさしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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