Yahoo!ニュース

レッドソックス入りが報じられた澤村拓一が今オフFA市場でたった9.6%の複数年契約を獲得した意味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
米メディアでレッドソックスと合意と報じられた澤村拓一投手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【澤村投手がレッドソックスと合意間近か】

 今オフにNPBからMLB入りを目指した4選手の中で、現在も唯一交渉を続けている澤村拓一投手だが、これまで何度か米メディアで報じられていたように、レッドソックス入りがほぼ決定したようだ。

 現地時間の2月15日に、MLB界屈指の敏腕記者として知られる、ケン・ローゼンタール記者が関係者筋の情報として、レッドソックスとの合意をツイートしている。

 現時点でレッドソックスから正式発表はされていないが、ローゼンタール記者によれば、ベースは2年契約で年俸総額は300万ドル。また契約2年間で複数の条件をクリアすれば、2023年の契約オプションが行使され、さらにすべてのインセンティブを加えると、3年間で最大765万ドルまでアップするものになっているようだ。

 ローゼンタール記者が掴んだ情報ということでその信憑性は高く、もうすぐ澤村選手の夢が現実化することになりそうだ。

【この時期での契約合意は幸運だった?】

 まさにスプリングトレーニングを目前に控えた中で契約合意に至ろうとしているわけだが、海外FA権を行使した上でMLB挑戦だったからこそ、澤村投手はここまで我慢しながら契約交渉を続け、契約合意を掴み取ることができた。

 これまでも本欄を含め、多くのメディアが今オフのFA市場の停滞ぶりを指摘してきたが、1ヶ月間の交渉期間しか与えられない、ポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指した他の日本人3選手は、本当に不利な状況に置かれていたことを改めて痛感させられた。その上で契約合意に至った有原航平投手は、本当に運が良かったのだろう。

 実は澤村投手に関しても、FA市場全体で考えれば、スプリングトレーニング前に契約合意できそうなのは、やはり幸運だったといえるのかもしれない。と言うのも、現地時間の2月15日時点で、今も尚未契約のFAリリーフ投手が25人も存在しているのをご存じだろうか。

 その中にはMLB通算132セーブのトレバー・ローゼンタール投手や、同153ホールドを誇るペドロ・ストロップ投手らも含まれているのだ。

【リリーフ投手のメジャー契約率はわずか41.5%】

 さらに付け加えておくと、MLBの移籍情報などを中心に扱う『MLB TRADE RUMORS』によれば、今オフのFA市場で94人のリリーフ投手がリストアップされているのだが、その中でメジャー契約を勝ち取ったのは澤村投手を含め39選手しかない。率にしてたった41.5%でしかないのだ。

 別表を見てほしい。上記サイトを参考にし、今オフのFAリリーフ投手の契約状況をまとめたものだ。メジャー契約以外では、前述通り未契約選手が25人、平野佳寿投手ら海外移籍選手が5人、現役引退選手が1人、マイナー契約選手が24人という内訳になっている。

(筆者作成)
(筆者作成)

 改めて今オフのFA市場の厳しさが理解できるだろう。

【複数年契約に至ってはたった9人】

 しかも、だ。メジャー契約を勝ち取った39人の中で、複数年契約を結べたのは、正式発表前の澤村投手を加えても、たった9人しか存在しない。率にして9.6%の狭き門だ。

 ちなみに合意日時順に紹介していくと、トレバー・メイ投手(2年総額1550万ドル)、トミー・カンリー投手(2年総額475万ドル)、ブレイク・トリネン投手(2年総額1750万ドル)、リアム・ヘンドリックス投手(4年総額5400万ドル)、ペドロ・バエス投手(2年総額1200万ドル)、アンソニー・バース投手(2年総額500万ドル)、ジェイク・マギー投手(2年総額700万ドル)、ケン・ジャイルス投手(2年年俸額は不明)、澤村投手(2年総額300万ドル)──となっている(澤村投手を含め正式発表前の選手も含む)。

 こうして9人を比較しても、澤村投手以外はすべてMLBで確かな実績を残しているリリーフ投手ばかりだ。さらにヘンドリックス投手を除けば、全員が2年契約に留まっている。他の8人から比べれば年俸総額は低いかもしれないが、今オフのFA市場で、このグループに仲間入りしたこと自体に価値があるといえるだろう。

 山口俊投手の例があるように、2年契約を結べたからといって、2年間のMLB在籍が保証されたわけではない。すべては澤村投手の右腕にかかっている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事