Yahoo!ニュース

4年ぶりでも色褪せていなかったオリックス・増井浩俊の先発投手としての高い資質

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
4年ぶりの先発転向で改めて資質の高さをみせたオリックスの増井浩俊投手(筆者撮影)

【増井投手が4年ぶりの先発転向で好投】

 オリックスの増井浩俊投手が4年ぶりに先発に転向し、9月3日のソフトバンク戦に登板。5回を投げ4安打、2失点、8三振、無四球の好投で、見事に結果を残した。

 勝利投手の権利を有しての交代だったが、3番手に登板した富山凌雅投手が2本塁打を浴び逆転を許し、チームは逆転負け。残念ながら2016年9月24日以来の先発勝利は逃してしまった。

 それでもこの日の球数は78球と余力を残しての交代で、先発転向後の初先発試合としては及第点以上の内容だった。中嶋聡監督代行も次回以降の先発登板を確約しているほどだ。

【先発転向で大成功していた過去】

 今回の増井投手の好投は、決して驚くようなことではない。2016年の日本ハム時代にやはりシーズン途中で先発に転向し、8試合に登板し、6勝1敗、防御率1.26を残し、チームのリーグ優勝に貢献している。すでに先発向きの投手であることは実証済みなのだ。

 当時の増井投手は、シーズン終了後に先発とリリーフ登板の違いについて聞かれ、考え方から配球までまったく違うと断言している。増井投手たっての希望で2017年には再びリリーフに戻ることになったが、栗山英樹監督は先発継続を願っていたほど、彼の先発としての資質を高く評価していた。

 そうした背景を踏まえ、今シーズン序盤で投球に行き詰まっているように見えた増井投手に対し、7月の段階で個人的に再度の先発転向を願うツイートを投稿していた。増井投手がかつて語っているように、リリーフから先発の思考法、配球に変えることで、突破口が見出せるのではと感じていたからだ。

【再確認できた増井投手の先発向き思考法】

 そして実際に先発として好投を演じたことで、増井投手の先発としての資質の高さを再認識することができた。

 まず中嶋監督代行は、先発に転向した増井投手の変化を捕手目線で、以下のように分析している。

 「今までみたいに力任せでいって、ボールがあっちゃこっちゃにいかないところが、自分でコントロールできている部分だと思うし、配球的にも繋がりがあり、内容があったと思います」

 増井投手も先発としての投球に対する考え方の違いを、以下のように説明している。

 「先発になってから球も勢いというより制球というところを重視して、丁寧に投げるということをファームでやってきたので、それがちゃんと1軍のマウンドでもできたと思います」

 つまり増井投手は先発する際、打者を力で抑えようとするリリーフの投球スタイルとは真逆で、長いイニング、多くの球数が投げられるよう制球力重視で丁寧に投げることに重点を置いているのだ。

【カーブを駆使し緩急を重要視する配球】

 力で抑え込もうとしない分、より効果的な投球をしていかねばならない。それが配球だ。中嶋監督代行が「配球的にも繋がりがあり、内容があった」と評価したのはその点に他ならない。

 増井投手は試合後、配球について以下のように話している。

 「カーブをうまく使っていきましょうという話で、雅(松井雅人捕手)が本当にうまくカーブを要所で使ってくれたので、それにしっかり応えられましたし、そこは良かったかなと思います」

 要するに先発として増井投手が目指す投球は、「緩急を使ってストライクゾーンに投げ込んでいく」というものだ。その緩急をつくるためには、カーブは必要不可欠な球種なのだ。

 実は2016年の先発転向の際も、増井投手はカーブを有効に活用し、評価もされていた。だがリリーフで投げる際の彼は、滅多にカーブを使わない。当時の彼の説明によれば、1イニングを力で抑えるリリーフではそれほど緩急を必要としないため、自然とカーブを投げない配球になってしまうということだった。

 つまりリリーフの時より先発の方が、増井投手の投球の幅が確実に広がることを意味している。

【理にかなった投球フォームの変更】

 増井投手が先発向きだと再確認できたのは、それだけではない。

 増井投手はリリーフの際には、常にセットポジションから投げていたのだが、先発した試合では走者がいない場面ではワインドアップで投げるようになっていた。この変更にも明確な理由があったのだ。

 「先発(転向)というのが正式になってから、ちょっと先発っぽく投げてみようというか、自分の中でもイメージを変えるというか、フォームも変えて心機一転取り組んできました。

 セット(ポジション)だとセットしている時に肩に力が入っていたので、肩を1回上に持ち上げることで、肩の力がリラックスできているかなと思います」

 気分転換はさることながら、ワインドアップを取り入れることで、先発に適したかたちで脱力して投げられるようになったというわけだ。

 36歳という年齢を考えれば、現在の増井投手の投球を生かせるのは。やはり先発ということになるだろう。

【より強力になったオリックス先発投手陣】

 今回の投球を見る限り、増井投手は現在も、常に安定して投球を期待できる先発投手になれる可能性は十分にある。

 その一方で、中嶋監督代行が指揮をとってから先発投手陣は安定し始め、本欄でも両リーグ初の4試合連続で7イニング以上登板を達成したと報告したばかりだ。

 現在も山本由伸投手を筆頭に、田嶋大樹投手、山崎福也投手、山岡泰輔投手、張奕投手、アンドリュー・アルバース投手と先発ローテーションを回せる投手が存在しているのに、さらにそこに増井投手が加わろうとしている。

 残念ながらチームはペナントレース争いから大きく引き離されている状況だが、リーグ屈指ともいえる先発投手陣にシーズン後半戦の活躍を期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事