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いきなり豹変したアダム・ジョーンズの気づきと中嶋監督代行との対話

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
週末の3試合で4本塁打8打点の活躍をみせたアダム・ジョーンズ選手(筆者撮影)

【中嶋監督代行が3連勝スタート】

 8月20日の西村徳文監督の辞任に伴い、指揮官の座を引き継いだ中嶋聡監督代行が就任から3連勝を飾り、早くもチームの雰囲気を変え始めている。

 就任会見で「(キーマンは)もちろん全員です。全員でやりますし、まだまだ2軍にも選手がいますし、その全部を使っていきたいと思います」と全員野球を標榜していたが、3連勝中は安打を放った選手が塁上でガッツポーズを見せれば、ベンチ内でも皆で盛り上がっていた様は、まさに全員で戦っている姿勢を実感できるものだった。

 25日からパ・リーグもカード3連戦に戻り、いきなり今シーズン完全にカモにされてきたソフトバンク、ロッテとの3連戦が待ち受ける。中嶋監督代行は以下のように話し、とにかく全員野球で立ち向かう覚悟を示している。

 「言い方は悪いですけど、(これまでの試合は)僕がやっていた訳ではないので。(中略)全員が全力でやるしかないので、それをどこまで出せるか、跳ね返されるのかがカギになってくると思います。そこで差が出るのか、いけると確信できるのかの差だと思います」

 今週の2カードは、中嶋オリックスがさらに勢いに乗れるかの正念場といえるだろう。

【遂に本領を発揮したAJ砲】

 ただ中嶋監督代行はこの週末で、今後戦っていく上で心強い材料を手に入れることができたのは間違いない。今回の3連勝を象徴すべき活躍をみせたアダム・ジョーンズ選手の復調だ。

 MLB通算282本塁打の実績を引っさげて、鳴り物入りでオリックス入りしたジョーンズ選手は、中嶋監督代行が初戦を迎えるまで周囲の期待を裏切り続けていたといっていい。

 8月21日時点で打率.235、5本塁打、23打点と、主砲として明らかに物足りない成績だった。特に得点打率は.241と低く、ファンからすればチャンスに弱いというイメージが定着していたはずだ。

 ところが中嶋監督代行が指揮した3試合では、3試合連続本塁打を含む11打数5安打(打率.455)、4本塁打、8打点の活躍をみせた。得点圏打率も1.00(2打数2安打)とチャンスで強さを発揮した。

 中嶋監督代行はジョーンズ選手について「間違いなくこれくらいは当たり前の選手」と話しているように、これこそがチームが彼に期待していた姿といっていい。ようやくその本領を発揮してくれたのだ。

【スイングに迷いがなくなり来た球を打つ】

 この3試合で印象的だったのがジョーンズ選手のスイングだ。これまでは時折ボールを当てに行くような中途半端なスイングをする場面が垣間見られたが、この3試合に限っては、初球のストライクから積極的にバットを出し、しかも常にフルスイングしていた。

 端から見ていても、ジョーンズ選手の中で迷いのようなものがなくなったのではないかと感じられた。2試合で3本塁打を打った22日の試合後の囲み会見で、記者から「これまで考えすぎていた部分があったのか」と聞かれ、以下のように答えている。

 「たぶんそうだと思う。(米国とは)リーグは違うし、試合(戦術)のスタイルも違う。投手たちはフォークを多投するし…。とにかく自分の中では試合をシンプルに捉えようと努力はしてきた。

 今は(打席で)考えないようにしている。自分が成功していた時は、とにかくボールを見て、それをしっかり打つことだけに集中していた。それが日本に来てから、ちょっと考えすぎるようになっていたと思う。

 自分はそれを処理できるほどスマートじゃないからね。今は打席に入ったら頭の中をクリアにして、来たボールを打つことに徹している」

【速球打ちタイプを苦しめたフォーム攻め】

 ジョーンズ選手が説明するように、これまでは日本人投手特有の攻め方に苦しんだことで、必要以上に考えすぎてしまった部分があったようだ。

 彼は自らを、MLB特有の「fast ball hitter(速球打ちタイプの打者)」だと公言する。MLBでは低めの速球を如何に打てるかが、成功のカギを握っているからだ。

 ところが日本ではフォークを多投する傾向にあり、低めの速球だと思ってバットを振りにいくと、そこから変化するため空振りやゴロに仕留められてしまった。そこから対策を考え始めるようになり、いつしか負のスパイラルに入り込んでしまったというわけだ。

 「今は高めのボールを待つようにしている。そして打席で考えるのではなく、ボールを見てそれに反応するようにしている」

 現在のジョーンズ選手は、なるべく低めは捨て、打球が上がりそうな高めの球が来たと思ったら、反応でバットを振ろうとしているのだ。日本対応に何かを変えたというのではなく、彼本来の姿に立ち返ったというのが真実だろう。

【これからもプロとしての姿勢を貫く】

 それと21日の試合前に行った中嶋監督代行の直接対話も、ジョーンズ選手の気持ちを楽にさせる効果があったのかもしれない。指揮官は対話の内容について「内緒です」と煙に巻くが、ジョーンズ選手は前向きな話し合いだったことを認めている。

 「すごく良い対話をすることができた。彼からたくさんの前向きなことを言ってもらえた。素晴らしいプランも聞かせてもらったし、これからも一生懸命プレーするだけだ」

 これを機にジョーンズ選手の打撃が爆発するかどうかは、現時点で誰にも分からない。ただ彼は3日連続でお立ち台に立ち、あまり笑顔を見せることなく、ほぼ同じ内容を繰り返した。

 「野球は難しいスポーツだ。ずっと同じことをやっていても、良く見える時もあれば、悪く見える時もある。

 自分ができることはプロとして、毎日一生懸命プレーすることだ。それをこれからも続けていくことを、この場で皆さんに約束する」

 これからもチームのために全力でプレーを続ける覚悟を明らかにしたジョーンズ選手。周囲からどんな評価を受けようとも、プロとしての彼の姿勢が変わることは絶対にないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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