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マーリンズのクラスター発生にも動じないMLBと選手軽視の姿勢を批判する出場辞退投手

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
選手の健康を第一に考えてないとMLBを批判したデビッド・プライス投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【マーリンズでチーム内クラスターが発生】

 シーズンが開幕したばかりのMLBに早くも危機が訪れた。

 現地時間の7月27日に米メディアが報じたところでは、マーリンズ内で計13人がPCR検査で陽性反応を示したことから、同日に予定されていたマーリンズ対オリオールズ戦と、マーリンズが週末まで試合をしていたフィラデルフィアのフィリーズ対ヤンキース戦が延期された。

 報道によれば、マーリンズは同26日のフィリーズ戦前に4人の選手の陽性反応を確認していたが、そのまま試合を敢行。その後になってさらに9人の陽性反応が明らかになった。

 この結果マーリンズは、マイアミに移動できず遠征地のフィラデルフィアで自主隔離措置がとられ、改めてチーム全員のPCR検査が実施された。また対戦したフィリーズも全員のPCR検査を実施している。

 とりあえず現時点では検査結果を待つしかないが、最悪の場合、マーリンズのクラスターが試合を通じてフィリーズに飛び火する可能性が生じている。

【コミッショナーはシーズン継続を明言】

 マーリンズは24日にフィラデルフィアでシーズン開幕を迎えるまで、地元マイアミで調整した後アトランタに移動し、21、22日にブレーブスとオープン戦を戦っていた。

 マーリンズの感染経路は明らかになっていないが、マイアミ、アトランタともに現在も新型コロナウイルスの感染が拡大している地域で、そうした地域を移動することで、感染リスクが高まったのは間違いない。

 スポーツ専門サイトの『the Score』によれば、MLBネットワークの番組に出演したロブ・マンフレッド・コミッショナーは、今回の事態を受け以下のように現状説明を行っている。

 「今回の件が悪夢(最悪のケース)のカテゴリーに分類されるものだとは考えていない。もちろん我々は選手に感染が広がって欲しくはないし、決してポジティブなことではない。だが我々は、プレーを継続できるプロトコル(計画表)を策定している。(こういった事態に備えるために、)ロースター枠を拡大し、予備枠の選手を用意している。このまま(試合に携わる)人々の健康を維持しながらプレーを継続できると考えている。

 我々は、いずれかの時点で陽性反応が出ることを予測していた。そして今もプロトコルはプレーを継続できる十分強固なものだと楽観視している。今回のようなアウトブレイク(クラスター)が起こってしまったが、我々はシーズンを戦うことができる

 またマンフレッド・コミッショナーは、オーナーたちとオンライン会議を実施したが、シーズン中止については議題に上がらなかったと話している。

【現場で広がる不安感】

 だがマーリンズのクラスター発生は、確実に現場の人々に不安をもたらしている。

 ナショナルズのデイブ・マルティネス監督はメディアに対し、マーリンズのクラスターに関し「正直に言えば、恐怖を感じている」と不安を隠そうとしていない。

 またUSAトゥデー紙のボブ・ナイチンゲール記者によれば、今回のクラスターを受け、ロッキーズのティム・コリンズ投手が残りシーズンの出場辞退を決めたようだ。

【デビッド・プライス投手がMLBを批判】

 さらにサマーキャンプが始まった時点で、今シーズンは無収入になる覚悟で出場辞退を決めていたドジャースのデビッド・プライス投手が、以下のようなツイートを投稿し、MLBを批判している。

 「今こそ我々は、MLBが選手の健康を第一に考えているのかを見極めなければならない。思い出して欲しい。マンフレッドは選手の健康が最優先事項だと話していた。自分が今自宅にいる理由の1つは、選手の健康が第一に考えられていなかったからだ。今もその状態が変わったようには見えない

 プライス投手が指摘するように、MLBが策定したプロトコルが、サマーキャンプ開始当初から上手く機能していたとは思えない。

 検査結果の到着が遅れ、数チームの練習がキャンセルになるかと思えば、MLBがチャーター機を用意しドミニカから選手やスタッフを移送する際、搭乗前にPCR検査を実施せず、チーム合流後に数人の選手の感染が確認されているなどの不手際が発生していた。

 さらにプロトコルが韓国プロ野球(KBO)のものを参考にしていることから、米メディアの間から、感染状況のまったく異なる国のプロトコルが米国で機能するのかという疑問の声も上がっていた。

 今回のクラスター発生がマーリンズ内で止まるのか、それとも他チームに広がっていくのかで、今後の状況は大きく変化することになるだろう。

 いずれにせよ、いつ何時新たなクラスターが発生してもおかしくない状況に、現場の選手たちが不安を募らせていることだけは間違いない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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