Yahoo!ニュース

コロナ対策最高責任者の意見は完全無視? NFLが発表予定の今季スケジュールの非現実性

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NFLがほぼ通常通りのスケジュールを発表する意図は?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【NFLが来週にも今シーズンの日程発表へ】

 ESPNが現地時間の5月2日に報じたところによると、NFLが来週末までに2020年シーズンの公式戦スケジュールを発表する準備を進めているようだ。リーグ広報担当のブライアン・マッカーシー氏からも事実確認がとれている確かな情報だ。

 ただ発表予定のスケジュールは、米国内で新型コロナウイルスが猛威を振るう中にもかかわらず、大幅な変更はなくほぼ通常通りの日程となっており、果たして実現可能なのか大きな疑問を残すところだ。

【政府最高責任者の意見を完全無視】

 ESPNが報じたところでは、スケジュールは9月10日にシーズンが開幕し、通常のシーズン同様に第17週にわたり各チームが計16試合の公式戦を戦うというもの。そしてNFL最大のイベントである、リーグ王者を決めるスーパーボウルが2月7日に実施される予定になっているという。

 さらに公式戦は入場制限を行わず観客を集めての実施を目指し、MLBやNBAなどで検討されているチームを特定の場所に集めて試合を行うという形式を用いず、通常通りホーム&アウェー方式で行う方向で検討しているという。

 これは、新型コロナウイルス対策で政府の最高責任者である、国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士がすでに明らかにしている私案を完全に無視したものだ。

【問題山積で実現は不可能?】

 現時点でNFLが目指すスケジュール運営の実現性を考えれば、かなりあやふやものだ。むしろ現実逃避している感が否めない。

 そもそも現状の中で観客を入れて試合を行うことを考えること自体、かなり現実離れしているとしかいいようがない。

 しかも本欄でも報告している通り、現在各チームの施設はすべて閉鎖状態にあり、全32チームの施設の安全が確認されない限り、選手、コーチらの施設使用は禁止されている。現在各チームが個人レベルで行っている選手指導も、すべてバーチャル化されている状況だ。

 通常ならシーズン開幕に向け、6月から本格的なミニキャンプがスタートすることになるのだが、残り1ヶ月で全30チームが本拠地にする州の非常事態宣言が解除される可能性は限りなく低い。そうなれば必然的に準備期間が削られることになってしまう。

【選手の移動に伴う大きな感染リスク】

 またホーム&アウェー方式も、現状を考えれば相当に危険な行為といえる。

 チャーター便で移動するとはいえ、遠征に行けばホテルに宿泊し、現地で食事を摂ることになり、どうしてもチーム外の人たちとの接触は避けられない。

 仮にチーム内で誰か1人が感染してしまえば、むしろチャーター便は濃厚接触の場を提供することになり、チーム内でのクラスターが発生することにもなりかねない。そうなればシーズン継続など不可能になってしまう。

 そのリスクを、各チームは毎週背負うことになるのだ。チームの精神的な負担は計り知れないものになるだろう。

 これまで米メディアが報じてきたように、NFLでも新型コロナウイルス対策を考慮し、様々な案が検討されてきたはずだ。にもかかわらず、なぜNFLが今この時期に非現実的なスケジュールを発表しようとしているのか、その真意が見えない。

 結局変更を余儀なくされるのであれば、無理をして発表する必要はないと思うのだが…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事