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新型コロナウイルス感染が広がる中ロッカールーム取材継続を訴えるのはメディアのエゴか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大勢のメディアに囲まれ取材を受けるブルージェイズの山口俊投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【プロ4リーグが共同声明で取材規制を発表】

 新型コロナウイルスが世界中に拡散していく中、米国でも感染者数が拡大の一途を辿り、ニューヨーク州では非常事態を宣言する事態に陥っている。

 そんな中、現在公式戦実施中もしくはシーズン開幕を控えたプロ4リーグ(MLB、NBA、NHL、MLS)が3月9日付で共同声明を発表し、新型コロナウイルスの感染と衛生管理の観点から試合前後の濃厚接触を避けるため、ロッカールーム(もしくはクラブハウス)の入室を選手及びチーム関係者に制限することを明らかにした。

 そのため、これまでロッカールーム内で実施してきたメディア対応を、ロッカールーム外に別途設置した指定エリアで実施することになるという。今回の規制はすべてのリーグで3月10日から実施される予定だという。

 この声明はMLB公式サイトでも公開されているので、興味のある方はぜひチェックして欲しい。

【決定に不満の各リーグ記者協会も声明を発表】

 4リーグの決定に対し、取材当事者のメディアはすぐさま反応し、4つのリーク記者協会に加え、フットボール記者協会、アソシエイト・プレス(通称AP通信)スポーツエディター協会の6協会が共同で声明を発表し、取材規制は必要がないことだと主張している。

 彼らも新型コロナウイルスの影響を注視するとともに、衛生管理の必要性を認める一方で、取材規制に関する彼らの主張は以下のようなものだ。

 「我々は数十年にわたり交渉を重ねて獲得した、選手、コーチ、チームスタッフに繋がるロッカールーム入室という権利が、長期間、短期間にかかわらず不必要に制限されないことを保証されるべきだと考える。今後もリーグともに話を持つことを歓迎するとともに、この深刻な健康問題に対処していく」

 こちらの声明についてもAPスポーツエディター協会の公式サイトで確認することができる。

【取材方法が極端に異なる日米】

 実は日本と米国ではスポーツ取材の現場は大きく異なっている。その最大の違いがロッカールーム取材だ。

 日本ではプロ野球をはじめJリーグ、Bリーグ、トップリーグなどの主要リーグではメディアのロッカールーム入室を許可しておらず、試合後にチーム広報を通じてコーチや活躍した選手の記者会見や囲み取材で対応。それ以外の選手に関しても、メディアごとにロッカールームから出てきたところを捕まえて話を聞くのが通常だ。

 しかし米国ではMLBやNBAは試合前からメディアに開放し、試合後になるとすべてのリーグがロッカールームを開放し、各メディアの取材に対応してくれる。

 例えばMLBのビートライター(番記者)の場合、1人で試合記事、選手などの特集記事、チーム関連の短信記事を書かなければならない。そのため試合前のロッカールームではお目当ての選手から話を聞いたり、監督、広報からもたらされた情報の確認を行い、そして試合後に試合に関する取材を行っている。

 それだけロッカールームは、メディアにとって大事な取材場所なのだ。

【不特定多数の濃厚接触は避けられず】

 ただあくまでロッカールームは選手が使用することを目的とした場所であり、常にメディアの取材に対応できる十分なスペースがあるわけではない。そんな場所に多くのメディアが入室すれば、時には人々で充満することもある。

 ヤンキースやレッドソックス、ドジャースのような人気チームともなれば、試合後のクラブハウスは通常の公式戦でも、試合で活躍した選手の取材では二重、三重のメディアが選手を取り囲み、さながら満員電車のような状態になる。

 もしロッカールームに感染者が入室したとなれば、間違いなく集団感染の温床になってしまうだろう。

 しかも試合前のロッカールーム取材は非常に効率が悪く、開放時間内にすべてのメディアが常に取材をしているわけではなく、お目当ての選手が現れるまでメディア同士でおしゃべりをしているケースもある。極端な例ではあるが、中には取材をせずにただロッカールームで時間を潰しているメディアもいる。

 新型コロナウイルスが蔓延する現在、現状のままのロッカールームは選手たちにとって決して居心地のいい場所ではないのだ。

【メディア側にも相応の対応策の提言が必要】

 6つの記者協会が主張する通り、ロッカールーム取材は彼らが長年交渉を重ねて勝ち取った権利なのは間違いない。長年米国で現場取材を続けた後、日本に戻って取材活動を続けていると、改めてロッカールーム取材から恩恵を受けていたのかを実感している日々だ。

 だが闇雲に取材規制は必要ないと主張するだけでは、説得力が足りないだろう。取材中のメディアは全員マスク使用を義務づけるとか、試合前にメディアは全員検温を行うなどの対応措置を講じていかねば、リーグ側も納得してくれないだろう。

 日本では主要リーグが公式戦延期を強いられる中、米国では今後も安全に公式戦が続けられるよう、ぜひ前向きな討議を重ねていって欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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