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所属選手逮捕で無期限の活動自粛を決めた日野自動車の判断は本当に最善策だったのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ここまで過去最高の観客動員数を記録し確実に人気が高まっているトップリーグ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【昨年に続くリーグ所属選手の違法薬物使用】

 新型コロナウイルスの影響で2週間の公式戦延期中にあるラグビーのトップリーグ(TL)に激震が走った。

 日野自動車は3月5日に志賀得一部長名義で声明を発表し、同チーム所属選手が違法薬物使用容疑で逮捕されたことを報告、謝罪するとともに、同チームの無期限の活動自粛を表明した。

 この声明の全文は同チーム公式サイト及びTL公式サイトで確認することができる。

 TLでは昨年もトヨタ自動車所属の2選手が相次いで違法薬物使用容疑で逮捕されており、日本ラグビーフットボール協会を中心にコンプライアンス遵守を徹底指導してきた中での不祥事だけに、TLのみならずラグビー界に与えるダメージは計り知れないものがある。

【表向きチームは企業の部活動】

 今回日野自動車が即座に無期限の活動自粛を決めたのは、同様の措置をとった昨年のトヨタ自動車がモデルケースになっているのだろう。

 声明で逮捕された選手を「弊部部員」と表現しているように、TL加盟チームはすべて企業チームであり、日野自動車も正確に言えば「日野自動車ラグビー部」だ。一企業の部活動と考えれば、所属部員が逮捕される事態になったのだから、企業の責任として活動自粛するという判断は決して間違っていない。

 ただ逮捕された選手はプロ契約であり、日野自動車の社員ではなく、ただラグビーをするためだけにチームに所属している選手だ。

【現在のリーグの公益性の高さ】

 別の側面から考えてみよう。

 現在のTLは、各チームともにプロ契約選手を抱え、海外から有名選手たちが多数所属している。チーム間の移籍も頻繁に行われ、海外リーグからの流入も少なくない。すでに企業の部活動という範疇を超え、社員選手とプロ選手が混在したセミプロリーグであるのは誰もが知るところだ。

 さらに昨年日本で開催されたラグビーW杯の成功で、一般大衆のラグビーへの関心がかつてない高まりをみせ、1月12日にTLが開幕してからも、大勢のファンが会場に足を運んでいる。

 第6節を終了した時点で平均観客動員数は1万1279人に達し、昨シーズン(カップ戦を含め平均5153人)から倍増している状況だ。決して人気チームとはいえない日野自動車でも、6試合で平均8952人を集客している。

 つまり現在のTLは、かつてのようなコアなラグビーファンや企業の社員たちだけが応援に来るような性質のものではなく、プロ野球やJリーグに近い公益性の高いリーグになっているということだ。

 現在日本ラグビーフットボール協会は将来的な国内プロリーグ発足を目指しており、その際はTLがその母体となっていくことになる。

【リーグ全体を考えて責任を果たすには?】

 もし今回の不祥事がプロリーグで起こっていたとしたならば、当該チームはリーグから何らかの処罰を受けるかもしれないが、チームそのものがリーグ途中で活動自粛をするなど絶対にあり得ない。

 実際昨シーズンのBリーグで、コーチ、選手(別々のチーム)が大麻取締法違反で逮捕される事件が起こっているが、当該コーチ、選手は解雇処分になっているものの、彼らの所属チームは通常通りリーグ戦を戦っている。

 繰り返しになるが、企業のラグビー部として所属部員が不祥事を起こしたことで活動自粛するという、日野自動車の決定は十分に理解できる。

 だがその反面で、チームはまだ9試合を残し、その中には人気チームの神戸製鋼やパナソニックなどとの対戦も含まれている。結果的にそうした人気チームの試合を減らすことになるわけで、逆に彼らのファンを失望させることにならないだろうか。

 現在のTLの公益性と将来性を考えれば、チーム全員でファンの前でしっかり謝罪し、最後まで公式戦を戦い抜くというのも1つの責任のとり方だと感じるのは自分だけなのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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