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トップリーグが順調に滑り出したからこそ今日本ラグビー協会が真剣に取り組むべきこと

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
トップリーグ開幕戦では日本代表選手たちもそれぞれ熱いプレーを披露した(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【トップリーグ開幕戦で11万人強の観客動員を記録】

 昨年日本で初めて開催されたラグビーW杯の成功と日本代表の躍進の賜物で社会現象を巻き起こし、日本でのラグビーの認知度は一気に高まりを見せた。

 そんな中、満を持して1月12日に開幕した国内最高峰のラグビーリーグ、トップリーグには、大方の予想通り多くのファンが集まり、今なおラグビー人気の高さを見せつけた。

 国内各地6会場で実施された8試合で、計11万6737人の動員数を記録している。メディア報道によれば、昨シーズンのトップリーグの開幕戦動員数(8万3719人)を3万以上上回ったという。

 ラグビー関係者はトップリーグを、W杯ですっかりラグビーに魅了された“にわかファン”たちの受け皿として期待している状況の中、各メディアも順調な滑り出しをしたと好意的に報じている。

【日本代表選手たちがメディアを通じてPRの日々】

 だが多少意地悪かもしれないが、少し違った視点で今回のトップリーグ開幕戦を考えてみたい。

 W杯終了後から今日まで、ラグビー日本代表に関する話題はメディアの間で“キラーコンテンツ”であり続けた。年末年始も日本代表選手たちをTV画面で見なかった日はないといっていいだろう。

 もちろん彼らが忙しい中メディアに協力し続けたのも、更に日本でラグビーが根付いて欲しいという強い思いからだったはずだ。そのためトップリーグのPRも懸命に続けていた。

 そんな追い風が吹く中で開幕したはずのトップリーグだったにもかかわらず、ラグビーの聖地である秩父宮ラグビー場でさえ会場を満員にすることはできなかった。現在NPBやJリーグがオフシーズンであるのに、だ。

【開幕戦8試合の平均観客数は昨季のJ1リーグ以下】

 確かにラグビー界の中で見れば、今回の開幕戦の観客動員数は歴史的な出来事だったのかもしれない。だがあくまで内輪のことでしかない。

 これをスポーツ界の中で比較すれば、開幕戦8試合の平均観客数1万4592人は、昨シーズンのJ1リーグの2万751人を下回っているし、NPBの3万929人には遠く及ばない。

 当たり前のことだが、5月9日までシーズンが続くトップリーグが今後もファンを会場に集めていくには、Jリーグ(2月22日開幕)やNPB(3月20日開幕)との熾烈な集客争いをしていかねばならないのだ。

 そうした視点から見れば、今回の開幕戦の成功を、手放しで喜んでいいのだろうか。

【W杯と比較し演出不足が目立ったトップリーグ】

 ネット配信を通じて、開幕戦全8試合中、半数の4会場4試合を観戦した。そこで感じたのは、W杯と比較してファンを盛り上げようとする演出が明らかに不足していた。

 現地で観戦したわけではないのですべてを把握しているわけではないが、試合中に何度も選手たちの熱いプレーにファンが歓声を上げる声が聞こえてきた一方で(それだけ選手たちのパフォーマンスが高かった証拠)、あとはこれまでのコアのファンたちが時折太鼓を使って贔屓チームを応援する声がしたのと、プレーが止まる度にルール解説するアナウンスくらいだった。

 確かに秩父宮ラグビー場では選手入場の際に炎を噴出させる演出を施したり、どの会場ともW杯を真似てキックオフの際にカウントダウンを導入していた。だが試合中の演出はまったくといっていいほど確認できなかった。

【競技ルール以上に大切なものとは?】

 もう一度W杯を思い出して欲しい。あの盛り上がりは日本代表の躍進無しではあり得なかった。だがその一方で、日本代表以外の試合でも各国代表チームのファンに混じり、多くの日本人が会場に足を運んだ。

 何故か。それは、ラグビーのルールを知らなくても、会場に行けば素晴らしい時間、空間を堪能できたからだ。

 例えば、試合中にもかかわらず会場内にフレディ・マーキュリーの雄叫びが響き渡ると、それに合わせ応援チームに関係なく会場全員で大合唱を繰り返すシーンが度々あったのを憶えているだろう。

 TV中継を見ていても、会場の一体感が十分に伝わってきた。あの空間演出を、今回のトップリーグ開幕戦からまったく感じられなかった。

【米国在住時代に体験したスポーツ観戦の実態】

 個人的に、米国在住時代にスポーツ観戦に関して興味深い体験をさせてもらっている。

 これまで米国4大スポーツのMLB、NFL、NBA、NHLが何度も日本進出を狙ってきた。MLBは現在も定期的に日本開幕戦を開催している一方で、NBAは16年ぶりにオープン戦を日本で開催したくらいで、NFLとNHLは完全に日本から撤退している。

 その理由は、日本で公式戦やオープン戦を実施しても、現地のような盛り上がりを見せなかったためだ。その裏には、日本人にそうしたスポーツ観戦を堪能できる素地がなかったからといえる。

 にもかかわらず、米国をやって来る日本人旅行者に人気ツアーになっているのが、スポーツ観戦だ。普段はアメフトやバスケ、アイスホッケーにほとんど興味も無い人たちでも、現地で本場の試合を観戦すると、皆一様に興奮し、「また観たい」という声を直接的、間接的に聞いてきた。

 つまり競技のルールなど知らなくても、競技を楽しめる環境に身を置けば、どんな日本人だろうと堪能できるということだ。

【最重要課題は日本国内にラグビー文化を築けるか】

 再びW杯に目を転じて欲しい。

 日本代表の試合以外でも、日本人たちがW杯の会場でラグビーを満喫できたのは、米国で自分が体験したのと同様に、ラグビーを生活の一部として楽しんでいる文化圏からやって来た欧州や南半球の人たちと同じ時間を共有したからだ。

 年明けに約30年ぶりに再会した北海道でラグビー部監督をしている高校教員も、昨年札幌ドームでW杯を観戦し、外国人たちと一緒になってビールを飲み続け大盛り上がりだったと話してくれた。ラグビー関係者ですら、W杯会場の雰囲気は初体験だったというわけだ。

 残念ながらトップリーグには、W杯のようにラグビーを心から満喫する外国人たちが会場にはやってこない。ならば自らが彼らの代わりになって会場を盛り上げる演出をしていかなければ、いかに選手たちが質の高いパフォーマンスを披露し続けようとも、“にわかファン”は簡単に離れていってしまうだろう。

 それはまさに、日本に新たなラグビー文化を築き上げていくことに他ならない。これから本当にトップリーグを盛り上げていくためにも、日本ラグビー協会はそれほどの覚悟が求められるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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