Yahoo!ニュース

年俸高騰化時代が終焉!? MLB平均年俸が14年ぶりに前年割れ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB選手会のトニー・クラーク専務理事(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 AP通信が現地22日に報じたところでは、MLB選手会が毎年統計をとっている所属選手の平均年俸を発表し、2018年シーズンは14年ぶりに前年割れをしたという。

 対象選手は出場枠が拡大される(25人から40人へ)直前の2018年8月31日時点で25人枠もしくは故障者リスト(DL)に入っている968人。その平均年俸は409万ドル5685ドルとなり、昨年(409万7122ドル)をわずかに下回ることになった。前年割れをしたのは実に2004年以来のことだという。

 選手会では1967年から平均年俸の統計調査を実施しており、これまで前年割れしたケースは3度しかなく、2004年以外ではオーナーたちがFA選手の契約額を抑えることで共謀していたことが発覚した1987年と、シーズン途中でストライキが実施されシーズンが短縮された翌年の1995年と、いずれも特殊な事情があった。

 しかしながら選手会ではなくMLBが発表している平均年俸では400万7985ドルと、昨年を0.77%上回っている。ただこちらは選手会よりも数値が低くなっているように、選手会の統計は純粋な年俸だけでなく契約解除料やオプション権破棄料などの金額も含めているため調査結果が異なっている。

 今回の前年割れした原因は、間違いなく昨年オフのFA市場の停滞が招いたものだ。現在の統一労働協約から導入されたぜいたく税制度が大きな影響を及ぼし、多くのベテランFA選手たちが契約できないままグラウンドを去ることになり、ダルビッシュ有投手をはじめとする大物FA選手たちも期待通りの大型契約を獲得することができなかった。間違いなく年俸縮小傾向になっていた。

 だが今年のオフはスローといわれながらも、ブライス・ハーパー選手やマニー・マチャド選手が年俸3000万ドルを超える大型契約を得ると予想されているなど、FA選手たちも続々所属先が決まり始めている。明らかに昨年以上の活況を呈している。

 だがその一方で、すべてのFA選手たちが売り手市場になっているわけではなく、最近の報道ではトップFA選手の1人クレイグ・キンブレル投手が契約希望額を値引きして交渉し始めているという。つまり現在のオーナーたちはやみくもに投資しなくなったということだ。

 これまで選手会が発表した平均年俸をもう少し細かく見てみると、今年の額は前年割れしているとはいえ2015年から比較すれば3.6%増加しているし、2012年から2015年のスパンで見ると23%も増加している。年俸3000万ドルを超える大型契約が続出していた時期でもあり、ここ数年は順調すぎる伸びで推移してきたのだ。

 今年のFA市場を見る限り、選手が希望通りの大型契約を獲得できるような状況ではなくなった。現状が続きMLBやオーナーたちが新たな資金獲得法を発見しない限り、当面は年俸高騰化が鈍化していくことになるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事