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時代に逆行? 人工芝採用を決めたダイヤモンドバックスの思惑と日本への影響

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
来シーズンから人工芝グラウンドになるチェース・フィールド(写真:ロイター/アフロ)

 先月12日のことだが、平野佳寿投手が所属するダイヤモンドバックスが、来シーズンから本拠地球場『チェース・フィールド』の芝をこれまでの天然芝から人工芝に変更することを明らかにした。日本でも報じられていたので、ご存じの方もいることだろう。

 チェース・フィールドは1998年に球団が創設したのと同時に使用されてきた球場で、当時はMLB初の開閉式天然芝球場として注目を集めてきた。以来ずっと天然芝を維持してきたのだが、来シーズンから人工芝に張り替えられることになった。

 今更説明するまでもなく、現在のMLBでは天然芝球場が主流になっている。これまで30チーム中で本拠地球場が人工芝なのは、完全ドーム球場の『トロピカーナ・フィールド』を使用しているレイズと、MLB最初の開閉式ドーム球場『ロジャー・センター』を使うブルージェイズの2チームにしか存在していない。

 1990年代後半からMLB界に巻き起こった新球場建設ラッシュで、それまで人工芝球場を使用していたチームもすべて天然芝球場へとシフトしていった。現在では選手のパフォーマンスや健康を考える上で、天然芝の優位性が広く認識されるようになっている。ある意味今回のダイヤモンドバックスの決定は、時代に逆行するものといっていいだろう。

 実はダイヤモンドバックスは天然芝でずっと問題を抱え続けていた。本来ならば開閉式天然芝球場は普段屋根を空けた状態にしておき、あくまで雨天などの天候不順の際に屋根を閉めるというのが理想的な使用法になってくる。天然芝を維持するために十分な日照時間を与えなければならないからだ。

 だがダイヤモンドバックスが本拠地を構えるアリゾナ州フェニックスは、米国の他都市とは気候条件がかなり違っている。砂漠地帯にあるフェニックスはほとんど雨は降らないものの、夏場は日没後も40度前後の暑さが残る日が続くため、ファンが快適に試合観戦できる環境を整える上で、普段から屋根を閉めることが求められてきた。そのため他の開閉式天然芝球場と比較して、天然芝の維持がかなり難しくなっていた。

 その解決策としてダイヤモンドバックスは人工芝への切り替えを決断したのだが、だからと言って彼らは天然芝から受けられる選手のパフォーマンスと健康面の恩恵を諦めたというわけではない。その点についてデレック・ホール球団社長は、声明の中で以下のように述べている。

 「我々が長期にわたってリサーチした結果、今回採用する人工芝は、以前は難しかった選手のパフォーマンス、健康面での恩恵が確保されることが判った。それが我々が決断する大きな要因となった」

 つまり球団としては、新たに採用する人工芝は従来の人工芝以上に天然芝に近い恩恵が受けられると期待しているのだ。改めてダイヤモンドバックスが採用を決めた人工芝システムを提供する企業の公式サイトをチェックしたところ、人工芝の上に同社開発の緩衝材と砂をまくシステムのようだ。

 ちなみにこの企業はNFLのチームと提携しており、現在32チーム中14チームがこの企業の人工芝を使用しているという。コンタクトスポーツのNFLでもこれだけのチームが採用していることを考えれば、選手の身体的負担はかなり軽減されるということなのだろう。

 現時点で新しい人工芝が選手たちにどう受け取られるのかは判らないし、これまでの人工芝とどの程度の差があるのかも定かではない。ただ仮に新しい人工芝がダイヤモンドバックスが期待しているような有益性を得られるとしたならば、今後レイズやブルージェイズも注目せざるを得なくなるだろう。

 さらに人工芝でも天然芝に近いパフォーマンスと健康上の恩恵が得られることが判明すれば、日本にもそうしたニュースが届くことになるし、選手からも新しい人工芝を要望する声が挙がってきてもおかしくはない。現在天然芝球場より人工芝球場を使用しているチームが多いNPBに、大きな変革をもたらす可能性すらある。

 まずは来シーズンから新しい人工芝を使用するダイヤモンドバックスの選手たちの反応に注目してみたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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