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活躍できなかったトレード選手に新天地を! 特定選手の再トレードを明言したヤンキースGMの思い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ヤンキースのキャッシュマンGMがオフのトレードを明言したソニー・グレイ投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 レッドソックスに敗れ地区シリーズで敗退したヤンキースが現地12日、シーズン総括会見を行い、ブライアン・キャッシュマンGMがこのオフにソニー・グレイ投手をトレードする方向であることを明らかにした。

 グレイ投手といえばヤンキースが先発陣の補強を図り、2017年シーズン途中にアスレチックスからトレードした投手だ。アスレチックスでは先発として44勝36敗、防御率3.42を記録し、2015年にはオールスター戦にも選出される活躍をみせている。まだ27歳(当時)と若く、ヤンキースとしても長期的に先発ローテーションを任せられる投手として期待しての獲得だった。

 だがヤンキースに移籍して以降のグレイ投手は明らかに精彩を欠いていた。昨年はヤンキースとして11試合に登板し、4勝7敗、防御率3.72と勝ち星を伸ばすことが出来なかった。その年のポストシーズンでも0勝1敗に終わった(それでもリーグ優勝決定シリーズでアストロズ打線相手に5回1安打2失点の好投を演じている)。

 チームとしても今シーズンのグレイ投手に雪辱を期待していたが、なかなか活路を見出すことはできなかった。開幕から先発を任され21試合に登板し、8勝8敗、防御率5.56と安定して投球を披露できず、それ以降先発ローテーションから外され中継ぎに回ることになった(スポットで2試合に先発)。中継ぎとして2勝0敗、防御率2.60と復活の兆しが見えたかと思えたが、地区シリーズではロースターから外されていた。

 シーズン総括会見について報じているMLB公式サイトによれば、キャッシュマンGMはグレイ投手について以下のように説明している。

 「残念ながらここでは機能しなかった。彼は素晴らしい才能を持った選手だ。この冬はリロケーション(つまりトレード)を前向きに考えることになるだろう。彼の能力を最大限に生かせることが出来るならば、他に移るのが最善の策だ。もちろん最終決定するのは金額や交換選手などにもよるが、それがマッチするならば、やはり他に移籍させるのがベストだろう。

 彼がその才能を披露してくれることもあったのだが、安定はしていなかった。彼はナイスガイで、自分が知る限りクラブハウスでもすごく愛される選手だった。それでもチームとして機能してはいなかった。そうなれば、うまく機能するような道を模索するのが自分の仕事だと思う。

 他のチームなら彼の才能を最大限に発揮させ、オークランドで最高の先発投手として見せてくれていたような投球ができる機会を与えられるだろう。彼は今でもそれだけの投手だ。健康的な問題はまったくない。時としてこのようなことが起こってしまうことだ。それが我々にとって不幸だった」

 MLB公式サイトでも指摘していることだが、キャッシュマンGMがグレイ投手のトレードに前向きな最大の理由は、彼が本拠地ヤンキースタジアムでまったく力を発揮できなかったからだろう。今シーズンは敵地での成績が7勝5敗、防御率3.17だったの対し、ヤンキースタジアムでは4勝4敗、防御率6.98と完全に苦手にしていた。これはヤンキースの投手として明らかに致命的だ。

 グレイ投手は来シーズン終了後にFA資格を得るが、もし移籍したチームで再び活躍できたとしても、年俸が一気に高騰する可能性は低い。そうなればグレイ投手を獲得したチームも、彼との再契約も十分に可能になってくる。そうした状況を考え合わせて、キャッシュマンGMはトレード成立に大いに期待を寄せている。

 メディアやファンから常に関心を集めるヤンキース、レッドソックス、カブスのようなチームは、選手にとっても特別な環境だといっていい。これまでもグレイ投手に限らず、ある程度の実績がありながらそうしたチームに移籍してきて活躍できずに終わった選手は少なくない。だからこそ、そうした選手たちには救済措置が必要なのだ。

 MLBの場合、マイナーに降格できるオプション権をクリアしたグレイ投手のようなベテラン選手は簡単にマイナーに回すことが出来ないし、25人枠ロースターに入れておく限りメジャーで起用していくしかない。いわゆる“飼い殺し”ができない環境が整っている。そうなればチーム内で期待通りの活躍が出来ないと判断されれば、どうしてもチームから放出する道しかなくなる。ある意味球界全体が“再生工場”として機能しているわけだ。

 グレイ投手のトレードはあくまで皆にとって“win-win”状態だ。グレイ投手は新しいチームで復活を目指せるし、新チームも実績ある先発投手を獲得できる。そしてヤンキースも見返りに選手を補強できるわけだ。誰1人として損をすることはない。

 当然のことだが、トレードがチームの思惑通りにいくこともあれば、失敗することもある。そこで失敗したからまた別のチームに放出するという行為は多少冷淡に見えるかもしれない。だが視点を変えれば、実績ある選手を獲得しながらその能力を発揮する場を与えられなかったチームとして、新天地を探し出すのは責務を果たしているともいえる。

 そんな思いがキャッシュマンGMの言葉に溢れていないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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