監督人事にみる日米格差 過去の成功にこだわるNPBと前に進もうとするMLB

ブルージェイズで2度監督を務めたジョー・ギボンズ氏(中央)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NPBではまだ公式戦が続く中、現役引退や戦力外通告の選手が明らかになるなど、早くもストーブリーグが始まっている。

 監督人事もその1つだが、ここまで巨人の高橋由伸監督、オリックスの福良淳一監督の今シーズン限りの退任が発表になり、すでにオリックスに関しては後任としてヘッドコーチだった西村徳文氏の内部昇格が近日中に発表されるという。また巨人に関しても、主要メディアがこぞって原辰徳氏の現場復帰を有力視していることからも、すでに球団内部がその方向で動いているのは間違いなさそうだ。

 もし原氏の監督就任が決定するとなると、巨人監督として2002~03年の第1期、2006~15年の第2期に続き、3度目の監督復帰ということになる。NPBでは原氏のように、元監督が再び同一チームで監督復帰するケースは決して珍しくはない。だがMLBでは長年取材を続けて来た経験上、そうした事例を思い浮かべることができなかった。

 そこで自分がMLBの取材を始めるようになった1990年代(実際は1995年から)から現在までで、NPBとMLBそれぞれのチームの監督人事の推移をチェックしたところ、日米で明らかな格差があることが分かった。

 まずNPBをみてみると、1990年以降で元監督を再び呼び戻したことがあるチームは、巨人(長嶋茂雄氏、藤田元司氏、原辰徳氏)、阪神(吉田義男氏)、中日(星野仙一氏、高木守道氏)、DeNA(大矢明彦氏)、広島(山本浩二氏)、オリックス(仰木彬氏)、日本ハム(土橋正幸氏、大沢啓二氏)、ロッテ(ボビー・バレンタイン氏)、西武(伊原春樹氏)──と12チーム中9チームに及んでいる。

 ところがMLBになると、シーズン途中で退任・解任した監督に代わり元監督が一時期的に復帰したり、病気などの理由で一時的に休養していた監督が戻ってくるというケースは何度かあったが、元監督が数年後に再び呼び戻され、シーズン開幕から指揮を任されているのは、ブルージェイズ(シト・ガストン氏、ジョー・ギボンズ氏)とブレーブス(ボビー・コックス氏)しか存在しなかった。

 1990年以前であれば、さらにオリオールズでも1968年シーズン途中から1982年まで監督を務めたアール・ウィーバー氏が1986年シーズンのみ現場復帰した例があるので、しっかりチェックすればもっと出てくるのかもしれないが、ただここ30年間だけで捉えるならば、同一チームで元監督が復帰するのはレアケースといっていい。

 ただMLBでは、元監督が別のチームに引き抜かれ監督を務めるのは枚挙にいとまがない。今シーズンだけをみても、30チーム中13チームの監督が、他チームで監督経験を有する人たちだ。それだけ監督業というのは専門職として評価されているからに他ならない。

 なぜNPBとMLBとの間で、こうした格差が生じているのか。それはフロント組織の違いではないかと考える。

 先日本欄で、ドジャースを地区6連覇に導いたアンドリュー・フリードマン氏についての記事を公開しているが、MLBでは監督人事を含めチームづくりの責任者も、フリードマン氏のような専門家が各チームのフロントを渡り歩いている。そうした人物たちが自分の理想のチームをつくるために監督、選手を集めてくるので、過去の実績にとらわれず新しいチームづくりだけを考えている。

 ところがNPBではフロントの要職を親企業からの出向者が占め、1人の責任者にチームづくりを任せるような体制になっていないチームが多いように感じる。また出向者も定期的に入れ替わっていくので、そうなると長期ビジョンでチームを考えようとする人物がチーム内にいなくても仕方がないことだ。

 確かに過去に成功した元監督を呼び戻すのはチーム事情にも詳しいし、ある程度の期待にも応えてくれるだろう。だがその一方で、自らの意思で勇退した元監督ならともかく、チーム事情から袂を分かった元監督については、フロントがこのままではいい方向に向かわないと判断したからのはずだ。それを同じ人物に監督を任せようとすることに矛盾はないのだろうか。

 もちろんMLBでもフリードマン氏のように成功する場合もあれば、チームを完全に壊してしまう失敗例もある。だからといってその職にいる限りは最後まで責任者に任され、他のフロントが介入してくることはないし、新しい責任者を迎え入れれば、またその人物にチームづくりのすべてが託される。

 ここで論じているのはあくまでNPBとMLBの比較であって、どちらが正しいのかを指摘するものではない。ただフロント組織の違いで、監督人事がこんなにも変わってしまうということを理解してほしい。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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