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今さら聞けない人のための初級講座 トミージョンとはどんな手術?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン終了後にトミージョン手術を受けることになった大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスは現地25日、9月上旬に右ひじ内側側副靱帯に新たな損傷が見つかっていた大谷翔平選手がチームの勧めに従い、シーズン終了後の10月第1週にトミージョン手術を受けることを明らかにした。今や誰もがネットで簡単に調べられる時代ではあるが、とりあえずトミージョン手術に関する様々な情報を簡潔にまとめながら、トミージョン手術とは一体どんな手術なのかを改めて考えてみたい。

 まずトミージョン手術とは、ドジャースのチームドクターだった故フランク・ジョーブ医師が開発した内側側副靱帯再建手術で、1974年にその術式を最初に受けたトミー・ジョン選手の名前が手術の総称として使用されるようになった。このジョン選手の復帰成功例を機に、内側側副靱帯を損傷した選手に対して最も有効な医学的措置と認められるようになり、今ではプロ選手のみならず若いアマチュア選手の間でも広く採用されるようになっている。

 トミージョン手術の術式については、『YouTube』で実際の手術の映像を視聴することができる。版権などもあり本欄に添付することは差し控えるが、「tommy john surgery」で検索すれば、ほぼトップでヒットするはずだ。ややグロテスクな映像であり解説も英語ではあるが、損傷した靱帯に代わる腱を前腕から取り出し、それをどのようにしてひじに移植するのかを事細かにチェックすることができるので、興味のある方は一見の価値はあると思う。

 また本欄でも何度か紹介しているが、MLB公式サイトに『TOMMY JOHN FAQ』というコーナーを設け、よくある質問について回答するというかたちでトミージョン手術について丁寧に解説してくれている。

 ここでの解説によれば、トミージョン手術からの復帰期間は「12~16ヶ月」としている。現場で働くメディカルスタッフに直接取材したことがあるが、彼らも「14ヶ月前後」と説明している。つまり大谷選手が10月第1週に手術を受ければ、完全復帰の状態に戻れるのは2019年12月前後ということになり、現在報道されているように、投手としての復帰は2020年以降でないと不可能といっていい。

 ただこのデータはあくまで投手に関してだ。トミージョン手術を受けた野手の場合は、復帰が早まる例が多い。例えばヤンキースのグレイバー・トーレス選手は昨年6月に利き腕ではない左ひじのトミージョン手術を受け、今シーズン開幕から復帰している。またちょっと古い例では、ホゼ・カンセコ選手が1993年に投手として登板し右ひじ内側側副靱帯を損傷し、その年の7月にトミージョン手術を受けているが、彼も翌年のシーズン開幕から復帰できている。こうした例から、大谷選手も打者としてなら来シーズン途中から復帰できるといわれているわけだ。

 またトミージョン手術の復帰率については、MLB公式サイトによれば「70~80%」としている。ただこの数値は「手術前の状態に戻れる」を条件にしており、「再び試合に出場できた」となると、その率はもっと高くなる。ある医学関連サイトに掲載されている医学論文によれば、トミージョン手術を受けたMLB在籍179投手のうち、再びメジャーで登板したのは148投手(復帰率は83%)で、さらにマイナーを含め復帰登板できたのは174投手(同97.2%)に上るというデータもある。

 トミージョン手術後の青写真を簡単に説明しておくと、7~10日間は腕は完全にギプスで固定され、その後ひじ以外の手首、上腕、肩のリハビリが始まる。そして術後6週間あたりから少しずつひじの動きも加わり、そうしたリハビリを約4ヶ月間続けることになる。その後野球選手として本格的なリハビリに移行し、投手としてキャッチボールを再開できるのが4~5ヶ月後、ワインドアップで投げられるのが6ヶ月後、マウンドから投げられるようになるのが7ヶ月後──となる。

 ただトミージョン手術からの復帰に関しては個人差があるのも紛れもない事実だ。リハビリが順調にいく場合もあれば、いかない場合もある。そうした日々の状態を確認しながらリハビリを続けていくことになる。例えば田澤純一投手と松坂大輔投手はほぼ同時期にレッドソックスでトミージョン手術を受けている。以前に2人からリハビリについて話を聞かせてもらった際、田澤投手は移植した腱が強く縛られていたため可動域を広げるのに痛みもあり相当苦労したと話しているが、松坂投手はほとんど気にならなかったと証言している。

 大谷選手のリハビリが順調に進むのか、執刀する医師でさえ分からない。果たして来年のスプリングトレーニングで、どんな姿を見せてくれるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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