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上原浩治の偉業達成で改めて見直しを求めたい名球会の入会基準

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
上原浩治投手は個人成績のみならず日米でリーグ制覇を味わった数少ない選手の1人だ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 10年ぶりに巨人に復帰した上原浩治投手が20日の広島戦で今シーズン10ホールド目を記録し、日米通算100ホールドに達成した。この結果日本人投手としては初となる100勝、100セーブ、100ホールドの「トリプル100」という偉業を成し遂げた。1999年にプロ入りしてから日米で20シーズン目を迎え、様々な浮き沈みを経験しながらチーム事情でその起用法も変わっていく中で、上原投手が自分の仕事をこなしてきた証であり、まさに上原投手の野球人生そのものを指し示した大記録といえるだろう。

 上原投手本人も「日本人でこれから誰も達成できない記録だと思っている」(『SANSPO.COM』より引用)と話しているように、今後日本球界では“一生破られることのない記録”として残り続ける偉大な個人記録になるように思えて仕方がない。

 そこで考えなくてはならないのが、名球会のあり方だ。今更説明する必要もないが、通算2000安打、同200勝、同250セーブを達成したプロ野球人生で素晴らしい“個人成績”を残した選手たちだけが入会できる球界のエリート組織だ。もちろん現行のルール上では上原投手は入会基準を満たしていない。だがプロ野球人生の輝かしい個人記録を称えるという面からすれば、前人未到の大記録を達成した上原投手は十分に名球会入りに値していないだろうか。

 すでに昨年の段階で、荒木雅博選手、青木宣親選手、阿部慎之助選手、鳥谷敬選手──と立て続けに2000安打達成者が出ている一方で、ここ10年間で200勝、250セーブ達成者は山本昌広投手、黒田博樹投手の2人しか存在しておらず、その現状を憂慮し『今や時代にまったくそぐわない?名球会の球界基準』という記事を公開している。

 その際にも指摘させてもらっているが、名球会が誕生した当初とはNPBのシステムが大きく変わり、試合数は増えていく一方で、ローテーションを含め投手の起用法がまったく様変わりしている中で、入会基準が旧態依然としているのは、やはり時代にそぐわないのではないだろうか。

 今回の上原投手の偉業達成でさらに指摘させてもらうならば、今や「先発完投」スタイルは完全に崩壊し、すべてのチームが「完全分業制」を取り入れている。しかも上原投手の野球人生を見ても明らかなように、各投手のコンディションやチーム事情により、投手の役割、起用法も変化しているのが日常になっているのだ。現在の投手を取り囲む環境下で、200勝、250セーブに到達するのはほぼ不可能といえるだろう。

 しかも野手の場合は試合の勝敗にかかわらず安打を打てばいいのに、投手は勝利、セーブと勝ち試合での登板しか記録として加算されないのだから、すでに根本的な部分で不公平感が存在しているのだ。もうすでに名球会入りする投手は“絶滅危惧種”に指定されているような状況なのだ。

 上原投手の偉業はある意味で、名球会はもとより野球ファンの個人記録の見方を変えるきっかけになったのではないか。もし名球会を今後も存続させたいのであれば、勝利、セーブに留まらず、ホールドも加えた合算記録を入会基準にしていかないと対象選手は増えていかないだろう。

 ぜひ名球会は入会基準を早期に変更し、その第1号として上原投手を迎え入れてほしい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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