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夢のBリーグ入りを実現させた“ニュータイプ”の日本人選手の将来性

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
滋賀レイクスターズに入りした紺野ニズベット翔選手(筆者撮影)

 Bリーグの滋賀レイクスターズが6月15日、ニュージーランド出身で20歳の紺野ニズベット翔選手と特別指定選手契約を結んだことを発表した。同選手は日本でのプレー経験はまったくないが、母親が日本人のためBリーグでは日本国籍選手として登録できる異色の日本人選手だ。これまでも千葉ジェッツのアキ・チェンバース選手が同タイプの選手としてBリーグで活躍している。

 紺野選手の特長は身長196センチ、92キロという恵まれたサイズながら、PG(ポイントガード)もこなせるSG/SF(シューティングガード/スモールフォワード)選手だということだ。このサイズでPGをこなせる選手はBリーグでも希有な存在で、それだけでも注目に値する。しかもニュージーランドで年代別代表(紺野選手の説明ではU-16かU-17代表チーム)にも選出された実績があり、その将来性はかなり期待できそうだ。

 今回紺野選手が滋賀入りすることになった経緯は本人からの売り込みだったという。高校卒業後アメリカに渡りネブラスカ州のコミュニティカレッジで2年間プレーしていた彼は、常にBリーグ入りを夢見ていたのだという。

 「ニュージーランドの時のコーチが(滋賀HCの)ショーン(・デニス)の知り合いだったんだ。コーチは自分が日本でプレーしたいのを知っていたので、ショーンにコンタクトをとり、僕の存在を伝えてくれビデオを送ってくれたんだ。(コミュニティカレッジから)他の(4年制)大学に転入できるチャンスもあったと思うけど、とにかく一番の願いがBリーグでプレーさせてもらえるチームを見つけることだったんだ」

 そうした紺野選手の熱意が通じ、滋賀からトライアウトの誘いを受けチーム練習に参加。そして見事に特別指定選手契約を勝ち取ることになったのだ。とはいえ紺野選手は弱冠20歳であり、まだその実力も未知数だ。来シーズンから即戦力としての活躍を期待するのは酷だと思うが、ただチームとしては将来的に日本を代表するPG/SG選手へと成長することを大いに期待している。

 「小学校からバスケを始めた。あらゆるポジションでプレーしてきたけど、個人的にはボールを運べる1番(PG)が気に入っている。でもどのポジションでもできるよ。

 自分の長所は積極的にゴールに向かってペネトレイトし、他の選手にオープンスペースをクリエイトしていくこと。ボールハンドリング、シュートもある程度自信を持っているけど、もっと上手くならなきゃいけないとも思っている。

 もちろん個人的にはできる限り試合に出たいけど、それはチーム事情によるものだから何ともいえない。ただ今は毎日一生懸命練習して少しでも成長し続けシーズンに備えたい。ショーンからはトライアウト後に『期待通りだった。これからもどんどん成長していってほしい』と言われた。Bリーグでプレーできることで選手としてさらに成長できると信じている」

 現在は滋賀を拠点に練習を続けながら来シーズンに備えている。これまで母親の出身地である福島は何度か訪れたことはあるが、滋賀に居住するのは初めての経験。それでも母親とは日本語で会話し、幼い頃に日本語補習校に通っていたこともあり、ほぼ日本語で生活できる。もちろん日本食もまったく問題はなく、すっかり日本の生活を満喫している。この辺りも普通の外国籍選手以上に順応性が高い。

 Bリーグは来シーズンから外国籍選手の出場ルールが変更されることになった。今後は全クォーターで2人が出場できるほか、帰化選手は外国籍選手から除外されるため、チームによっては一度に「外国籍選手2人+帰化選手1人」を同じコートに立たせることができるようになった。そのため今後は帰化選手のみならず、外国籍選手とも対等に渡り合える身体能力を有する日本人ハーフ選手の存在も重要になってくるはずだ。

 これまで日本人ハーフ選手は日本生まれ&育ちの選手がほとんどだが、サイズが大きい分どうしてもジュニア期から4番、5番をまかされる場合が多い。だがニュージーランドで育ったからこそ、紺野選手はそのサイズにかかわらず1番でも十分な経験を積むことができた。もし彼がBリーグで存在感を示せるようなプレーを披露するようなことになれば、将来は海外で育ったハーフ選手をリクルートしていくことがBリーグの更なる発展に繋がり、ひいては代表チームの選手層を厚くすることも可能になってくるだろう。

 まさに紺野選手は今後の活躍次第で、Bリーグに新たな潮流をもたらすことができる存在なのだ。まずは彼がBリーグの舞台でどんなプレーを見せてくれるのか、注目していきたいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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