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牧田和久は左打者を克服できるか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
開幕から1ヶ月が経過しすっかり左打者を苦手にしている牧田和久投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 開幕から1ヶ月が経過し、MLB1年目の牧田和久投手が早くも苦境に立たされている。ここまで(5月1日現在)13試合に登板し、勝敗はついていないが防御率は7.71と、10試合以上登板しているリリーフ陣の中では最下位に甘んじている。ここ最近は登板試合も負け試合に限られている状況だ。

 ここまでの苦境を象徴するような登板となったのが、現地29日のメッツ戦だった。1回を投げ打者10人に対し、2本塁打を含む6安打5失点に終わった。実はこの日対戦したメッツ打線は9人中6人が左打者で、左打者はのべ7人と対戦し7打数5安打と集中打を浴びる結果となった。

 これまで野球のセオリーの1つとして、右の下手投げ投手は左打者からボールの軌道が見やすく不利だといわれてきた。今シーズンの牧田投手はその傾向が極端に現れている。対右者の被打率は.194に対し、対左は.375と完全に苦手にしてしまっている。確かに昨シーズンも対右が.226に対し対左は.278と左打者に弱い傾向があったが、今年ほど極端ではなかった。

 この原因を探る上で気にかかるのが長打率だ。昨シーズンは対右の長打率が.283で、対左が.389だったのだが、今シーズンは対右が.375で、対左に至っては.708と飛躍的に上昇しているのだ。被打率として比較してこれほどまでに長打率が高いということは、安打を許した場合、高い確率で長打を喫しているということになる。これが何を意味するのか。

 つまり牧田投手はMLB打者のパワーに圧倒されているのだ。これまで日本では打ち損じさせることができていたのに、同じように打たせてもパワーで押し切られてしまっているのではないだろうか。これでは牧田投手本来の投球を組み立てるのはかなり困難になってくる。その傾向が左打者との対戦で如実に現れているのだ。

 すでにシーズンも開幕し、ここから投球スタイルを大胆に変えるのは不可能に近い。データが証明しているように、左右関係なく安打を喫した場合は長打を覚悟しなければならい厳しい状況だが、牧田投手ができることは右打者同様に左打者の被打率を下げていくしかない。

 もちろん口でいうほど簡単なことではない。だがそれを実現できなければ、MLBのマウンドにずっと留まることはできない。多少タイプは違うが、同じ右の下手投げとしてMLB11年目を迎えているブラッド・ジーグラー投手の通算の被打率を見ても、対右が.235で、対左は.270と、牧田投手ほど極端な差はない。とりあえず彼のような同タイプの投手を研究しながら自分の投球を見つめ直していくしかないだろう。

 パワー全盛のMLBだからこそ技巧派の牧田投手が活躍する姿は、多くの人にとって痛快この上ないはずだ。だからオープン戦でも好投の度にファンから大きな声援を浴び続けたのだ。とにかく5月以降の牧田投手の巻き返しに期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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