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前節で永吉佑也の代役を務めた晴山ケビンがみせたPFとしての潜在能力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
身長差をものともせずインサイドで存在感を示した晴山ケビン選手(筆者撮影)

 前節の京都ハンナリーズは厳しい戦いを強いられていた。2試合の出場停止処分を受けた永吉佑也選手に加え、右ヒザの故障でジュリアン・マブンガ選手も離脱中と、フロントコート陣が完全に人手不足の状態で滋賀レイクスターズと対戦するしかなかった。

 滋賀の場合ファイ・サンバ選手が帰化選手として登録されているため、「オンザコート(外国人選手を出場させる人数制限ルール)」が1人の時でも常に2人の外国人選手を起用できるので、京都にとって永吉選手が抜けた穴は相当に大きかった。その代役に指名されたのが普段はSFとして先発出場している晴山ケビン選手だった。

 晴山選手についてはかつて本欄でも紹介しているように、高校からバスケを始め1年の夏にインターハイ出場を果たした逸材で、その経歴が井上雄彦氏の不朽の名作『スラムダンク』の主人公とダブることから“リアル桜木花道”と称されている選手だ。

 奇しくも晴山選手の身長は桜木花道と同じ189センチ。東海大時代にPFを務めたこともあったというが、Bリーグではやはり見劣りしてしまうサイズだ。滋賀戦で主にマッチアップしなければならなかったサンバ選手が205センチで、ベンキー・ジョイス選手も202センチと、その身長差は明らかだった。それでも味方選手のサポートを受けながら2試合を通じて肉弾戦を戦い抜いた。

 「正直(いつも以上に)身体にはきてますけど、今日(8日の敗戦後)は悔しさの方がガッと来てますね。永吉さんの代わりという面ではできていたかもしれないですけど、もっと勝利に貢献できるようなプレーができたんじゃないかという中で、永吉さんには申し訳ないという気持ちで一杯ですね。

 (相手のマークが)3番がついていて自分が空いているからスペースとってていいよみたいな、そういう役目も大事なのかもしれないですけど、もっと自分がスクリーンにいったりだとか、もっといろいろできたんじゃないかという思いが浮かんできます」

 結局2試合を1勝1敗のタイに終わり、晴山選手から話を聞かせてもらったのが敗戦後だったこともあり、代役を果たせたか以前にチームの勝利に貢献できなかった無念さが滲み出ていた。だが2メートルを超えるフロントコート選手を相手にまったく力負けしなかった晴山選手のパワーは、これまで以上に彼の大きなセールスポイントになったようだ。浜口炎HCも以下のように評価している。

 「本当に身体を張ってファイトしていたと思います。同じ(出場)20分でも身体のぶつかり合いがある分比較にならないくらい体力を使ったでしょうし、チームとして誰かがでられないとかいった時に誰かのために頑張ろうという考えが出てくると、チームもよくなっていくと思います。

 これで今まで(永吉選手と晴山選手のコンビで)やってきた中で、スイッチしても佑也は外の選手に脚を使ってつけるようになってくると思いますし、ケビンもインサイドで2メートルを超える選手に対し身体を張って守れるようになってきていると思うので、チームとしてもディフェンス面でステップアップできていると思います」

 晴山選手自身もフロントコート選手とのマッチアップという面では、まったく敗北感を味わっていない。

 「もちろんインサイドではミスマッチで相手の方が有利なんですけど、その中でチームメイトがヘルプに来てくれたり助けられたので、チームメイトには感謝しています。永吉さんがいないから全部自分がカバーできるとは一切思っていなかったので、みんなで永吉さんの分をカバーし合おうと考えることができた試合だったんじゃないかと思います。

 ただパワーに関しては自信があるので、最初は自分で守るというつもりでやってましたし、ヘルプが来るからいいやという考えではなくて、最初から自分は1人で守れるんだ、もしダメだったらヘルプに来てくれっていう感じでやっていました。

 でも蓋を開けてみれば2試合ともサンバ選手に二桁得点されているので、そこは自分の中では課題です。今度永吉さんの代わりに出るような場面があったら、身体の使い方だったり、逆にずっと押すんじゃなくて引くディフェンスだったり、いろんな身長が低い選手がやっている技を吸収してやっていこうかなと思います」

 晴山選手が説明するように、所々でサンバ選手に得点を許してしまった場面もあったのは事実だ。だがその一方でジョイス選手に対しては2試合を通じて素晴らしいディフェンスをし、ほとんど仕事をさせていない。晴山選手も「ほとんど身長差を感じなかった」と話しているほどだ。さらに彼がPFに入ったことで、永吉選手にはなかった“プラス効果”を感じることができたという。

 「1つよかった点はサンバとかもう1人のビッグマンが、自分が3ポイントラインの外にいくことによって、ジョシュ(スミス選手)やマーカス(ダブ選手)のヘルプにいきにくい状況があって、その中で2人が1対1をやりやすい様子が見られたので、自分が(PF)で出ていても何かプラスになっているんだなという面ではホッとしています。

 でももう少しやっておきたいと思うのは(自分の方が)スピードがあるので(高さではなく)平面のところで全然勝負ができると思うので、永吉さんがダッシュ&ピックをやっているように自分ももっともっとやっていきたいと思います」

 いずれにせよ晴山選手がその身長に関わらずPFを十分にこなせるようになれば、チームのみならず晴山選手自身にとっても選手としての幅を広げることになる。それは本人も十二分に理解している。

 「もっともっとどっちのポジションもこなせるような選手になれば監督も使いやすくなると思うので、そういった選手を目指して、2番しかできない。3番しかできない、4番しかできない選手というのじゃなく、いろんなポジションができるような、例えば小野龍猛さん(千葉ジェッツ)みたいなインサイドでもアウトサイドでもできるような選手を目指しています」

 話を聞き終わると「花道に近づけるように頑張ります」と笑顔を向けてくれた晴山選手。身体能力の高さなら桜木花道にも決して引けをとらないだろう。そしてその才能をフルに発揮出るようになった時こそ、本当の意味で“リアル桜木花道”と呼ぶに相応しい選手になっているのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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