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八村塁がアーリーエントリーで今年NBAドラフトに挑戦する可能性は?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
まさに八村塁選手にとって大きな飛躍を遂げるシーズンとなった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 優勝候補の1つだったビラノバ大が全米大学選手権(NCAAトーナメント)を制し、男子大学バスケの2017-18シーズンが幕を閉じた。今後はストーブリーグに突入し、有力選手たちの動向に注目が集まることになる。

 今年6月に卒業を控えている4年生の場合は、そのままNBAのドラフトに指名されるかどうかが注目点になってくるが、メディアやファンが気に懸けるのは卒業前の「アンダークラスマン(underclassman)」たちなのだ。すでにご存知の方も多いと思うが、米国の場合「アーリーエントリー(early entry)」制度があり、卒業を待たなくても自らアーリーエントリーを宣言すればドラフト対象選手になれるのだ。そして現在のドラフトはアンダークラスマン全盛時代といえる。

 例えば昨年6月に行われた2017年のNBAドラフトを見ると、指名選手全60人のうち10人のインターナショナル選手を除く50人の大学生の中で4年生はたった13人しかおらず、過半数の37人がアンダークラスマンなのだ。

 どうしてこのような傾向になっているのかといえば、バスケは激しいスポーツで負傷するリスクも高いので、シーズンを通して活躍できNBAから指名を受ける可能性があるうちにアーリーエントリーしておきたいからだ。またバスケの有力選手は比較的黒人が多く、中には貧困家庭出身者もいる。そうした選手たちは1日でも早くプロ入りし家族を支えたいという思いが強く、すすんでアーリーエントリーする選手も少なくない。

 そこで日本人として気になるのがゴンザガ大2年の八村塁選手だ。果たして彼がアーリーエントリーする可能性はあるのだろうか。今シーズンの八村選手は周囲の期待通りに急成長を遂げることに成功した。基本的にはベンチスタートではあったが(先発出場は27試合中2試合のみ)、平均出場時間は主力に相応しい20.7分に達し、平均得点もチーム5位の11.6点を残している(1年だった昨シーズンは平均出場時間4.6分で、平均得点は2.6点)。

 特に12月下旬以降はプレーの安定感を増し、たびたびチームの得点リーダーになる活躍を披露し、さらにその存在感を増していった。最終的にゴンザガ大が所属するウェストコースト・カンファレンス内の優秀選手として表彰される「1stチーム」の10人に選ばれている。2年生で選ばれたのは八村選手を含め2人だけ。ゴンザガ大からは3人選出されているが2年は八村選手だけだ。

 それだけに留まらない。全米大学選手権では惜しくもベスト8入りを逃したが、同大会でもチームを牽引する活躍を続けた。その活躍ぶりは誰もが認めるところで、NBA公式サイトでは3月26日付けで「Who has helped their NBA draft stock most 2018 NCAA Tournament?(2018年NCAAトーナメントでNBAドラフトの株を上げた選手は誰だ?)」という特集記事を掲載しているのだが、そこに挙げられた11選手の中に八村選手が含まれている。すでに米国では八村選手がNBAドラフトに指名されてもおかしくない逸材だと認識されているということを意味するものだ。

 現在Bリーグのサンロッカーズ渋谷に所属するロバート・サクレ選手はゴンザガ大の先輩で、NBAドラフトで指名を受けレイカーズに4シーズン在籍経験のあることで知られる。昨年夏は八村選手と一緒に練習もしていたようで、「ルイは本当に素晴らしい才能を持ち、NBAでプレーできる選手だ。あとは彼次第だよ」と太鼓判を押している。

 ちなみにゴンザガ大の伝統なのか、これまで21人のNBAドラフト指名選手を輩出している中でアーリーエントリーした選手はたった6人しか存在していない。それだけ選手たちは大学でプレーを続けていくことに充実感を感じているということなのかもしれない。ただ過去2年間だけに限れば3選手がアーリーエントリーを選択しており、多少流れが変わってきているようだ。

 八村選手が今シーズン急成長を遂げたことは事実だが、その一方でまだ完成された選手ではなく十二分な伸びしろを秘めていることも衆目が一致するところだ。アーリーエントリーした場合はドラフト指名を受けなくても大学に戻ることができなくなるし、また指名されたとしても実力が足りないと判断されれば開幕ロースターに残れないこともある。八村選手の場合まったく焦る必要はないし、タイミングを見誤れば大きなリスクを背負うことになるのだ。

 サクレ選手によればゴンザガ大のマーク・ヒューHCは相当の人格者らしい。たぶん八村選手も、ヒューHCと将来についてじっくり相談した上で今後の方針を決めていくことになるのだろう。ただ現時点で米国でもこれだけの注目を集める存在になった八村選手の今後が楽しみで仕方がない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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