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グラウンドに川崎宗則がいないシーズン開幕を迎えて

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
いつか必ずこの笑顔と再会できる日を待ち侘びる思いだ(筆者撮影)

 MLB、NPBともに2018年シーズンが開幕した。個人的にはスポーツライターとして24年目、1995年にMLB取材を介して以来24年目のシーズンを迎えた。ただ今シーズンに関しては例年感じていたような高揚感を味わえていない。間違いなくグラウンドに“友”の姿がないからだろう。

 ソフトバンクが開幕直前の3月26日に、川崎宗則選手の自由契約を発表した。取材する立場から“友”という表現が適当かどうかは解らないが、2013年のブルージェイズ時代に初めて取材をするようになってから自分の取材人生の中で川崎選手は間違いなく特別な存在だった。そんな彼が野球から距離を置く決断をしたのだから、発表当初は平常心を保つことさえも苦労したし、今も現実を受け止め切れてはいない。

 海外で取材するライターなら誰しもが体験することだと思うが、異国の地で戦うアスリートを取材していると、同じ日本人としてえも言われぬ連帯感が生まれてくることがある。そうした中で同じ時間を共有すればするほど、単なる記者とアスリートの垣根を越えた“繋がり”が芽生えるものだ。自分自身もそんな経験を何度となくしてきたが、ここ数年に関しては川崎選手とあまりに濃密な時間を過ごすに至った。特に2016年のワールドシリーズ期間中、そして昨年の緊急帰国を決断するに至ったスプリングトレーニング中と、彼の正直な姿を目撃させてもらった。

 これまで本欄や他媒体上でたびたび川崎選手について記事を書かせてもらった。彼との時間を共有し対話を重ねていく中で、なかなか世の中に伝わっていない川崎宗則の本質、実情を知ってほしいという思いからだった。だが今回は初めて川崎選手からの言葉が届かないまま記事にしようとしている(多少の背信感もあり今も心は揺れている…)。

 年明けから複数の野球関係者やメディア関係者から、川崎選手の動向を心配する連絡を受けたこともあった。1月下旬に本人からメッセージを受け取っていたものの、川崎選手を待つという点ではまったく同じ境遇であり「自分も心配しています」と答えるしかなかった。ソフトバンクから発表された川崎選手本人のメッセージにもあるように、今も彼は闘っているのだ。

 川崎選手と最後に会ったのは、両足ふくらはぎ痛でリハビリをしていた昨年9月のことだった。実はその時に軽い口調ではあったのだが、野球選手として体調を維持するのが難しくなっているのを明かしてくれた。2013年に円形脱毛症になった時も本人は笑い飛ばしていたが、心身ともに相当なストレスがかかっていたのは明らかだった。上原浩治投手も指摘している通り、当時から川崎選手は豪快さの裏にすごく繊細な部分を持ち合わせているだと感じていたのだが、まさか想像を超える事態になっていることなど露知らず、その後も回復状況、トレーニング状況を尋ねるメッセージを送っていた。今更ながら痛恨の極みだ。

 繰り返すが、自分にとって川崎選手は単なる取材対象ではない。ここ数年は本音で語り合えるよき“仲間”であり“友”といえる存在だった。グラウンドに川崎選手がいないという寂しい気持ちはあるものの、野球の取材は続けることができる。場所なんて関係ない。とにかく今は1日も早く満面の笑みで再会できる日を待ち侘びるばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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