なぜダルビッシュ有は最終的にカブス入りしたのか?

まさにキャンプイン直前にカブス入りが決まったと報じられたダルビッシュ有投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 日本時間の11日早朝になり、米国の主要メディアが一斉にダルビッシュ有投手のカブス入りを報じた。

 まだチームから正式発表されていないが、合意された契約内容が次々に明らかにされており、カブス入りは確実だと見ていいだろう(しかもオフの間、誤報道を指摘してきたダルビッシュ投手もまったく反応していない)。すでに日本でも後追い報道しているが、改めて確認しておくと、基本合意は6年間で総額1億2600万ドル(約137億3000万円)で、さらにそこにインセンティブがつき、すべてクリアすると最高額は1億5000万ドル(約163億5000万ドル)に達するという。また一部メディアは2年で契約解除できるオプション権が付与しているとも報じている。

 いずれにせよ史上類を見ないほど厳冬続きだったFA市場の中、遂に大物FA選手のトップを切ってようやくダルビッシュ投手の契約が決まったことで、FA市場が一気に動き出す可能性が出てきた。キャンプインを目前に控え、さらに慌ただしさを増しそうだ。

 ただ今回基本合意した平均年俸が2100万ドル(約22億9000万円)でしかなかったことは意外だった。これは田中将大投手が2014年にヤンキースと合意した契約の平均年俸(2200万ドル)を下回り、MLB全体でも30位前後に留まっている。ダルビッシュ投手はFA選手の中でナンバーワンの評価を受け、一時は年俸3000万ドル前後の攻防になるとも予想されていただけに、改めて今年のFA市場の冷え込み具合が浮き彫りになった。

 ところでちょっと私事だが、大谷翔平選手のエンゼルス入りが決まった後の先月11日に、以下のようなツイートをしていた。

 残念ながら牧田和久(ツイートは「マキタ」になってしまいました…)投手は最終的にパドレスを選んでしまったが、ダルビッシュ投手は自分の予想通りになった。状況を考えれば簡単に推測できるものだったのだが、カブスの他にもツインズ、レンジャーズ、アストロズ、ヤンキースなど、ダルビッシュ投手獲得競争に複数チームの名前が浮上していた中、結局チーム、ダルビッシュ投手双方の思惑が見事に合致していたのはカブスだったのだ。

 ダルビッシュ投手が昨年のワールドシリーズ第7戦登板後に語っていた内容を思い出してほしい。彼はドジャースとの再契約を希望しながらも以下のように話していた。

 「(ワールドシリーズ第7戦という)最後の試合に(先発で)投げる投手は1年に2人しかいないので、そこを経験できたことは大きい。ワールドシリーズに出て活躍したいというのが目標になった」

 つまりダルビッシュ投手が所属先として選ぶ重要な条件が、ワールドシリーズを狙える強豪チームということになるわけだ。もちろんカブス以外にもアストロズ、ヤンキース、ドジャースなど、ワールドシリーズを狙えるチームは複数存在していた。しかしその一方で、ダルビッシュ投手を是が非でも必要とし、彼に対しどこよりも大型契約を提示できるだろう強豪チームはカブスをおいて存在しなかった。

 2016年に名将ジョー・マドン監督の下、108年ぶりにワールドシリーズを制覇したカブス。昨シーズンも地区連覇を飾り、リーグ優勝決定シリーズでドジャースと熾烈な激闘を演じたのは記憶に新しい。もちろん今シーズンも優勝候補の一角を形成する強豪チームだ。

 だがクリス・ブライント選手を筆頭に多くの才能溢れる若手選手が主力として台頭し、将来を見据えても絶対的に安泰の野手陣に対し、投手陣はかなり不安を抱えていた。この2年間先発陣を支えてきたジョン・レスター投手、ジェイク・アリエッタ投手、ジョン・ラッキー投手、カイル・ヘンドリックス投手──の“先発4本柱”が、盤石ではなくなってきていた。

 エース格だったレスター投手は34歳になりややピークを過ぎた感があり、最年長39歳のラッキー投手はチームを去った。技巧派のヘンドリックス投手はまだ28歳だが、先発の柱を期待するには荷が重すぎた。本来ならダルビッシュ投手同様にFAになったアリエッタ投手と再契約をすればいいのかもしれないが、昨シーズンの投球内容は、明らかに2015、16年に披露していた圧倒的な投球が影を潜めていた。

 つまりカブスとしては、レスター投手からバトンを引き継ぎ先発の柱を任すことができ、しかも向こう数年間はアリエッタ投手以上に期待が持てそうな先発投手が喉から手が出るほど必要だった。いうまでもなく今FA市場で、その希望に見合う投手はダルビッシュ投手しか存在しなかった。だからこそ冷え込んだFA市場の中でも6人のFA投手を着実に補強する一方で、アリエッタ投手との再契約も両睨みしながら、とにかくダルビッシュ投手にラブコールを送り続けてきたのだ。そして遂にチームの希望が叶い、ダルビッシュ投手という“最強最大のピース”を獲得し、投手陣補強策を完遂することができたわけだ。

 まさに相思相愛だったからこそ実を結んだ今回の契約合意。たぶん冷え込んだFA市場の影響を受け、ダルビッシュ投手側の希望するような金額ではなかったかもしれない。しかしカブスから受ける期待度は、クレイトン・カーショー投手やデビッド・プライス投手らの“年俸3000万ドル”級と何ら変わりはないということを理解すべきだ。

 改めて新天地でのダルビッシュ投手の活躍に期待したい。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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