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急に騒がしくなった大谷翔平、右ヒジの状態とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
突如として右ヒジの状態が注目されることになった大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルス入りを決めたばかりの大谷翔平選手について、早くも米国メディアを騒がせる事態が巻き起こっている。日本ハムがポスティング制度の手続きをする際にMLB側に申請したメディカル・レポートから、大谷選手が今年10月に右足首の手術をしていただけでなく、右ヒジにPRP注射を打っていたことが判明したからだ。

 PRP注射とは最近MLBでも度々採用されている治療方法で、自分の体内から血小板を抽出した後、それを治療したい患部に注射して回復を早める効果を期待するというものだ。過去には日本人メジャー選手でも上原浩治選手、田中将大投手、岩隈久志投手らがPRP注射を受けている。

 ただ米国ではPRP注射がトミージョン手術などの大きな手術を行う前段階の治療法であったり、もしくは手術を回避するために実施される治療法だというイメージもあり、今回大谷選手がPRP注射を受けたことが判明し、にわかに大彼の右ヒジを不安視する報道が登場したというわけだ。

 まずは一連の報道の流れを整理してみたい。まず米国の有力スポーツ専門誌『Sports Illustrated』誌が12月11日に同社サイト上で、大谷選手とジャンカルロ・スタントン選手のヤンキース移籍についてまとめた記事で、その事実を明らかにしたのが最初だった。MLBから入手したメディカル・レポートをチェックした2チームの関係者からPRP注射を受けた事実を聞き出し、さらにエージェントのネズ・バレロ氏に確認をとり記事に盛り込んでいる。

 さらに翌12日になると、今度は『Yahoo! Sports』がメディカル・レポートそのものの入手に成功し、大谷選手は右ヒジに「第1級(軽度という意味)のsprain(捻挫、痛み)」があり、10月20日にPRP注射を受けたとの記述があることをレポートしている。

 同記事によると、メディカル・レポートは11月28日に日本ハムのチームドクターである同愛記念病院の土屋正光名誉院長が作成したものだとしている。またレポートにはPRP注射を受けてから1ヶ月後にはキャッチボールを再開できるだろうとの診断も書かれているという。実際帰国後の大谷選手は鎌ヶ谷の2軍施設でキャッチボールを行っている。

 これらの記事から判断すれば、大谷選手の右ヒジに何か問題があるように感じてしまうだろう。しかしSports Illustrated誌の記事にもあるように、バレロ氏はPRP注射は「あくまで予防的措置」とした上で、別途ロサンゼルスで大谷選手にフィジカルチェックを受けてもらい、それを希望チームに提出している。その上でエンゼルスは大谷投手との契約を決めているのだ。

 そもそもMLBでは選手と契約合意しても、最終的にメディカルチェックで何か問題が見つかれば正式に契約を結ばなくてもいいのだ。例えば岩隈投手が2015年オフにドジャースと複数年契約に合意しながら、フィジカルチェックでチーム側から指摘があり、正式契約がご破算になったのを記憶されている方も多いだろう。つまりエンゼルスも提出されたフィジカルチェックだけでは大谷選手の右ヒジに疑念が残るようであれば、チームドクターに頼んで改めて再検査をすればいいだけのことだった。それをせずに正式契約に及んだのは、エンゼルスが大谷選手の右ヒジに何の不安も感じていない証拠といえる。

 実はSports Illustrated誌の記事が出た際に、某MLBチームでトレーナーを務める人物に確認してみたのだが、彼も記事の内容について「ちょっと大袈裟にしただけでしょう」と解説している。実際彼はバレロ氏から提出されたフィジカルチェックも目にしており、大谷選手の肩肘は現時点で「問題ないでしょう」と説明してくれた。

 さらに日本国内で活動している知人の整形外科医に意見を求めたところ、PRP注射を取り巻く環境が日米で違うことを指摘した上で、以下のように説明している。

 「MLBには故障者リスト(DL)制度があり、注射後に3週間は安静を要するPRP注射はどうしてもDL入りした選手が対象になりますが、日本だと選手が望めば(誰でも)打てる環境にあると思います。たぶん右ヒジに軽度の損傷があったのだと思いますが、ちょうど右足首の手術をすることもあり、あくまで“未病”の段階で補強的な目的で打ったのではないでしょうか」

 以上の情報を整理すれば、今回は「PRP注射=右ヒジ負傷」というものではなく、バレロ氏が主張しているようにあくまで予防的措置だったと考えるのが妥当だろう。

 ちょっとしたニュースでこうした騒動になってしまうのも、すでに大谷選手がMLBで最も関心を集める選手であることの証でもあるのだが、これから来年のキャンプイン以降米国でどんな大騒ぎになるのか早くも心配になってきた。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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